8 花言葉は
花言葉か、と考えを巡らす。
花の種類は知っているけれど、花言葉は知らない。昔は調べたりしていたけれど、正直、花言葉にまで手を出すと、止まらなくなって、自分とは釣り合わない趣味が膨らみそうで怖かったのだ。
「真実の愛、とか」
ここは無難なやつでいこう。そんな私の考え抜いた回答を、ミオは笑顔でぶった切ってくれる。
「掠ってもないね!」
「遠慮とは」
残念、回答権は一人一回限りです!とニヤニヤ笑いながら、ミオが言う。
「いいもん、家帰って調べるし」
「夢がないこと言わないでよー」
「人のこと言えないでしょ」
「そうだけどさぁ」
なんだか納得がいかない、というように、ミオが下唇を突き出す。
そのまま、沈黙が続くと思いきや、すぐにそれを破ったのはミオだった。
「また、会える?」
全く脈絡のない話に、怪訝な表情を返そうとすると、上目遣いでこちらを見つめている大きな瞳に捕まった。
完璧に作られた、その表情を崩してみたくなって、わざと意地悪を言ってみる。
「苺ミルクはもう飲まないかな」
「え……」
愕然とした表情を浮かべるミオに、冗談だよ、と笑いかける。
ミオが、ほっとしたように息を吐いて、私のジャージの裾をぎゅっと握る。
「ほんと、冗談キツいって」
「ごめんごめん。次があれば、ね」
「うん、絶対」
「帰るから、私。ほら、離して」
綺麗な白い指をとんとんと叩くと、ミオは名残惜しそうに手を開いた。そのまましばらく離れていくジャージを見つめていたが、急にはっとした表情を浮かべて、私の方に、ぐいっと体を近づけてきた。
「いい?次があるなら、絶対ボクを選んでよ!約束だからね!」
「あーはいはい、了解」
本当に約束だよ!と言うミオの頭をくしゃっと撫でて、背を向ける。
歩き出すと、ミオは口を閉じたようだった。
ペットボトルに残った苺ミルクをごくりと飲み干すと、吐いた息が甘く染まった。
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