第23話 新たなる客 その2

 そして夜、紡希と2人で夕食を摂っていた時のことだった。


「シンにぃ」


 向かいに座る紡希が声を掛けてくる。


「明日、友達来るけどいいでしょ?」


 そういえばこの前、友達を呼びたい、みたいなことを言っていたな。

 明日は土曜日だが、俺も紡希も学校がない日である。


「そりゃ別にいいけど」


 紡希の友達なら無下にはできない。

 紡希は、学区外の中学に電車で通っている。名雲家で暮らすことになっても、転校することなく今の学校に通い続けることにしたからだ。


 紡希の状態が落ち着いているのは、結愛のおかげももちろんあるのだが、友達の存在だって大きいのである。


 だが、気になることはある。


 このパターンは以前、友達と称して結愛がやってきた時と同じだった。

 まさかとは思うが、またどこぞのギャルを引っ張り込んでくるんじゃないだろうな。


 特に髪がピンク色なのは、勘弁してくれよな。

 一応、聞いておくか。


「その友達って、紡希と同い年の子だよな?」

「そうだけど?」


 ダメなの? とばかりに体ごと首を傾ける紡希。


「いや、全然いいんだ。ちょっと悪い予感がしただけだから」


 紡希は、俺を前にしてたくさんのハテナマークを浮かべたような顔をしていたが、許可が取れたことで一安心しているようだった。


「あれ? でも明日は結愛が来ることになってるはずだぞ?」

「うん、だから呼ぶんだよ」


 なんで? と俺は聞き返す。


「結愛さんとシンにぃがいるところを見てもらわないと意味ないから」

「……どういうことかわからんが、まあ、いいだろ」


 紡希なりに考えがあってのことだろうし。シンにぃがいると絵面が汚くなるからその日は家にいないで、と追い出されるよりはずっとずっといい。そんなことになったら、俺泣いちゃうけどな。


「それと、シンにぃはいつもみたいに結愛さんといちゃいちゃしないとだめだからね」

「……紡希の友達の前で?」


 その前に、俺は別に紡希の前でそんな毎回いちゃついていただろうか? 結愛はどういうわけかいつも積極的なくせに紡希の前だと恥ずかしがるところがあるから、そう頻繁ではなかったはずなのだが。


「うん。わたしの友達の前で」

「何故?」

「そうしないとだめなの! いっそチューしたっていいんだから!」


 とんでもない要求をする紡希である。

 なんだろう、これ。たんに友達が来るってだけの話だったのに、半端じゃなく面倒な事態になりそうな予感がする。


「わかったよ、でもちゃんと節度は守るからな。変な期待はしないでくれよ」


 そもそも、紡希が言うところのいちゃつきは結愛次第なところがあるから、俺に期待されるのは困る。まあ紡希の頼みだから、できるだけ聞くけどな。俺の方から手を繋ぐことくらいなら辛うじてできるぞ?


「あと、もう一つだけあるんだけどー」

「なんだ、深刻そうな顔して……」

「友達の前でわたしがどんなふうになっても、絶対に引いたりしちゃだめだよ?」

「……怪物にでも変身するのか?」

「違うよー」


 紡希は俺から視線をそらして頬杖を突くと、明後日の方向を見つめて遠い目をした。


「シンにぃは気楽でいいよね。どこに行ってもシンにぃでいいんだもん。わたしがどれだけ大変かなんて、わからないだろうね……」


 訳知り顔で、鼻で笑うように息を吐き出す紡希を前にして、俺は当日が不安になってしまうのだった。

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