第65話 全員集合
ティッカとふたりで竹棒にまたがって、あやしい雲を目指し飛んださきにいつかの滝が見えてくると、そこにはセンビランとダンカン、それにリチャードにかつがれてエドワードもそろっていた。かれらの視線のさき、うずまき雲の下には銀の鎧をまとった騎士と、サンガとサラとハイヌウェレ。
うずはまがまがしくとぐろを巻いて、あかい雷電をちりちりほとばしらせている。
「なんだありゃあ?」
ティッカが声をあげたのもむりはない。その雲は悪魔が
冥府の口は、銀の鎧の騎士を飲みこもうとしていた。騎士のからだが宙に浮いて、頭はほとんど冥府に飲みこまれようとしているところをサラが足をつかんで必死でこの世につなぎ止めている。
すこし離れてハイヌウェレが、おろおろ歩きまわるあとからあとからキノコが生まれおちて、キノコは怒ったようにぼんぼん胞子をまき散らしている。
「なんだありゃあ?」
たしかに「なんだありゃ」だけど、いまは放っておこうか、ティッカ。
いまだいじなのはうずまきの方。それはまちがいなくサンガの魔法――またとんでもないのを喚びだしたもんだ。とにかく、銀の鎧の騎士がなにものだろうとそのままうずまきのなかにさらわれるのを見過ごしていいわけがない。
「行こう」
エㇽダは低くつぶやいて、ティッカごと竹棒を下へと向けて一直線に急降下した。そしてエㇽダらしいと言うかなんと言うか――きっちり着地にしっぱいしてふたりともふっ飛んだ。おかげでティッカは滝つぼに落っこちた。ごめんよティッカ、こんなエㇽダにいつもつきあってくれてありがとう。
ふっ飛んだもう一方のエㇽダはうずまきの真下までごろごろころがってって、そこにいたサラと目があった。えへへとにがわらいするエㇽダに対してサラは泣きそうな顔だ。
「エㇽダ、サンガを止めて。私が呼んでもこたえてくれないの」
「ひっぱたいた?」
「できないよ」
そりゃそうだ、というかそこで「ひっぱたたく」がさいしょに出てくるのってエㇽダぐらいだよ。まあこの子らしいけどさ。らしいと言えばエㇽダはまわりをばっと見まわして、
「あんたら、ぼけっとしてないで、サラを手伝いなよ」
と、えらそに促した。相手が魔女狩りに燃える騎士だろうが島いちばんの戦士だろうがおかまいなし。
するといままで金縛りにあったみたいにかたまってた男れんちゅうが、はっとしてうずまきの下に駆けよった。それぞれ騎士団長の足をつかんで上にひきずりこまれまいとひっぱりかえす。足のけがのまだ癒えきっていないエドワードまでが団長の足をつかまえた。
みんなうずまきの下にあつまって、そっから離れているのはサンガとハイヌウェレだけ。サンガは意思をなくしたみたいな目をして雲を見ている。ハイヌウェレはさかんにキノコを生み出している。キノコはばふんばふんと波うって、いよいよたくさん胞子をふりまく。そのうち肺のおくまで胞子が降り積もってしまいそう。
うずまき雲の吸引力は強烈だ。みんな総がかりでも騎士団長のからだは宙にういたまま。
「雲なら風で散らしてしまえ」
とエドワードがうずまきを魔法で攻撃したけど、いくら風が吹こうとも雲はびくともしない。
「むだだよ。術者の力がつよすぎる。かれ自身でなきゃこいつは止められない」
団長の足をつかんだままリチャードが言った。体重のかるいリチャードはもう足が浮いちゃっている。
「わかったまかせて、サンガはあたしが止めるよ」
言うなりサンガの目のまえまで駆けよったエㇽダはその頬をひっぱたいた――やっぱりそれなのね。
だけどサンガは目をさまさなかった。魔力の暴走に酔ったみたいに、エㇽダが両手で肩をつかんでがくんがくんとゆらしてもまるでサンガは夢のなか。
「どうして起きないのよう?」
「こんなときお姫さまを目ざめさせる方法は、むかしっからひとつなんだよ」
自信たっぷりにこたえたのはエドワードだ。騎士団長から手をはなして、サンガたちの方へゆっくり近づいてきた。
「方法って?」
「キス」
こんな緊迫した場で、さわやかに言ってのけるからそれでサラも思いだした。王都きっての色男、聖堂騎士団副団長エドワードとはこいつのことか。いろんな女性に手を出しキスだってしょっちゅう、それで本人は「うつくしい
いまもエドワードはまったく自然にまえへ出た。王子さま役ならぼくをおいてほかにない――と確乎たる自信で。
「だめっ」
かれのまえに立ちふさがったのはサラだ。これでもサンガはお姫さまじゃなくってれっきとした男の子なんだもん、目ざめのキスの相手がプレイボーイだなんてかわいそすぎる。サンガにとっちゃはじめてかもしれないキスなんだから相手はちゃんとえらんであげなくちゃ……たいせつなおともだちとして、ね。
「じゃあ、あたしがするよ」
考えなしに言ったエㇽダに、
「だめだっ」
とこんどはティッカとエドワードが同時に言った。
「なんでよ」
「だっておまえらきょうだいだろ。まあ……おまえは気にしないかもしれないけど、おれは、じゃなくってまわりのれんちゅうがだな、その……」
正論なのになんだかティッカはしどろもどろ、そこへエドワードがきっぱり言った。
「とにかくだめなんだ」
そして、視線が自然とあつまるのは――
「私?」
サラが耳までまっかになった。
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