第21話 友達の弁当に毒が入っている!?

 杏奈と二人きりでデートすることになった――のが前回のあらすじ。

 さて、デートプランだが、杏奈が任せてほしい、と言ったので完全に任せることにした。


 最初の行き先は、近所にある水族館だった。

 この辺りなら、カップルのデートスポットとしてはドが2個つくほどの定番である。


 水族館には沢山の魚がいる――のは当然として、目玉はアシカのショーだ。

 小さい水族館なので、派手なイルカショーはなかったが、アシカショーは実のところ、結構面白い。

 飼育員さんとアシカの連携が見事で、そんでもってかなりかわいいのだ。

 アシカの技が失敗しても成功しても、おいしい展開に持っていけるので、気軽な気持ちで見れたりする。


「やばい……あたし、飼育員さんになりたい……かわいすぎ……」


 割と単純だな、おい。

 それで本当に飼育員目指すんなら、応援はするけどさ。多分杏奈のことだから、その場のテンションで言ってんだろ、絶対。


 悪を知らない子供のように純粋な目をして、アシカを見ている。

 案外、かわいいところあるんだな、杏奈も。


 と、まあ、そのほかにも水族館の中を歩き回った。杏奈はどうやらペンギンが大好きらしく、お土産物屋さんでペンギンの帽子を買っていた。

 そして、結構似合っていた(わざわざ言ってやらないが)。


 俺のお気に入りはシロクマだった。陸から勢いよく入水して、泳いでいる姿は圧巻で、杏奈の声に気付かず、しばらく見てしまっていた――らしい。


 さて、水族館が終わり、午前も終わったところで、昼飯をどこで食べるか、という話になった。

 すると、杏奈はものすごく得意げな顔をしたのだった。


「あたし、お弁当、作ってきてあげたんだぜ」

「へえ!」


 まじで驚いた。

 結構、家庭的な一面もあるんだな、こいつ。

 いつも大学じゃあ、生協の学食を食べているから、杏奈のお弁当なんて初めて見るかもしれなかった。


 水族館近くの公園のベンチに座り、弁当を出してもらう。

 ピンクのお弁当で、ハート型だった。

 しかも、2つで1つのハートができるタイプのやつ。


 ま、変なツッコミはしないでおいてやるか。


「開けていいか?」

「も、も、勿論……」


 勿論、というテンションではないんだけど。

 どんだけ緊張してんだよ。


「開けまーす」


 一応、一言だけ添えて、蓋を開けた。


「う……、うお、おおおおおお!」


 白米の上に梅干し、焦げのついたウインナー、黄色い卵焼き、鮭、ブロッコリー、トマト……!


 これまた定番中の定番メニュー! ゆえに完璧な色合い!

 そして見た目! 滅茶苦茶おいしそう! シンプルイズベスト!

 なんだこれ! なんだこれ! 早く食べてみたい!


「は、箸はどこに……」


 俺はもう動揺して、箸を早く手にしなければ壊れてしまいそうになるほど、落ち着きを失っていた。


「あ、出すの忘れてた。はい。ちゃんと噛んで食べろよ」


 彼女は微笑して、箸を渡してくる。

 あれ……? お母さん……?

 俺のもう1人のお母さんですか?


「い、いただきます」

「ど、どうぞー」


 緊張した雰囲気の中、まず卵焼きを1口。

 卵の触感が中でとろけて、あまーい香りが口いっぱいに広がり――

 ぐはあっ!


 なんだ! このからさは!

 いや、からいんじゃない! しょっぱいんだ!

 滅茶苦茶しょっぱい!

 ぐはあああああっ!?

 噛めば噛むほど、脳を壊すようなしょっぱさが襲い掛かってくる。

 卵焼きは甘いものと認識しているはずの脳が、俺を狂わせていく。



 死ぬ……このまま噛み続けたら死ぬ。

 だめだ……耐えろ! 俺!

 だが……問題は……もっと別にある。


 吐けねえ!

 こんなにまずいもん、普通ならとりあえず口から戻すんだけど……。

 目の前に、ものすごく笑顔の杏奈がいる。


 この笑顔、100点。

 この料理、2点。


 この笑顔だけは守ってやりてえよお。


 待て。こんな時は。

 ご飯を手にした俺は、それを無我夢中で口の中に入れる。

 

 あたしの弁当を、そんながっつくほど食べてくれるなんて――

 杏奈の視点には、こう見えていることだろう。


 違う。誤魔化しているのだ。

 この中で唯一信用できる料理……それが白米なのだから。


 うぐっ!?

 ――なんだ、この圧倒的違和感。

 いや、分かる。

 白米だ。

 この白米……水びたしだ。

 もはやおかゆだ。味のないおかゆだよ、これ。


 どういうことだ?

 おかしい……なにもかもおかしい。


 まさか――毒?

 この弁当にはこれでもか、というくらいに毒が仕込まれているんじゃないか?

 でなければ、このまずさは説明できない。


 まさか……杏奈も俺も命を――

 だが!

 だとしても……吐くわけにはいかない。

 ここで吐けば……男じゃなくなる。

 そうだろ。男ってのは、どんな料理でも、女が作ってくれたもんはちゃんと食べる!

 食べきる!


 あとウインナーとブロッコリーとトマト――

 うおおおおおおおおおおおお!


「おいおい! そんな一気に食べたら、喉つっかえるぞ!」

「ひんばいごぶおう(心配ご無用)!」


 どんどんと口の中に放り込んでいく。

 からくて、甘くて、やわらかくて、かたくて、喉が拒否してきて、胃が悲鳴を上げていて――

 それでも、食べろおおおお!


 …………。

 …………。

 食べ終えた俺は――燃え尽きちまったんだ。

 真っ白にな。

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