別れましょう

一色 サラ

・・・・

 車で高速道路を走行してると、電光掲示板に数十メートル先で、玉突き事故が発生しているという表示が点滅していた。それで、2kmぐらいの通行止めが発生してしまった。

 「なんで事故!!」助手席に座っている真希が、イライラしている。急いで、コンサート会場に行きたいのに、全然、前に進む様子がない。大変な事故しれないがこっちも急いでいるのだ。

「まだ、動かないの?」

隣で、アイドルのコンサートを楽しみしていた怒鳴るように真希が、荒々しい言葉になっていく。

「ああ、全然、進まないね」

「そんなに、ひどい事故なのかな」

「さあ、分かんないね」

「司って、優しくないね」

 車内に、ドンっと爆音が鳴り響いて、車のフロントガラスから、赤い炎が舞い上がっていくのが見える。

「車、降りた方がいいよね」

 それを見た真希が、すぐに、ここまで炎が来ると思っているようで、持ってきた荷物を握りしめている。

「でも、新車だし」

「知らないし、じゃあ、私は降りるね。」

 赤い光は上へと上がっていく。隣でドアが開く音がした。真希は車を降りて行って、どこかに行ってしまった。それを横目に、炎を見つめる。

 真希がいなくなったことで、ほっとしてしまった。あの子といると、どこか息が詰まりそうだった。付き合って、1年になるが、彼氏よりアイドルが好きだと言われたら、やっぱり、冷めてくる。それも送り迎えさせられて、うんざりはしていた。このまま、付き合い続けるべきなのだろうか。でも、1人なるのも寂しい。

 ガチャと音がして、車のドアが開いた。

「なんで、追いかけてくれないの?」

真希が戻ってきた。

「えっ、勝手に出て行ったのは君だよ」

「司って、本当に最近冷たくなったよね」

「そう?」

実際は、冷めているのは事実だ。でも、何となく別れられない。他に好きな人がいないからかもしれない。

「じゃあ、別れよう」

「そうする」

言ってほしいことを言われた気がして、素直に、了承してしまった。

「なんで、そんなこと言うの?」

「君が、別れようって、言ったんだよね」

「そうだけど…」

真希は下を向いて、泣いているようだった。ごめん、気持ち悪いわ。完全に冷めている自分に気づいてしまった。

後ろからクラクションを鳴らされて、前の車が動き出していた。赤い煙が消えて、車は発進させた。

「ねえ、コンサートには間に合いそうだし、俺、もう先に帰るから。帰りは、電車で帰って」

「なにそれ」

そのまま、会場まで沈黙が続いた。

「着いたよ」

「ねえ、本当に別れるつもりなの」

「そうだけど」

「嫌って、言っても」

「もう終わったんだよ。早く降りてくれない」

真希の顔が目の前に来て、頬を平手打ちされた。

「さようなら」

そう言って、真希は車を降りて行った。そのまま、車を発進させて、どこか気持ちが軽くなった気がした。

 

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