L-3:: 花火
「
わたしたちに銃口を向けたドロイドたちを見て
「は? わたしがやってるんじゃない、見れば分かるでしょ! 何者かが
思わず叫ぶ。全身に浴びたスキンヘッドの血が、ひどく臭う。
こんなことはこの港のシステムを使わないと出来ないはず。港のシステム全体がわたしに敵対しているように見える。――マーカス、あなたがやっているの? ピサロの指示で?
ふざけやがって、あの慇懃丁寧野郎が。
どっちにしろ、これで辻褄が合う。わたしたちを監禁しようとしながら、わたしのドロイドに警備を任せたことは、わたしのドロイドをハックする気でいたのなら説明がつく。
最初に気づくべきだった。
しかし、まだ腑に落ちない点がある。単にわたしたちを殺すなら、こんな回りくどいことをする必要はないはずだ。それに、さっきのスキンヘッド、あいつはいったい何の話を――いや、それ以前に、あいつはなぜ生きていたんだ? それに〈コンパニオン〉たちに何かを――
見ると、彼女たちはただお互いに顔を見合わせるばかりだ。
思考を巡らす。ここから脱出しないといけない。しかしどうやって?
ドロイドたちはじりじりと、わたしたちとの距離を詰めてくる。何をやってるんだ。これは脅迫なのか? 要求はあるのか? 何か言えよ。ただ殺すのなら、さっさと殺せよ。
いや、待って。ドロイドをハックしてわたしたちを殺したり脅したりするなら、わたしの
そうか、当たり前だ。この港のシステムでは、
奴らは、
わたしは
それを数秒のうちに終えると、声を出さず、〈コンパニオン〉たちに暗号化された通信を送る。
「ポッドが来る。
突然のことに、三人は目を丸くしている。しかしわたしは、本気だ。
射出。
全身が銀色の膜に包まれる。
直後、衝撃。
数機のポッドが一斉に衝突し、部屋の壁面が大破する。向こう側は宇宙空間だ。わたしも、〈コンパニオン〉も、ドロイドも、みな真空へと投げ出される。飛び散った港の破片がビシビシとわたしを襲う。
サルベージモード。管理者権限優先。
すると宇宙空間を漂うわたしにポッドの一つが近づいてきて、球体が真ん中で割れてぱっくりと口を開き、呑み込むみたいにしてわたしをスポンと回収する。
気圧が回復する。
成功した!
周囲には無数の破片が散乱し、宇宙空間に投げ出されたドロイドたちが浮かんでもがいている。〈コンパニオン〉たちの姿は見えない。まあ、彼女たちは自力で何とかするだろう。
見ると、七機のポッドがさっきの部屋に到達したようだ。この至近距離では汎用のシールドなんて出せないし、
ポッドの目標座標を再設定。とりあえず、遠くに行く。出力最大!
全身に加速度を感じて、わたしを乗せたポッドは
仕方ない。連結部分を爆破して放棄――強制切断。
船が自由になる。
気が付くと、マーカスから
間髪入れず、
度重なる砲撃を受けても、こちらのシールドはびくともしない。当たり前だ。わたしの
港から距離を取らずに、核融合エンジンON。
――また、できない。しまった、そりゃそうだ。
管理者権限、
船尾から強烈な光が放たれ、巻き添えで
壮観!
マーカスの身体が壊れていく。バーテンダーの格好をしたドロイドのことがふとよぎったけれど、すぐに頭から追い出した。どうでもいいことだ。事情はどうあれ、マーカスはわたしに敵対したのだから。
ぶち壊してやる。
わたしのポッドはすでに
振り返ると、
パーティの本当の締めくくりに、ふさわしい。
さようなら、マーカス。
ほのかな赤い光となって遠ざかっていく
そんなことより、一番重要なことが残っている。わたし自身の逃げ場。
まずは、
ついてる。わたしは
あとは、必要な時だけわずかに核融合エンジンを点火して――そのくらいなら、たとえ探知されても野良の宇宙船と見分けがつかないだろう――小惑星たちの重力でランダムにスイングバイを繰り返せばいい。軌道は
仕上げに、乗組員たちから、
これで、わたしの
わたしは、どこかに身を隠して、二、三日してから
完璧な計画だ。
さて、わたしはどこへ行こうか。このポッドはいま、宇宙空間を当てもなく進んでいる。たいした信号は発していないとはいえ、ポッドには光学迷彩機能はないから、このままだと危険だ。
ピサロはもちろん、帝国も信用できない。もしも本当にあのスキンヘッドが関係していたのだとしたら、尚更だ。
ピサロの縄張りでも、帝国の支配が及ぶ範囲でもない、孤立した場所。そんな理想の場所は、この宇宙にはほとんどない。
ひとつだけ、可能性がある。彼らのところだ。無知な
彼らの拠点は、くじらと呼ばれている。太陽系には、大小合わせて十二匹のくじらが漂っている。それらを渡り歩きながら、彼らは暮らしている。
宇宙を泳ぐ、巨大なくじら。わたしもこれまで、その中に入ったことはない。
でも、そのうちいくつかは座標が公開されている。人間に座標を公開したところで、彼らに大した影響はないということなのだろう。
ここから一番近いのは――#12。うん、すごく、近い。この距離なら、このポッドでも数時間で着く。わたしは、ついてる。
目標座標をくじら#12に再設定する。
でも、彼らが本当にわたしを匿ってくれるかどうかは、実際はよく分からない。こちらから事前に連絡を取ることも出来ないだろうから、とにかく行ってみるしかない。運が悪ければ、中に入れてもらえず、追い返されて終わりだろう。下手すればポッドごと撃墜される可能性もないわけじゃない。わたしのことを覚えていてくれる誰かが#12にいなければ、それで終わりだ。そもそも、わたしは以前にも、決して彼らに受け入れられていたわけではなかったのだと思う。
あとは、祈るしかない。それに、くじらに着くまでにピサロに見つからない保証だって、ないんだから。
単調な宇宙の旅は続く。わたしは、全身が血まみれのままであることに気が付いた。スキンヘッドのクソ野郎が。自分の身体が、血と汗の混じった異様な匂いを発していた。これまでは必死で集中していたので忘れていたのだが、いったん気になり出すと、耐えられないくらいだ。しかも、匂いはどんどん濃くなりながら、ポッド内部に淀んでいく。貧弱な空調機能では、どうにもならない。こんなのであと数時間も飛ぶのか。
おぇ。
眠ることも出来ず、ただ単調な時間と激烈な異臭、そして全身を覆う不快感に耐えること数時間。幸運にも、ピサロには見つからずにすんでいる。
やがて前方に、おぼろげな褐色の物体が見えてきた。
ずんぐりした胴体に、少しかわいらしい尻尾のような形の突起。その形状が昔の地球の生物に似ているから、くじらという愛称で呼ばれているらしい。
果たして、わたしは本当に入れてもらえるだろうか。ここに昔の知り合いがいれば、いいんだけど。
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