第9話宮崎さん
カチカチッ、カチカチッ!
今日は平日だが、学校は夏休みに入った。
現在8月に入り国性調査を実施中である。
「ねえワタナベ?」
「なに? 大ちゃん。」
「今度から夏場は夕方から調査しない?」
現在午後二時である。
死の危険を感じる。
くらくらしてきた。
「なに言ってるのさ、今年が中学最後の夏だよ? 次なんてもう無いんだよ。」
「あっ、そっか……」
少し寂しい気持ちになる。
僕たちの国性調査は今年度で終わる。
なぜなら、来年からは高校生になるからだ。
この前渡邉の兄ちゃんが教えてくれた。
「高校はいいぞ~? 誰でもヤれるからな! 女どもも盛ってるから、襲われることもあるぜ?」
渡邉の兄ちゃんは高校二年生だ。この前聞いた話だと一年生の時十人以上とヤれたそうだ。
となるとこんな調査をしている暇などない。僕たちも調査される側になるのだ。
「僕たちの受ける高校は同じだろ? そんな寂しい顔するなよな!」
渡邉と離れても寂しい事などない。ただ、中学最後の夏にこんなことをしていていいのか? と思ってしまっただけだ。
「ところでワタナベ、公式戦どこのブロックだった?」
「Bだよ。大ちゃんは?」
「僕はDだよ。ワタナベはシードでしょ?」
僕たちは来週からハーレムバトルの公式戦に参加する。
「そうだけど油断は出来ないよ。」
「逆ハーレムデッキは完成したの?」
前回準優勝だった渡邉は、優勝した横山くんとのリベンジに燃えている。
その為に人気のない男だらけのカードを買い集めてきた。
「まあ、それは公式戦で。」
それもそうだ。僕たちは公式戦ではライバル同士、手の内を簡単に明かす訳にはいかない。
「うん、お互い頑張ろう! って、あれ!?」
見覚えのある女子が男と歩いている。
「宮崎さんだ! おっさんと歩いてるよ!」
渡邉も気づいたようだ。
「あっ……」
今、一瞬宮崎さんと目があった。慌てて目を反らし、男を引っ張り急いで歩いて行った。
「これは、完璧に黒だね。」
「うん。」
なぜかやるせない気持ちになった。
知らない人が援交しても気にならないが、話したこともあるクラスの女子がしてるとなると話は別だ。
「ねえ……もうやめない?」
僕は無性に帰りたくなった。
「そうだね……帰ろうか。」
僕たちはそれぞれの家に帰った。
次の日ーー
夕方に渡邉から電話がかかってきた。
「大ちゃん、今すぐうちに来て!」
僕と渡邉は住宅街の隣の地区に住んでいる。歩いても五分もあればついてしまう。
ーー現在、渡邉の家の裏にある小さな公園にいる。
僕と渡邉、そして宮崎さんの三人で。
「急に呼び出されてビックリしたよ。どうしたのさ?」
おそらく昨日の件で何かあるのだろう。
「あんたら二人、昨日いたでしょ……?」
宮崎さんが圧をかけながら言う。
「いたって、どこに?」
僕は知らないで通すつもりだ。
しかし、僕がくる前に渡邉と宮崎さんで何を話したかはわからない。曖昧な回答を心がけなければ。
「駅ウラに! わたしと目あったでしょ!」
宮崎さんが怒り出した。
「ごめん、気付かなかったよ。あそこに宮崎さんもいたんだね。」
あくまでシラを切る。
「あのね、ワタナベくんとは話ついてるのよ。もうそういうのはいいから。」
なるほど。
ーーワタナベは今日から夏季講習だったらしい。
そこに宮崎さんがいて、昨日の件を全部吐かされたようだ。
「わたしにはお金が必要なの。」
彼女には病気の弟がいた。
なかなか治療が上手くいかず、一昨年に亡くなったらしい。それが原因で親は離婚し、母親と二人で暮らしているそうだ。
「でもさ、片親家庭には色々支援されるって聞いたけど。違うの?」
普通に生活する分には何とかなるのではないか。僕はそう思い聞いてみた。
「行きたい高校があるの。他県に行かないとダメだから、お金がかかるのよ。」
「それでも! 身体を売るなんて真似、僕は許せない!」
渡邉が急に熱い事を言い出した。ドラマか何かのセリフだろうか。
「わたしがお母さんにお願いしたら、応援してくれると思う。それこそ身体を売ってでもお金を作ると思うわ。だから、しょうがないのよ。」
宮崎さんの話を聞いていたたまれなくなった。
僕の親が公務員でホントに良かった。
「しょうがなくない! 俺に任せろ! どうにかしてやる!!」
どうした渡邉、キャラ変わってるぞ?
「どうにかって、どうするのよ?」
「とりあえず、百万あればいいか?」
何だ? 強盗でもするのか?
「そりゃ今貯まってる分も合わせれば足りると思うけど……」
「なら、今日から絶対あんな真似するなよ! わかったな?」
「でも!」
「わかったな!!」
「……うん。」
宮崎さんもワタナベにおされてうなずいた。
「とりあえず、来週まで待て。わかったら母ちゃんに親孝行でもしてやってこい。」
カッコいい。これでイケメンなら百点満点だ。非常に残念だが、はたしてどうするんだ、ワタナベ?
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