7 君でよかった

 ぐす、と泣き真似をするミオ。少しオーバーサイズのパーカーの袖で手を半分隠して、目元に持っていく。いわゆる、萌え袖というやつである。

 こんなにもわざとらしいのに、絵になってしまうのが腹立たしい。


「まあ確かにテキトーに選んだけどさぁ……」


 そう言いながら、手に持ったペットボトルを見る。ちびちび飲んでいたおかげで、残り二口分くらいだろうか。ピンクの液体の粒が、ラベルの裏についている。

 みるく、はひらがな表記です!と書かれたそれを見て、私は顔を上げた。


「でも、私は、今回選んだのがミオで良かったなって思ってるよ。私の話とか、特に話してないけど、なんか吹っ切れたし、楽しかった。相談するんじゃなくて、ただ隣にいてもらうのもいいなーって」


 私は、にっと笑って、ミオの大きな目と自分の目を合わせた。


「ほんと?」

「うん。あざとい系もいいんじゃないの?」


 売り方が悪い気がするけど、という言葉は飲み込む。正直、自分より遥かに可愛い男の子を、恋に悩んでいるときに選ぶ奴なんて、よほどの変わり者だろう。間違いなく自分のメンタルがボロボロになる。

 ……まあ私は、結果的に選んだわけだけど。


「へへ。やった。ユイ、ありがと」


 にこっと笑うミオを見て、シンプルに可愛いと思ってしまう自分がいた。

 ミオのアドバイス通り、ちゃんと言葉にさせてもらおう。


「うん、可愛い。ミオは笑ってた方が可愛い」

「そんなん、言われなくても知ってるし。ボクはいつでも可愛いんですー」

「……ミオ、あざとい系やめなよ。自意識高い系の方が合ってる」

「は?自意識に可愛さ追いついてるから大丈夫ですけど」

「うーわ。事実なのがムカつく」

「ふふ」


 何を思ったか、ミオはその場にしゃがみこみ、自動販売機の下に手を伸ばした。プチ、と小さな音とともに、丸い花がミオの綺麗な白い手に包み込まれる。


「ヒメツルソバの花言葉、知ってる?」


 小さな花を鼻のすぐ先に近づけて、ミオが言った。ミオの視線は、その花に向けられているけれど、それは私に向けられた言葉だと受け取る。


「知らない」

「だろうね」

「ミオも知らないでしょ?ヒメツルソバの名前すら知らなかったんだから」

「いや、さっき調べたから知ってる」

「ズルくない?」

「いいから。当ててみて」

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