第9話
「お待たせ!ジャック!」
そういうリリスはとても良い笑顔だった。
「体、大丈夫か?」
「へへーん!ジャックのお陰で普段の半分までは回復したかな」
「普段の半分って、お前……」
それはもはや大丈夫ではない気がする。
「良いの良いの。こうやって変に私が元気な時は大体何をするか分かるでしょ?」
「…………行けるのか?」
「行けるのか、じゃない。行くの」
「…………わかった」
もう覚悟は決まってる、ってわけか。
「なら、大ボス含めてボコボコにしますか」
ザザ。ガサリ。
「そうね。やられた分、やり返してやるわ!」
ザッ。
「ーー!ーァ!」
俺達の前にはさっきまでリリスを乗っ取ろうとしていたやつと、似たやつがもう一体。そしてそれを一回り大きくしたやつが一体の計三体がいる。
こいたらが今回のスタンピードの核──つまりはリーダーだな──と見て間違いないだろう。
そうと分かれば。
「ぶちのめしますか」
「木っ端微塵にしてあげる」
・~・~・~・
さて、スタンピードにおけるボスの倒し方でもっとも楽なのはボスのもつ"核"を壊すことだ。これが出来れば一瞬で終わるのだが、まあ相手もそんな弱点を容易にさらけ出すはずがなく。
「無難に攻撃ぶつけて削るのが手っ取り早いか」
「そうね。それで核を見つけたらすぐに壊せばいいし」
「じゃあ俺はどんどん切り刻んでいくから後衛よろしく」
「わかったわ。あと、今日はさっきも言ったけど普段の半分しか力が出ないからね。頑張っても最高レベルから一つか二つは威力が落ちると思う」
「ん。大丈夫。そっちの仕事が重くならないよう俺が上手くやるから」
「そっか。頼りにしてるよ?」
「任せとけ」
というわけなので全力で行きます。リリスに良いところを見せたいし。
──だからさ。
「本気になった俺にその程度の攻撃は当たらないのよ」
前三方向から同時に枝を使った攻撃が飛んできたが、剣の腹を使って行き先をずらす。
立て続けに鋭く尖った葉が連続で打ち出されるが、それもよけたり逸らしたりして防ぐ。そんでもって飛んできた葉の一部を弾き返して敵にカウンターをお見舞いする。
「ーー!ーー」
敵に表情らしきものは見当たらないので細かい判断はしかねるが、多少は動揺している様子。
……やっておいてあれだが、剣の腹で自分の遠距離攻撃を返されたら驚きもするだろう。俺もやられたら驚く自信がある。
「おっと?」
思考に気をとられていたら次の攻撃が来た。
いや、正確に言えばそれは攻撃ではない。
「…………は?」
なんと敵はそこら辺に散らばった木葉は風で舞い上がらせ自分達の体に補強していたのだ。
「おいおい、これじゃあひたすら今までのを繰り返すだけだぞ?」
どうするかと悩んだその時。
後ろのリリスから提案が。
「──二人でため技やる?」
「…………やるしかないか」
ため技とはその名の通り二人で一つの技を打つのだが、それにためをかけることで威力を上げる方法だ。
ただ当然問題もあって。
「体力持つか?」
「そこはまあ気合いで」
お察しの通りためを行っている間、攻撃も防御出来ないため敵の攻撃をもろに食らうことになるのだ。
まぁ、リリスも気合いで耐えるというしここは踏ん張りどころか。
「なら、あの技で行こう。俺達が最初に生み出した技」
「ああ、あれね。良いんじゃない?」
「じゃあ、ほら」
「うん」
この技は二人で手を繋ぐことで発動可能になる。原因はいろいろあるが、それはまた別の話。まあ簡単に言うなら、この技を編み出した時の俺達の気持ちかな。
「さあ、かかってこい」
「覚悟はできてるわよ」
その言葉を吐いた直後、答えるかのように攻撃が激しくなる。枝、木葉、棘、締め付け、容赦なく襲ってくる。
「ぐぅ……!」
「流石、スタンピードの核…………普通の敵に比べて威力が桁違いね……」
リリスの言う通り、威力が高く耐えるのは結構辛い。
でも、
「俺達なら乗りきれる!」
「当然!これくらいやらなきゃSランクの名が廃るってものよ!」
ドンっ、という音が聞こえるわけではないがそれくらいの気迫をもってしっかり地面を踏みしめる。
攻撃が一瞬止んだ間にリリスとのため技を放つ準備を開始。
二人の感覚、意識を同調して魔力を循環させる。
途端に流れ込んでくるリリスの暖かい魔力。向こうにも俺の魔力が流れ込んでいると思うが、やはりこの感覚は心がほっとする。
隣に相棒が、恋人が、大切な人がいると実感できるこの感じ。俺はこの時が一番好きだ。
「なあリリス」
「何かしら?」
「覚えてるか?初めてあった時のこととか、この技を初めて打てた時のこと」
「もちろんよ。事故みたいな感じで出会って、なんだかんだ息があうから二人で技を練習して。そして色々ありながらも今、こうしてここに立っているわ」
「そうだな。こんな場所で終わりたくなんかないよな」
「当たり前でしょ」
「なら、浴びせてやろうぜ!俺達の本気」
「万全な状態じゃないのに本気なの?」
「おい、それは言わない約束だろ?」
「ふふっ、そうね」
「ははっ」
敵もここぞとばかりに全力の攻撃をしてきている。正直にいってもうこれ以上は限界に近い。
それでも俺達はやるのだ。その理由があるから。
まだまだ隣の人とともに歩んで行きたいから。
だから、この技をお見舞いする。
出来た時の技の形からとったこの名前。でもそれが俺達らしい。
「行くぞ」
「行くわよ」
「これが、」
「私たちの、」
「「全力だ!!」」
「「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます