第4話 江戸の卵は1個400円! モノの値段で知る江戸の暮らし〜江戸の物価は結構適当? 〜

 第四回は【 江戸の卵は1個400円! モノの値段で知る江戸の暮らし】である。やはり今回も読んで字の如くである。


 資料として分かりやすい本はタイトルからして分かりやすい。実用書の類は特にそうである。新書系の命名にはライトノベルの長文タイトル文化と似た物を感じる。出だしから脱線した。


 本書はタイトルにあるように江戸時代の物価と暮らしを分かりやすく解説している。異世界ファンタジーを組み上げる上で物の値段は作家の頭痛の種である。貨幣制度はどうするのか、銅貨一枚幾らで換算するか、パンの値段は幾らにするのか。考え出すと書くのが嫌になる。筆者は算数が苦手だ。


 本書の価値は多岐にわたる。江戸時代を一つの異世界のモデルケースとして捉えた場合、そこで流通する物の価値を知れる事は大きい。一文(一文の得にもならないの一文である。忍たまできり丸がよく追いかけているあれだ)、銀1もんめ(花いちもんめのもんめで、こちらは重量の単位である)、一両(がんばれゴエモンでゴエモンが気軽に投げているあれだ)と、江戸時代には大まかに銅貨、銀貨、金貨に対応するような硬貨が出回っていた(間にもう少し細かい区分があるがここでは割愛する。詳しく知りたい方は本書をお勧めする)という。


 江戸時代は長く、レートはその時々で変わったそうだが、本書では一文20円相当と設定し、銀1匁は2000円、一両は128000円と計算している。図鑑と違い本書には多方向の興味深い知識が記載されている。例えば江戸時代の庶民や職人、上級下級武士の月給、年収等である。大工の給料などは火事が起こると数倍に跳ね上がったと言うから面白い。魔物が増える時期は冒険者の報酬も増えるのだろう。


 物価に関しても幅広く取り扱い、その過程で江戸の人々の生活を分かりやすく伝えている。例えばこんにゃくは8文(160円)、がんもどきは10文(200円)、ゆで卵は高くて20文(400円)、初鰹は一匹なんと二両一分(288800円)、他にも江戸市内の郵便は24文(480円)、寺子屋の月謝は200文(4000円)、医者の診察料が銀10匁(20000円)で朝鮮人参が10グラム銀650匁(130000)。なんとアンバランスな価格設定だろう!


 全部現実の話だから納得できる理由がある。そこにまつわる面白い逸話も目白押しだ。江戸時代の人々の生活を知り、同程度の文化レベルを想定した時の物価をイメージする上で本書は非常に役に立つ。中世ヨーロッパ(この場合の中世がなにを示すのかは諸説ある)の資料を集めるのは大変である。筆者としては、作者の応用力を利かせればこちらで代用できると思うのだが、どうだろうか。


 本書には他にも興味深い内容が目白押しである。芝居の値段や庶民と金持ちの席の違い、女遊びの値段等々、庶民と金持ち、両方にしっかり焦点を当てた非常に有用な良書である。江戸時代の生活を知るのにも役に立ち、異世界ファンタジーを組み上げる上で参考になる点は多い。是非おすすめの一冊である。

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