第5話


「ふぅ…」



ご飯を食べ、お風呂からあがって伸びをする。

…人の家のお風呂だったから、妙に落ち着かなかった。



「いいお湯だった…」


「そうだね」



無月が一緒に入っていたことについては別にいい。

見た目的には私の方が幼いから別に問題にはならないだろう。

人の倫理的なものはあまり詳しくは知らないが。



「無月はいつも何時に寝てるんだい?」



現在時刻は9時前。

人間からしたら寝るにはいい時間だと思う。

私は基本的にそこまで睡眠は必要ないが。



「10時過ぎくらい?」


「ふむ」


「何して遊ぶ?」


「ん?ああ、何でもいいよ。無月がしたい事をすればいい」



無月の部屋にはゲーム機もあったし、退屈しのぎには事欠かないだろう。

神社でもゲームはやったことはあるし、対戦ゲームやレースゲームでも無月の相手は恐らくできる。



「それで―「ガタンッ!」あー…」


「な、なに…?」



上からの物音。

今の位置は三階の廊下。無月の部屋に戻る途中だ。

その上となると、屋根裏しかない。

…気配が強くなった。



「霊好ちゃん…」



物音は鳴りやまず、無月が不安がっている。

屋根裏への入り口に悪意あるものを弾くお札を貼ったけど、この様子じゃ暴れて破られてしまう。



「無月。私のそばを離れないように」



この気配は霊とか悪霊なんてものじゃない。

もっと異質なものだ。

妖怪…にしては妖気をあまり感じない。これはもっと醜悪な…。



『バチィン!!』



「…お札が破れた。込める霊力を少なくしすぎたか」


「っ…」



ギィ…と音と共に屋根裏への入り口が開く。

出てきたのは…



『アアァ…ァァ…』


「これは…」


「な、なにあれ…!?」


「無月、あまり見ない方がいい」



出てきたのは人型をした何か。

全身毛むくじゃらでとても人間であるとは言えない。顔すら見えないほど毛深いし。

大きさは子供くらいだが、手足のバランスが不相応で異様に長い。

気持ち悪さの正体はこうゆう事か…。

神への供物…簡単に言えば生贄。それが神に必要とされなかった存在。

それだけじゃなく、生贄として殺された後も乱雑に扱われてきたようだ。

せめて弔ってやってもいいのに、殺した奴らは供養すらしなかったみたいだね。

でも、そんなのがなぜ無月の家の屋根裏にいるんだろう?

普通ならありえないことなのに。

だけど…。



「力自体はそこまで強くないね」



念のため周囲に結界を張っておこうか。

万が一にでも逃がしたら大変だし、無月の母親にも被害が行くかもしれないから、かなり強力なお札を使う。



『ア…ァァア…』


「ひっ…!」


「無月、大丈夫。私が守るから」


『アアアァァ…!!』


「っ!思ったより動きが速い…」



声を上げ、こちらに走って突撃してくる。

幸い廊下は広くて無月を抱いても余裕をもって避けられる。

…壁に激突しても構わず暴れている?

理性…というか知能がない?

明らかに元が人間だったような動きじゃない。



「何か、別のものが混じってるね。小動物…ネズミじゃないな。ハクビシンあたりか?詳細はわからないけど、生贄に出されるとき、一緒の空間に動物を詰め込まれてたみたいな感じがする」


「霊好ちゃん、毛が…!」


「毛?…なるほど」



廊下にこいつの毛が散乱している。

…掃除しないと危険だね。

かなりの邪気があるから、人間が触ったらまずロクなことが起きない。



「霊月・祓」


『アアアァァァァアア!!!!』



霊力を込めたお札を貼るが、やっぱり暴れるね。

動物が混じっているとしぶとくて完全に祓うまで数秒かかってしまう。

結界を張ってあるから、壁とかへのダメージはゼロだけど毛は散乱してしまう。

元が人間だったもので、実体に近いから毛は残るのだ。

掃除しないと…。



『アアアァァ…』


「…後で神社に小さくはなってしまうけどお墓くらいは作ってあげるよ。次生れてくるときは、こんな姿にならないようにね」


『アァァ…』



光に包まれ、人型の毛むくじゃらが消滅する。

名前は知らないけど、散乱している毛を埋めてあげれば何とかなるだろう。

場所は取れないから、とても小さくなるだろうけど。



「ふぅ…。無月、ひとまず終わったけど、毛には触らないようにね。危ないから」


「わ、わかった…」


「…ちょっと気分が悪そうだね。少し待ってて」


「うん…」



神力を使い風を出し、毛を一点に集めて回収する。

こうゆう時に色々出来る神力は便利だ。

やろうと思えば水だって生み出せる。



「よし。無月、大丈夫かい?ちょっと邪気に当てられてしまったのかもしれないね。ベッドで横になった方がいいよ」


「わかった…」



変なのに憑かれてる気配もないし、宿っている気配もない。

邪気に当てられたのと疲れたからだろう。

しばらく休ませた方がよさそうだ。



「霊好ちゃん…」


「あぁ、大丈夫。私はここにいるよ。だから、おやすみ。無月」


「うん…おやすみ…」



…さて。

なんであんなのがこの家にいたのか、少し調べる必要があるね。


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