第14話 思わぬ再会と定員オーバー

 氷の滑り台を滑り降り、先に行った上空親子と合流する。俺が運んで来たSUVは上空夫婦の物で間違いなかったようで、既に上空親子と鈴木は乗り込み旦那さんはエンジンを掛けようとしていた。


「クソッ、エンジンが掛からない!」

「そんな! つい最近車検に出したばかりなのに!」


 2階の壁を破壊したのと、車を移動させた時の音とでショッピングモール内に居たゾンビが外に出て来ている。スピードは非常にゆっくりしたものだが、それが逆にこちらを焦らせた。


「想定外だ。急激な冷却でエンジンが掛かりにくくなってしまったんだろう。俺が外で時間を稼ぐからエンジンをかけ続けてくれ」

「分かった」


 ワラワラと一階の入り口からあふれ出てくるゾンビ達。よく見れば素早い子供ゾンビや体が巨大化しているゾンビが少数だが見受けられる。あまり近くで氷を使ってしまうと余計にエンジンが掛からなくなってしまうので、何とか遠距離で始末しなければならない。


 まず、エンジンが掛かった後ならともかく氷で壁を作ってしまうのは論外だ。何よりあれは周囲の温度を急激に下げてしまう。後は氷の剣で一匹ずつ殺すと言うのもあるが、それは数が多すぎて現実的な手段じゃない。


 であればどうするか。


「まずは足止めだ。ゾンビの皆さんには立てなくなってもらおう」


 ゾンビが出て来ている入り口から半径数十メートルの範囲の床を一面氷でコーティングしてゾンビ共の足止めをする。もちろんこれだけで完全に奴らの動きを止めることは出来ない。獲物が見えていれば這ってでも近づこうとしてくるし、何なら他のゾンビを踏み台にして来るからだ。まあ、本格的な対処はここからだから問題ないが。


 さっき駐車場の端に寄せた車。それらの下に同じように傾斜をつけて氷を生成する。傾斜は15度ほどだ。すると、何十台もの車が凄まじい勢いで滑り出し、雪崩のようにゾンビ共を引きつぶした。


「しまった、ちょっとやりすぎたか。車が滑り過ぎてかなり先まで行ってしまった。これじゃあ足止めの障害物にならん」


 前進して来ていた先頭付近のゾンビ共を車で引きつぶしたまでは良かったのだが、大量の車を使ったにも拘らず傾斜の付けすぎで奴らが出て来ている入り口から離れた場所まで車が移動してしまった。これでは入り口を塞ぐことが出来ない。これ以上の氷を使えば外気温が低くなりすぎてエンジンが掛かりにくくなるどころか人体に影響が出てしまう。


「上空さん! まだエンジンは掛からないのか!」

「掛かった! やっと掛かったぞ! 出発する、早く乗り込んでくれ!」

「やっとか!」


 ゾンビ共の足止めに半分失敗してしまったため、ばらけた車の間から少しずつゾンビが這い出して来てしまっている。さらには大きな音を立て過ぎた影響でこのショッピングモールの外からもゾンビが大挙して押し寄せてきてるようで、さっきからゾンビの集団の唸り声が辺りに響き渡っていた。


 これ以上この場に居れば物量に押されて能力を使っても対処出来なくなるかも知れない。早く脱出しなければ。


「金芝さーん!」

「ん? なんだ?」

「金芝さーん! こっちでーす!」


 いざ車に乗り込もうとした時、遠くから誰かが自分を呼んでいる声が聞こえて来た。この場所に居る者で自分の事を知る人間は全員車に乗っているはず。そう思いながらも声のした方向に振り向くと、そこには葵の家に残して来たはずの3人が車の上に乗った状態でゾンビ共に囲まれていた。


「なぜお前たちがここに居る!」

「そんなことは後で話しますから、先にこいつらを!」

「後で必ず説明してもらうぞ」


 そう言いながら俺は全速力で走りつつ両手に氷の剣を作り出す。赤坂達が避難している車の周りには10人程度のゾンビが居るようだが、これなら剣で十分対処出来る。


「フッ!」

「金芝さん後ろっ!」

「分かっている! ハッ!」


 切る度に新しい剣を作り、的確に敵の急所である頭を破壊して行く。動きがのろい大人のゾンビしか居なくて助かった。素早い子供ゾンビが居たら、こうも上手く処理することは出来なかっただろう。


「お前ら! あのSUVのところまで走れ!」

「はい!」


 群がって来るクソゾンビ共を切りつけながら、赤坂達三人に指示を出す。SUVまでの間に居たゾンビは処理し終えているので、走れば十分安全にたどり着けるだろう。


 赤坂達が走って行ったのを横目で見ながら、残りのゾンビを適当に処理して自分もSUVの所まで戻る。面倒なことにショッピングモール入り口から溢れ出ているゾンビはかなりの数が車の間を通り抜けてこちら側に出て来ていた。


 とは言えSUVまで辿り着くにははまだ距離がある。このまま発進することが出来れば何も問題はないはずだ。


 SUVにたどり着くと、中で上空夫婦とスバルが感動の再開を繰り広げていた。そんなことやってる状況じゃないってのに。


「お前ら、感動の再開は後にしてくれ。もうゾンビがそこまで迫ってる、これ以上は能力は使えない。いざと言う時に使えなくなるからだ。エンジンが掛かったならさっさと脱出するぞ」

「金芝君。それが、この車じゃこの人数は乗れそうにないんだ。この車の定員は6人だから2人余ってしまう」

「詰めたら一人ぐらい入らないのか?」

「すまない、トランクにも後部座席の後ろにも物が入っていて、それさえなければ一人は乗れると思うんだが、どかす暇が無くて」


 さっと見ただけだが、確かにこの車の後部座席の後ろのスペースは物がかなり積んであるようだ。これを今からどかしている暇はないだろう。かといって6人乗りに詰めて7人乗れるようにしても、この状況での脱出を考えるとシートベルトが付けられないのは危険すぎる。


「仕方がない。俺と赤坂は別で行く。道は開けてやるから何とか俺の言った壁の傍のアパートまで行ってくれ」

「金芝君達はどうやって行くんだ?」

「ちょっと時間は掛かるだろうが、ゾンビの少なそうな裏の搬入ゲートから迂回して行くことにする。一日で戻れない可能性もあるから、その時はアパートの部屋を使って休んでてくれていい。一応アパートは頑丈な作りになっているが、自分達でもゾンビを敷地内に入れないように工夫してくれ」

「分かった。それじゃあ先に行って待ってるよ」

「ああ。動き出したらこのまま真っ直ぐ進め。大通りまでは道を作ってやる」

「ありがとう。幸運を」

「そっちもな」


 その会話を最後に上空父は車を発進させた。ショッピングモールへの正面ゲートは見事なまでに車で敷き詰められている。これはさっき邪魔な車をどかした時の物も含まれているが、主には逃げ出そうとして事故を起こした車達の残骸だ。


 それらを先ほど車を押しのけた時の要領で脇に押しのけつつ、両側にそこそこの高さの壁を立ててゾンビ共が侵入しないように道を作って行く。


「ちょっと見づらいな。赤坂、その辺の車の上に昇るぞ」

「え、ちょ」


 赤坂の手を引き、車の上に昇らせる。遠くまで見渡せるようになると、正面ゲートから出た先には大量のゾンビと放置車両が敷き詰められていた。


「これはちょっと不味いかもな」


 大量のゾンビと放置車両を同じ要領で脇に寄せ、SUVが通る場所に壁を作って行く。俺の能力は大掛かりな物だと仕込みが無ければ精々500メートルの距離までが使用限界だ。そこからは向こうで何とかしてもらうしかない。見たところかなりのゾンビが俺たちの居るショッピングモールに集まって来ていているので、そこまで離れれば数は少なくなるとは思うが。


 もう気にしてもどうにもならんな。それより問題はこっちだ。


「赤坂、すまんな」

「何がよ?」

「俺しばらく能力使えんわ」

「え?」


 能力使い過ぎて休まないともう能力使えねぇわ。ハハッ!


 どうしよ……。

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