第2話:和希と麗人
そんな彼にとって学校は学びの場ではなく、友人と会う場でしかなかった。
県内一と囁かれる高校に入学することも、彼にとっては朝飯前だった。当然のように学年代表に選ばれた。
入学式の翌日。彼が教科書を黙読していると、一人のクラスメイトが話しかけてきた。
「えっと、財前くんだっけ」
「うむ。
「椿って、私立の?」
「うむ」
「へぇ。中学から受験するなんて凄いねぇ」
「む?……まさか君、公立の中学に通っていたのか?」
「そうだよ。名古屋市立、
「……塾は?」
「行ってないけど」
「行ってない!?」
「部活で忙しかったから。勉強なら家でできるし」
「なるほど、家庭教師がついていたのか」
「いや、別にそれもないけど」
「なに!?まさかずっと一人で勉強を?」
「うん」
「独学だけでこの学校にトップで入学したというのか?」
「うーん……まぁ、うん。中学の範囲は小学生のうちに終えちゃったから」
「なんと」
「昔から勉強が好きでね。好きすぎて、学校の授業が進むの待ってられないんだ。それで、空いてる時間にどんどん先に進んじゃって」
「……なるほど。凄いな君」
「ただ勉強ヲタクなだけだよ。ところで、財前くんは俺に何か用でもあるのかな」
「あぁ。学年トップがどんな人か知りたくてね」
麗人は杏介と同じ中学に通っており、常に杏介の一歩後ろを走り続けていた。トップを走り続ける一条杏介は、麗人にとって憧れであり、目標だった。
「当然のように彼が代表を務めると思っていた。しかし、違った。選ばれたのは君だった」
「その一条くんに勝った人がどんな人か知りたかったってこと?」
「うむ。……正直、悔しいのだよ。私の目標だった彼があっさり超えられてしまったことが」
「なるほど。君はその一条くんのファンなんだ」
「まぁ、そうだな。……私はね、ずっと、彼に片想いをしているんだ」
「片想い?」
「あぁ、いや、恋愛的な意味ではないぞ。決して。常に優秀な成績を納め続ける彼を尊敬しているんだ。友人になりたいと思っている。しかし、彼はこっちを見向きもしてくれないんだ。彼は上しか見ていないからな。後ろには興味を示さない。だから、追い越して存在をアピールしてやろうと思っているんだが……未だに私は一度も彼の前に立てたことがないんだ」
「熱烈だな」
「私はね、優秀すぎるが故に孤独だったのだ」
「自分で言うんだ」
「うむ。しかし、同い年で自分より優秀な人間に出会い、悔しかった。同時に、嬉しかった。私はずっと、対等の立場で高めあえる友が欲しかったのだよ。だから彼に『私の友達になってくれ』と頼みに行ったら『馴れ合いなんて無意味だ』と一蹴されてしまってね」
「フラれちゃったんだ」
「うむ。見事にな。しかし、君が現れた」
「なるほど。俺を一条くんの代わりにしようということか」
「代わりなんて人聞きの悪いことを言わないでくれよ。私は一途なんだ。君には、彼を追い越すために協力してほしいだけだ」
「勉強教えてほしいってこと?」
「うむ。それと……いずれ、彼も君に興味を持ち始めるだろうからね。先回りしておこうと思って。私はね、優秀な人間こそ、孤独であるべきではないと思っているんだ」
「一人では限界は超えられないから?」
「うむ。三人寄れば文殊の知恵というだろう。より高みを目指すのなら、自分以外の人間の意見も積極的に取り入れるべきだと思うんだ」
「自分一人じゃ気づけないことってあるもんね」
「うむ。彼にも、人と関わることは決して無駄ではないと知らしめてやりたいのだよ」
「分かった。協力しよう」
「ありがとう。安藤くん」
「和希で良いよ」
「分かった。和希」
「よろしくね。麗人」
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