第20話 友達とデート!?
「待った?」
「いや……大丈夫」
俺は今日、杏奈とデートの待ち合わせをしていた。
つまり、簡単に言えば、杏奈とデートをするということだ(あれ? 同じこと言ってね?)。
前に約束した、恩返しの内容を、今まさにやっている。
杏奈には随分と世話になったし、腐れ縁とはいえ、ちゃんとお礼はいつかしたかったので、丁度いい機会ではあった。
にしても――
杏奈の服装は、ギャル飛んで痴女に近いものがあった。
胸元を前面に見せる、童貞を殺すためのセーターに、歩くと下着がはみ出すんじゃないか、と心配になるショートパンツ。
彼女の日焼けした、健康的な肌色も相まって、俺は少しばかり萎縮していた。
周囲の目がいてえよお。
どう思われてんのかな。
羨ましいのか、妬ましいのか、見てられないほど恥ずかしいのか、実は微塵の興味もないのか――少なくとも、一番最後はないだろう。
なぜなら、杏奈の今の姿は、男なら必ず、一度は目線を送ってしまうからだ。
1年前まで清楚キャラだったくせに……どうしちまったんだよ!
「おい! 何ぼーっとしてんだ!」
頭を叩かれて、意識を現実に引き戻す。
「あたしの恰好見て、なんか思わねーのかよ」
「…………」
エロいな。
――くらいしか思いつかねえよ!!
で、これ言ったら空の彼方までぶっ飛ばされる気しかしねえ!
なんだ、この女! 純粋たる魔を、全身に込めた女め!
まあ、本当に欲しい言葉くらい、まあなんとなく察せるんだけど。
それはそれで、恥ずかしいんだよなあ。
だって相手が杏奈だし。
俺がそうやって渋っていると、彼女は俺の両頬を引っ張った。
「言、え!」
「ぐえー。かわいい、かわいいですよ! 今日の杏奈さんカワイイー」
「そ、そう? ふふーん……まあ、許してやるか」
棒読みで言ったつもりだったが、案外簡単に解放してくれた。
ちょろいな、おい。
にしても、相手が俺でも喜ぶもんなんだな。
俺なんて、杏奈からしたら男とも見られていないイメージだったけれど。
いや、それは違うか。
変態シスコンと思われているんだから、ある意味、男の中の男と判断されているのかもしれなかった。
誤解なんだけどなあ。
変態は余計だ。
「お兄さん……?」
背後から声がした。
振り返って確認すると、いたのはエコバッグを持った、すみれちゃんだった。
「おお、すみれちゃん。こんなところで会うなんて、偶然だな」
「ど、どういうことでしょうか?」
珍しい遭遇にテンションの上がった俺だったが、反対にすみれちゃんは、睨むようにして俺を見ていた。
え? 俺、なんか悪いことしたか?
「その人は……確か、杏奈さん……ですよね」
「そ、そうだけど」
「お二人は何をしているんでしょうか……?」
「デートだ」
杏奈が腕を絡ませてきた。胸が腕に当たる。ほぼ露出しているから――なんだか、まじで悪いことしているみたいになってきた。
「で、でででででで、でで、でと、でと、デート……ですってっ!?」
物凄く動揺していた。
なんだよ。高校生にはませた話だったか?
そんなこともないはずだがな。今時の高校生なら、珍しくもないと思うけれど。
「わ、私というものがありながら……」
「すみれちゃん?」
何を言っているのかな?
「では、お二人は付き合っていると……?」
「んー……どうだろ」
なんではぐらかすんだよ。
「付き合ってないよ。これだって、ただのお礼さ」
「…………」
「よかったあ……」
すみれちゃんは突如、安堵の息を漏らした。何? そんなに安心すること? 俺と杏奈が万が一付き合っていたら、地球に隕石でも落ちてくるのかな?
まあ、実際のところ、付き合うこと自体が天変地異なみの出来事であることは確かだけど。
「ふーーーーーん……」
今度は杏奈が不機嫌になった。
なんなんだよもう。訳分からん。
「じゃあ、お兄さん……デート、私も一緒についていっていいですか?」
「ああ、もちろ――」
頷こうとしたら、俺の体は強引に引っ張られた。腕が、杏奈の胸に埋まる。こいつ、こんなおっぱい、でかかったっけ?
やばい……おかしな気分になりそうだ。
と、同時に寒気がした。
全身が突き刺されるような感覚に陥る。
圧倒的な……そう、これは、殺意、だ。このままだと俺は殺される、そんな本能的な確信があった。
「悪いけど、今日はこいつ、あたしのもんだから」
「そう、なんですか? お兄さん……?」
「だよなあ!? 凪坂くん!?」
「私も一緒に行っていいですよね? 付き合ってないから、それくらい」
こ、怖い。
なんでこんな修羅場みたいになってるの?
おかしくない?
だって、すみれちゃんはただの朝姫の友達だし、杏奈はただの腐れ縁の友達だぜ。
なのに、この空気はどういうこと?
……でも、答えは出さないとここから抜け出せそうにない。
答え、答え、か。
まあ、それならもう決まっている。
そのための、お礼だからな。
「そうだな。今日は、杏奈とデートするんだ。デートは、2人でするもんだから、デートになるんだよ。だから、すみれちゃん。今日はごめん。また、一緒に遊ぼう。今日はどうやら、俺は杏奈だけのもんで、杏奈は俺だけのもんなんだ」
「…………そう、ですか。でも、少しホッとしました」
「ホッと?」
「安心したというか……やっぱり、お兄さんならそう言うんじゃないかって……そんなお兄さんだから、私は……いえ、なんでもありません」
「まあ、よく分かんないけど、納得してくれたならよかったよ」
何が起きているのかさっぱり分からないが、とりあえずはこの修羅場みたいな空気からは解放されたようだった。
その後、すみれちゃんは手を振りながら、少しずつ俺たちから離れていった。
というか、そろそろ解放してほしいんだけど……杏奈さん。
胸が、ずっと、当たってるんだわ。
「……………………」
杏奈さん? あれ? 顔が、とてつもなく真っ赤になっているような?
気のせいか? こいつ、元々日焼けで赤いから分かりづらいな、おい。
「杏奈さん? そろそろ、人の目もあるんで……胸、当ててんすか?」
「……へ? ……って!? やっぱ変態じゃねーか!!」
俺は顔から地面にぶつけられた。
なんで、俺、こんな扱い受けないといけないわけ?
悪いことなんて1つもしてないはずなのに……。
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