第5話 カラー図解 イチから知りたい! 日本の神々と神社~多神教の世界観を組み込みたいあなたに~

 第五回は【カラー図解 イチから知りたい! 日本の神々と神社】である。例によって例による。


 書き手の中にはカラー図解と聞いただけでわくわくする方もいるかもしれない。筆者もその口だ。Kindle Unlimited 読み放題 に入る前はセール情報を眺めつつ駄菓子屋で買い物をする子供のように買っていた。電子の棚の中にはいまだ開かれぬままになっている本も少なくない。定額の読み放題サービスを使うようになった理由の一つもそれだ。


 異世界ファンタジーと言えば神、宗教、教会である。実の所昨今の異世界転移、転生ブームとは若干相性が悪いように思う。出だしにフランクな神様がチート能力をくれるようなタイプの話だと神、宗教、教会を描くのは少し難しい――そんな理由がなくとも難しい題材ではあるが。


 ともあれ、上手く作品に組み込む事が出来れば異世界ファンタジーらしさがグッと増す。目の肥えた読者も呻る事だろう。三つの要素から好きな部分だけを抽出してもいい。


 神々はそれだけで魅力的な題材だ。力を得るソースとして名前を借りてもいい。架空の神々の交友関係や背景を想像しようとした時も日本の神々は非常に役立つ。


 宗教的側面だが、一神教のそれと違い明文化された戒律はないが、精霊信仰、祖霊信仰、英霊信仰等奉る神によって変化する信仰の形態は一神教よりもファンタジーとの親和性は高いように思う。ある地域では火の神が信仰され、その地域はこんなお祭りをして……そんな描き方が出来るのも多神教の醍醐味であり、本書はそういった描写の資料としても大変役に立つ。


 教会的な側面は神社である。この本では信仰別の神社の種類や由来、奉る神々、主要な大社等そういった面にもかなりの分量を割いている。信仰する神の違いによって対立する戦記的な話や、複数の神をフラットに信仰する多神教的な世界観を描く上で役立つだろう。


 と、非常に盛りだくさんな本なので一口に良さを説明するのは難しい。今回は普段よりも文量を費やそうと思う。


 本書は六つのパートからなっており、雰囲気としては砕けた書き方をした参考書と言った感じだ。


 第一のパートは古事記、日本書紀の内容を頭から尻までシーンごとに分けて丁寧に解説している。右側にあらすじ、左側には要点をまとめた図が入るので分かりやすい。


 第二のパートはみんな大好き神々についてだ。小難しい話が苦手な読者はいきなりここから読んでも問題ない。日本の神々を大まかな種類に分けて解説している。天地創造の神々に始まり、アマテラス等の三貴子や出雲の神々、国作りと国譲りの神々、天孫降臨、そして外来の神が変化した習合神に、神となった偉人の人間神、祟りを鎮める為に神にまつられた御霊神と、多神教の懐の深さを存分に見せてくれる。こちらの神々の分類に書き手の独創性を加えるだけで様々なオリジナル設定が生み出せる事だろう。


 第三パートは神社の分布である。影響力や奉る神、そのような存在になった背景などがざっくりとまとめられている。こちらの神社を教会に見立て、秘密組織や治安機構の題材にしてもいい。みんな大好きアマテラスを奉る伊勢信仰だが、こちらは天皇の祖霊神で、神と王と教会の政治的三位一体が分かりやすく可視化されている。優秀な書き手である諸君であれば自作に使える様々な学びと閃きを得る事が出来るだろう。


 第四パートは神社の仕組みである。語源やその本質、社格と言われる格付け制度、ご神体や社殿の建物の配置に役割エトセトラと、こちらも非常に資料的な価値が高い。西洋ベースのファンタジーが主流だが、上手く混ぜ合わせれば主流に乗った目新しい世界観を作れるはずだ。


 第五パートは全国の有名な神社である。多神教と教会を絡めた世界観をイメージするのは難しいだろうが、第五パートに出てくる有名な神宮を信仰の違う教会の本部に見立てれば分かりやすいかもしれない。それらの分布を異世界に置き換えればそのまま異世界での教会の覇権争いに使う事も出来る。


 国によって王に権威を与える神が変わり、それに応じて信仰を取り仕切る教会も変わるといった設定も面白い。個人的に面白いと思ったのは宗像むなかた大社である。こちらは道主貴みちぬしのむちと呼ばれるあらゆる道を司る神を奉っている。この神を奉る教会に大金を払うと別の教会支部にワープさせてくれるという設定が浮かんだ。諸君らもなにかしらの閃きを得られる事だろう。


 第六パートは暮らしの中の神々と神社だ。参拝のマナーやお守りの由来、おみくじ、絵馬や破魔矢、厄年や厄払い等々、身の回りの日本的神秘について解説している。このパートで面白いと感じたのは厄年である。こちらは一般的によくない事が起こる歳とされているが、一方で役目を与えられた歳=厄年という解釈もあるそうだ。


 神社の神事に奉仕する神役を与えられる厄年という解釈事らしいが、筆者は神に見出され世界を救う運命を託された勇者を想像した。その世界の成人の儀式を役歳と称して一年間旅をさせるのも面白いかもしれない。


 以上のように本書には書き手の創作意欲を刺激する様々なネタが随所に並んでいる。書き手でなくても、日本固有の神秘体系を学ぶ上で非常に分かりやすい。時世が良くなれば、この本を片手に大社巡りをするのもいいだろう。


 最後にもう一点。本書の豆知識によると、ことわざの【こと】とは人間の行為、【わざ】は神の意志が籠った行為を指すらしい。言業と書き換えれば、神の力の宿った人の行為、すなわち魔術の言い換えになると筆者は感じた。中二心をくすぐる素晴らしい本ではないか。



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 この企画を始めたのには下心があり、筆者が執筆中の異世界転移物【ジ・アースヒューマンファンタジーショー! 全裸中年に優しい異世界ギャルは実在した!? ワナビ中年の俺が宇宙人に拉致られて異世界で勇者をやるそうです!】の読者を増やしたかったからである。


 ご興味のない読者の方は特に有益な情報はないので無視していただいて結構。ご興味を持っていただいた読者の方は読んで頂ければ幸いだ。内容は一風変わった導入から始まる一見するとテンプレ風の異世界転移物である。大抵の作家が自分の作品は一風変わっていると思っているだろうから、実際にそうであるかは読者の感性で確認していただきたい。


 筆者の内面が多大に反映されているかどうかは分からないが、ちょっとエッチな内容である事だけはここで触れておく。

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