第3話 妹が買い物に行かせようとしてくる!?

「お兄ちゃん、こっち! これ、どう!?」

「待てよ、朝姫」


「うわぁ! 涼しいよ、この扇風機。買わない?」

「1台ありゃ十分だろ」

「えー」


「ねえ、このアクセ欲しいかも……」

「い、20000円……こ、高校生が買うもんじゃねえ!」

 

 あーーー……だりぃ。

 何が嬉しくて、妹と買い物に出かけなきゃいけないのか。


 俺の名前は凪坂真夜なぎざかナイト。自己紹介が遅れたことに関しては、本当に申し訳ない。できることなら、自己紹介なんてしたくなかった、というのが、本当のところだ。


 だってそうだろう? こんな名前、名乗らずに済むのなら、名乗りたくない。 

 ひどい名前だと思う。

 夜に生まれたから夜を付けたかったらしいが、だからって英語にしなくてもよくない?

 夜だけならよかったのに、一気に痛々しい名前になった気がするんだよなあ。


 と、話が脱線した。

 ともかく、そんな可哀想な俺が、またも可哀想なことに、休日に友達と遊ぶわけでもなく、妹と二人で買い物をしているわけである。

 どうしてこんな面倒なことになったかと言うと……――


 2時間前――朝10時。


「そ、そのさ……!」


 朝飯を食べ終えた後、エプロンを脱いだ朝姫が俯きがちに言った。


「きょ、きょきょきょ……今日はいい天気、ですね!」

「はあ?」


 確かに太陽が照っており、雲一つない空だ。でも、なんで敬語?


「だからさ! お出かけ日和だって言ってんの!」


 なぜだが知らないけど、逆ギレしてきた……。

 朝姫を怒らせるのは勘弁だ。なにかの拍子に殺されるかもしれない。


「ご……ごめんって。確かに、お出かけ日和だなあ……こんな日は、外に出るのがいいかもしれないな」


 とりあえず同意しておいた。それに、朝姫が外出すれば、この家に一時の平和と秩序が訪れる。

 すると、朝姫は顔を一気に明るくさせた。情緒に落ち着きがなさすぎる。


「そうだよね。お出かけしたいよね」

「外に出るには今日しかないだろうなぁ」

「お兄ちゃんはそう思うってこと!?」

「……まあ、そうだな。外に出たいなぁ、こんな日は」


 適当に言っておくことにした。さっさと外に行け。


「そ、それなら……しょうがないわね。わ、私がついていってあげる! どうしても、外に出たいお兄ちゃんのために……しょうがなくよ!」

「そりゃあ助かる……って、はあ!?」


 一体いつからそんな話になったんだ!?


「外に出たいんでしょ。じゃあ、外に出なきゃね」

「い、いや……確かに言ったけどな……」


 あれは朝姫を外出させるための方便というか……。


「外に出たいとは言ったが、別に出なきゃいけないわけじゃないだろ」


 俺はテーブルを立って、自室に戻ろうとした。

 すると、朝姫が慌てた様子で俺の行く手を阻んだ。


「だ、だめだよ! 男に二言はない! 出たいって言ったら出なきゃいけないんだよ!?」

「どこの常識だよ」

「お兄ちゃんはそんな人じゃないよね!?」


 もはや理屈もないというか、破綻しているというか、ごり押しなんだが。

 ……やれやれ。そろそろ、暑くなってくるだろうから、新しい服を買いに行かなきゃと思っていたところだ。


「分かった。買い物行くよ。行けばいいんだろ」

「本当に?」

「でも、俺1人でいいからな。大したもの買わないし」


 結局、朝姫と一緒に行動しなければいいだけの話だ。


「それはだめ! 私も行く!」

「だからさ……」

「あ、あれよ! 私も買い物したいし! ついでよ、ついで」


 こいつ、一昨日も買い物行っていた気がするんだけど。


「ふーん。で、何買うんだ?」

「へ? え、えええぇっと……あ、あれよ。服! そう、服!」

「服って、一昨日買ったばかりじゃないか」


 どんだけ服好きなんだ。いや、ここまで行くと、下手の横好きってやつだ。服が好きでも、こうも買い物下手じゃ、先が思いやられるよ。


「ち、違くって……! ううー……」


 何をそんな頭を悩ませているんだ。買い物に行くと言って、何買うんだって訊くくらい普通だろ。それなのに――


 いや、まさか!!

 凶器の購入……!? あるいは毒物か。いずれにせよ、俺を殺すためのものを買いに行きたい。だが、俺に言うわけにいかないから、こうも悩んでいるのか。


 なんて妹だ……!

 末恐ろしいよ……なあ。兄の買い物についていくふりをして、そこで凶器を買うつもりだったとはなぁ……そこまで大胆な作戦は、俺以外では気付かないだろうよ。


 朝姫のしたいことは分かった。

 だが問題は、下手に断ればここで殺されかねないということだ。


 ――買い物行かないなら、ここにあるものでしか殺せないね。

 とか言ったりするかもしれない。


「分かった。朝姫、久々に二人で買い物行くか」

「え…………ほ、本当に!? じゃ、なくて……えっと、しょうがないわね」


 凶器を買える嬉しさを隠しきれていないぞ。

 まあいいや。買い物中は絶対に殺されることはないだろう。衆人環視で殺人など、できるはずもないのだから。

 であれば、俺のやることは1つだ。

 朝姫が何を買うのか確認する。さりげなく、な。そうすることで、次の暗殺計画への対策になるからな。


「じゃあ、車で行くぞ。アオンモールまで」

「うん!」


 というわけで――

 現在に至るわけである。


 つまり、次回から、ショッピングモール編というわけだ。

 そんな大した話じゃないけどな……。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る