カズキコンプレックス

三郎

第1話:初めての敗北

 一条いちじょう杏介きょうすけは完璧な人間だった。私立椿中学において、学業においても、芸術においても、常に学年のトップに君臨していた。


「お前何位だった?」


「学年?今回は一桁入ったよ」


「マジかよ。すげぇな。一位目指せるんじゃね?」


「いや、一位は無理だって。だってさ、一位二位は中一の一学期からずっと変わってないんだよ?」


 天才には勝てないよ。杏介の同級生は口を揃えて言う。しかし、彼は決して天才ではない。『満点以外は零点』そんな言葉が口癖の完璧主義の父に厳しく育てられ、死に物狂いの努力を積み重ねた結果だった。杏介は、頂点から落ちぬように必死にしがみついていた。

 学年で一位を取ろうが、杏介にとっても、父親にとっても、それは当たり前の結果だった。


 やがて杏介は、中学を卒業して高校生となった。進学先は偏差値70を超える県内一の私立高校。杏介はそこに成績トップで入学し、代表として名前を呼ばれる。はずだった。


『新入生代表、安藤あんどう和希かずき


 呼ばれたのは、別の名前だった。

 その日、杏介は初めて敗北を味わった。

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