第32話 親父の探しもの その2
「じゃあ、アメリカとか、海外には、その闘うためのテーマとやらはあるのかよ?」
俺は意地悪な質問をした。
「わかんねぇ。あるかもしれねぇし、ないかもしれねぇ」
「どっちなんだ?」
「知るかよ。わからねぇから行くんだよ。迷わず行けよ、行けばわかるさってヤツだよ」
てっきり俺は、親父はもう答えを見つけていて、だから海外へ行っているのかと思っていた。いや、そう期待していた。親子ながら俺とはまったく違う、この色々な意味で巨大な男が、ただただ転落していくところを見たくはなかったのだ。
「相変わらず親父はノリで行動するよな」
「バカ、おめぇもオレを見習え」
親父は言った。
「おめぇは頭でっかちだからな。勉強できるのはいいけどよ、そういうムダに賢いトコがおめぇ自身の首を締めることだってあるんだぞ?」
反論できなかった。
あれこれ考えてしまうせいで思い切りが悪いのは、俺だって気にしていることではあるから。
「おめぇも迷ったら、まず動け。それが大事なモンのためなら、なおさらだ。おめぇのタイミングにこだわってたら、今の自分以上のことなんて何もできなくなるんだからな。いくらおめぇだって、今の自分が最終進化系とか考えちゃいねぇだろ?」
「俺をどれだけ傲慢と思ってるんだよ」
その時俺は、大事なモンのはずの紡希よりも前に結愛のことが頭に浮かんでしまった。
いや結愛はいいヤツだけど、どうして紡希より前に来るんだよ。
たぶんこれは、結愛がグイグイ来るヤツだからだろうな。それがこんなところでも出ているだけだ。決して俺が、結愛を何より大事な人扱いしているわけではあるまい。だってなんかそこを認めるの、恥ずかしいだろ。
「じゃあ、見つかるまで向こうで頑張っててくれよ。うちのことは、どうにかなるから」
恥ずかしさを吹き飛ばしてしまいたくて、俺は言った。
「アホか。来月には、たとえ追加でオファーがあろうが戻ってくる」
なんで、と聞き返す前に、親父は言った。
「おめぇを放って、いつまでも外国をうろちょろしてられねぇからな」
この親父は、いつもふざけた言動を繰り返しているくせに、たまに不意打ちを食らわしてくるから油断がならないんだ。
まああれだ、見方によっては感動的なシーンなんだろうさ。
「半裸のおっさんに言われてもなぁ……」
あんまり綺麗な絵面じゃなかったから、泣けやしない。
「バカ。半裸が俺たちのプロレスラーの正装だ。ん? じゃあこの格好で出発しても問題なくねぇか? サラリーマンがスーツ着て外出するのと同じだもんな! これでパッキングなんて面倒なことしなくて済むぜ!」
未だ口が閉じないスーツケースから着替えをポイポイ放り出そうとする親父を止めることに必死になったせいで、感傷的な気持ちなんて吹き飛んでしまうのだった。
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