第60話 勘違い男と鈍感むすめ


 一方、副団長ダンカンが向かったさきにいたのはエㇽダだった。

 エㇽダが魔女エリーにふっ飛ばされたのはティッカが漁をしていた河原。はでに水しぶきをあげ川んなかにいきなりあらわれたエㇽダがあんまり唐突で、ティッカはつかまえかけてた大ナマズをするりと逃してしまった。


「どうしたってんだよとつぜん。おかげで今夜の晩飯に逃げられっちまった」

「知らないよ、あたしのせいじゃないってば。あんのばか魔女ぉ、またいたずらしやがったなあ」

「……あいかわらずだな」

 とか言いながら、おもいがけずふたりっきりになった僥倖にこっそりティッカはガッツポーズしてたりするんだな。エリーのキューピッド作戦はサラだけじゃなくってティッカにも恩恵があったみたい。

「なんだか知らねえけど、ここでしばらくやすんでいけば? でっかい魚とれたら分けてやるからさ」

「ほんと? えへへ、今夜はごちそうだあ」

 岸辺にすわってエㇽダはティッカの漁のようすを見まもることにした。ティッカにすれば至福の時間――それを無粋にも終わらせたのはダンカンだ。


「じゃましてわるいが、少年よ」

 密林の奥からダンカンがふたりのまえにあらわれたのだ。ほんと、じゃまなんだから。騎士団でも若いれんちゅうにはちょっとけむたがれるダンカンの本領はここでも遺憾なく発揮されてしまって、でも本人にその自覚はまったくかけらもこけらもない。

「となりの女は魔女と見た。魔女なら狩るのが騎士の役目だ。あぶないからどいておれ」

 言いおわるがはやいかダンカンの剣が一閃、すさまじい衝撃波がエㇽダへ向かった。間一髪、障壁をつくって防いだエㇽダはとっさにこんな魔法が出てくるなんて自分でもびっくり。たぶんエリーの下で修行した日々がむだではなかったってことなんだろけどそれを認めるのはしゃくだから自分の才能のおかげってことにしよう、うん、そうしよう。


「ほお。すこしはやるな」

 ダンカンはにやりとわらった。

「あんただれ? いきなりあぶないなあ、もお。あれ、あんたも白い顔してるんだね、まさかエドのともだちとか?」

 エㇽダはまだ相手を敵だと思っていない。だがダンカンは返事のかわりに二の太刀を振りおろした。剣そのものはエㇽダにとどかないけど、また衝撃波がとんであやうくエㇽダを両断しよってところをこんどはティッカが山刀で衝撃波をうけ流した。

「なにしやがんだ。だれだか知らねえがエㇽダに手ぇ出すってんならおれが相手だ。ただじゃ済まさねえぞ」

 そんなティッカを「まあまあ」とおさえてエㇽダはずずいと前に出る。「エドじゃなきゃ、サラのともだち? 心配しなくていいよ、あんたたちが悪魔じゃないってあたし知ってるから」


 笑止千万、悪魔の手先はきさまの方だろう――とまた剣を振りあげたとき、ダンカンは少女の首に揺れるネックレスに気づいた。

「そのネックレス……まさか。魔女め、エドワードになにをした?」


 ダンカンはなんか勘違いしてるっぽいけどその敵意にまったく気づかないエㇽダのにぶちんぶりも負けちゃあいない。

「なあんだ、やっぱりエドのこと知ってるんだね。さきに言ってよ」

 にまあっとわらってダンカンの方へ歩みよったところへまた剣の一撃。こんどばかりはすっかり心をゆるしたおかげで反応が遅れた。まともに衝撃波をうけふっ飛ばされて、白ワニたちであふれる川におちてしまった。泥でにごった水にあかい血がすじになって流れた。

「エㇽダ!」

 かけつけたティッカが抱きあげると、エㇽダはびっくりした目でダンカンを見ている。ダンカンは剣を上段にかまえてすごんだ

「言え、どこでそれを手に入れた? エドワードになにをした?」


 騎士団のネックレスは本来「エㇽダはぼくのとくべつな女性だよ」ってエドワードからのメッセージなんだけど、ダンカンは勝手にうばったと思いこんだみたい。よかれと思ってわたしたネックレスがあだになるとは、エドワードの心づかいもダンカンの誤解のまえにはまったく甲斐なしだ。ダンカンってこんなやつ。

 一方エㇽダもまだダンカンの怒りを理解していない。この子のものわかりのわるさもダンカンとどっこいどっこいなんだよねえ。


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