第6話:策士

 二学期中間。学年一位は和希。二位に杏介が続き、三位が麗人。

 今回の和希は全教科満点ではなかったが、カンニングの噂は相変わらずだった。収まるどころか、疑われないようにわざと間違えたという噂まで流れ始めた。

 しかし、和希はそんなこと一切気に留めることなく、数学Aの答案用紙を持って杏介の元へ向かった。


「な、何しにきた貴様」


「数学教えて貰おうと思って」


「は?何故俺に聞きに来るんだ」


「職員室行くより近いし。一条くん、ここ合ってたんだろ?1人だけ満点がいたって先生が言ってた。君だろ?」


「……はっ。敵に教えを乞うとはな。貴様にはプライドは無いのか?」


「俺は別に君のこと敵だと思ってないけど」


「ふん。誰が貴様などに手を貸すか」


「へぇ。……とか言って本当は、なんで解けたのか自分でもわからないから説明出来ないんじゃない?」


 和希は小馬鹿にするように笑いながら杏介を煽る。


「そんなわけないだろう。猿でも分かるように解説してやる」


 和希の煽りにまんまと乗せられた杏介は、ルーズリーフを一枚取り出し、解説をしながら問題を解き始めた。


「あぁ、なるほど……そうなるのか。へぇ。分かったありがとう。これ貰っていくねー」


 和希はお礼を言って、杏介が書いた解説を持って帰ろうとした。杏介はそこでようやく和希に乗せられたことに気付き、彼を引き止めた止め、解説を書いた紙を奪い返して破り捨てた。


「あぁっ……」


「ふんっ……」


「まぁ、良いけどね。今のでちゃんと理解したから。ありがとね。一条くん。また来るねー」


「二度と来るな」


「俺から行かなくても自分から来るくせに」


「うるさい。用が済んだら帰れ」


「ほんと意地っ張りだなぁ……」


 和希は苦笑いしながら、ほうきとちりとりで破れた紙を片付けて教室に戻って行った。


「……なんなんだあいつは……」


 調子を狂わされた杏介はため息を吐いた。

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