第12話 俺の義妹が朝から可愛すぎる

 朝。俺はいつものように、門の前に自転車を待機させていた。


 これから紡希を駅まで送るつもりだった。

 学区外の中学に電車で通う紡希の負担を少しでも減らせるようにするためだ。


 紡希は、名雲家の人間になるにあたって、元々通っていた中学校から転校する必要があったのだが、馴染んだ友達から引き離すようなことはするべきじゃない、と親父が判断したため、元の中学に通い続ける許可を特別に取り付けてもらっていたのだった。


 だが、肝心の紡希は準備に時間が掛かっているようだ。

 元々紡希は朝に弱いところがあるからな。


「紡希、そろそろ出ないと電車に乗り遅れるぞ」


 玄関から2階へ向けて、俺は声を掛ける。


「シンにぃ待ってー」


 ドタバタと慌ててやってくる紡希は、制服のリボンタイは曲がっているわ、ソックスは足首の位置で丸まっているわであられもない状態だった。


「お前、本当に朝が弱いな……ほら、そこに座れ」


 俺は紡希の制服を直すために、階段に座らせる。

 足首で輪になっているソックスを戻してやろうとするのだが。


「うひゃっ」

「おい、じっとしてろ」

「うひゃひゃ」


 紡希はくすぐったいらしく、俺が触れるたびに足を引っ込めてしまう。


「……そっちはもう自分でやれよな」


 遅刻へのカウントダウンが始まる中、のんびりしているヒマはないので、俺は身を乗り出してリボンタイの方へ手を向ける。


「えー、シンにぃ、最後までやってよぉ」

「くすぐったがるだろ」

「じゃあ、わたしとシンにぃで同じとこ持って、せーの、で引っ張ろ?」

「ただ靴下直すだけなのに大事になってきたな」


 まあどんなかたちであれ、紡希との共同作業は悪くないかもな、と考えた俺は紡希の案に乗ることにした。

 こうして紡希の方から積極的に交流を図ってくれることは、とてもいいことだし。


 高良井のおかげで、紡希も以前より表情が柔らかくなった気がする。

 おかげで俺も、ずっと自然に紡希に接することができるようになっていた。


 俺と紡希はソックスの同じ部分を摘むと、紡希の、せーの、の声と同時に引っ張り上げようとする。

 無事、ソックスは元通りになったのだが、紡希の姿勢が少々問題だった。


 引っ張り上げた勢いで脚を屈めたせいで、スカートの大部分がまくれ上がって腿の裏が露出してしまっていた。


 元々肌は白い紡希だが、普段はスカートに隠れていて日光の影響を受けないその場所は、いっそう白くなって見える。

 マズいこりゃさっさと直さないと……、という意味で見ていたのだが、紡希は俺の視線に別の解釈をしていたようだ。


「シンにぃってば、結愛さんがいるのに見境ないんだから」

「いや見てないって」


 ここでいとこの腿に欲情した変態と勘違いされたら、改善されたばかりの紡希の関係性も暗黒時代に逆戻りするかもしれないので俺は必死だった。

 だからこそ、『俺と高良井結愛が付き合っている設定』に対して本当のことも言えないわけで。


「べつに見てもいいんだけどなー」


 特に強い非難を浴びそうにないくらい紡希の表情は穏やかなままだった。


「だってシンにぃだし」


 それは、『俺を人間の男として認識していないから恥ずかしくもない』という意味なのか、それとも逆に俺を信頼しているからこその発言なのか、どちらかわからなかった。


「いくら俺でも紡希のパンツまで見たいとは思ってないぞ」


 俺からすれば紡希なんぞはまだまだ子どもなんだからな。


「えっ……見たくないの……?」


 紡希の顔が絶望に包まれた気がした。


「……いや、見たいといえば、見たい」


 紡希の機嫌取りのためとはいえ俺は何を言っているんだ。


「よかったー」


 一体何がどうよかったなのか、紡希の真意が俺にはわからなかった。

 これ、俺が異性に耐性がないだけの問題か?


「でも短パンはいちゃってるからシンにぃの見たいのは見れないもんね」


 立ち上がった紡希は、穿いてるよアピールをするためかガッツリとスカートを自らめくりあげようとする。


 はしたないなぁ、と思いながら、短パン穿いてるならまあいいだろ、と俺は視線を紡希の股から離さないでいたのだが。


「あれっ」


 紡希の顔が、ぽっと赤くなる。


 紡希の下半身には、短パンなんぞ存在せず、真っ白な下着が我が物顔で居座っていた。


「はき忘れた~」


 ドタドタと猛スピードで階段を駆け上がる紡希。

 ギリギリに起きてくるから肝心なものを忘れるのだ。


 まあ学校に行ってから気づくんじゃなくてよかったけどな。

 仮に紡希のパンツを目撃する不届き者がいたとしたら、俺はそいつの記憶を抹消しないといけなくなるから……。

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