第40話 ホーリー嫉妬! その1
登校し、いつものように自分の席へ迷わず向かうと、ベランダにいたはずの桜咲が飛んできた。
「名雲くん! 昨日の配信観たでしょ!?」
桜咲の顔は上気していて、冷静さを失った興奮全開の顔つきだった。目、飛んどるやん。
「前哨戦のタッグで名雲がエル・ブシドーからスリーカウント! 鯉島を寄せ付けなかったし、ベルト獲りに幸先よすぎでしょこれ!」
「ちょ、ちょっと待って」
俺はどうにか桜咲をなだめようとするのだが、桜咲とは別の視線がこちらに向かっているのを悟った。
結愛だ。話し相手の桜咲を失った結愛は、いつものベランダの位置に1人でいて、じっとこちらを見ている。
今までまったく交流がなかった桜咲から親しげに話しかけられているのを不思議に思っているのと、どうも顔つきを見る限り、『なんで私はクラスメートがいるとこで話しちゃダメなのに瑠海はいいの?』と不満を言いたげだった。
「……どうして俺が高良井さんと昼休みにこそこそしてたのか、桜咲さんならわかるだろ?」
「あっ、そうか。名雲くんは陰キャで人気ないもんね。瑠海と仲いいとこ見せちゃったらみんな嫉妬しちゃうもん」
あっさり察してくれることを、喜んで良いのか傷つくべきなのか。ていうか、自己評価高いな。事実だけどさ。
「じゃあ昼休みにね。今日も結愛っちとあそこ行くんでしょ?」
「……ああ」
この日も屋上へ行くことになっていた。結愛がまたも鍵を借りたからだ。一応、屋上へは立入禁止になっているわけだし、桜咲までついてくるのはいかがなものかと思うのだが、無言のまま猫みたいな目で視線をぶつけてくる結愛に何も事情を話さないというのも怖い。嫉妬ではないだろう。自分の親友が突然、普段交流のない男子のところへ向かえば不審感だって持つというもの。
「でもー、瑠海の趣味のことは、結愛っちには内緒ね」
桜咲は、まだ結愛に趣味のことを話す踏ん切りがついていないらしい。
「じゃあ俺たちはどういう仲だって説明すればいいんだ?」
「偶然意気投合してなんか話すようになった、くらいでいいじゃん」
ふわっとした上適当だな。そんな軽い打ち合わせだけで、俺が上手くウソを突き通せると思うなよ。
俺の不器用さを知らない桜咲は、それだけで安心したらしく結愛のもとへ戻っていく。
コミュニケーション強者の桜咲のことだから理由を隠しつつ結愛の誤解を解いてくれることだろう、と期待していたのだが、桜咲は俺たちのことにはまったく触れなかったようだ。相変わらず結愛はちらっちらっとトゲのある視線をこちらに向けてくる。
まさか修羅場に発展したりしないよな?
陰キャガリ勉の俺を巡った女子同士の争いなんて、需要ないだろ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます