第5話告白

「キミの気持ちに答えることはできない……ごめんね」

やっぱりダメだったか。


「理由を教えて下さい。せんせい。」

わたしは諦めきれないでいる。


「キミは生徒で僕は教師、これ以上の理由は無いと思うよ。」


「じゃあ、わたしが卒業したら付き合ってくれますか?」


「どうだろうね。少なくても、僕が人を好きになることはないよ。」

ウソでもいい、可能性はあるって言って欲しかった。


「わたし、せんせいが昔生徒と付き合ってたこと、知ってますよ。みんなうわさしてます。」

わたしは悔しくてせんせいにイジワルなことを言った。


「キミはもしその噂が本当だとして、どうするんだい?」

せんせいの眉間にシワができた。


「わたしくらいの子もそういう目で見れるってことですよね? こう見えてけっこうムネあるんですよ?」

そう言いながらシャツのボタンを外していく。


「やめなさいっ!」

せんせいがわたしの手首を掴んだ。


「いたいっ!」

わたしが叫ぶとせんせいは手を離した。


「……すまない。暴力を受けたと通報したければ別の先生にお願いしなさい。」

せんせいは教室に戻ろうと歩き出した。


「まって、せんせい! わたしは本当にせんせいが好きなんです! 愛してるんです!!」

これで終わりなんていや。まだ話は終わってない。


「……キミはもう少し愛について考えた方がいい。答えが出たなら話を聞こう。それまでは授業中以外で話しかけないでくれ。」

せんせいは振り向きもせずに言うと、今度こそ行ってしまった。


「うっ……うぅ……ぐす……」

わたしは泣いた。

体育館裏には誰もいない。

とても惨めな気持ちだ。





次の日の朝ーー


朝早くに教室に着いた。

あの人はいつもこの時間に学校に来るのだ。

少しでも繋がりが欲しいーー

でも、今日はいつもの時間に来なかった。


「あ、おはよー」

クラスの松本くんだ。

こんな時間に来るなんてめずらしい。


「オパーーおはよう」

わたしたちはそれから他愛もない会話をした。


「おはよー! ミズっち!」

宮崎さんが登校してきた。


「おはよーミヤっち!」


「なんか今日のミズミズ元気ないね? どしたの?」


「えーそうかな?」

宮崎さんにはすぐに見破られた。


「悩みあるなら相談のるよ?」


「ありがとう。なんでもないの」

相談なんていらない。


わたしのせんせいへの愛は、そんな簡単なものじゃない。


「そう言わずにさ! ほれ、言ってみ?」

こうなると宮崎さんは聞き出すまで引かないだろう。

わたしは観念して軽い感じで相談することにした。


「ミヤっちはさ、愛について考えたこと、ある?」


「むむむ? さてはミズっち、好きな人がいるな? だれだれ?」

失敗した。やっぱりくいついてきちゃった。


「別にそう言うのじゃなくて……」


「愛について考えたこと、わたしもあるよ。」


「あのね、好きとかそう言うのじゃなくて、愛についてなんだ。」


「うん。わかってるよ。」

マジメな顔で宮崎さんが答える。


「そ、そっか。そうなんだね。」

まさかの答えにわたしは焦った。


「ホームルーム始まるし、昼休みにまた話そ?」

そう言って宮崎さんは自分の席に戻って行った。



昼休みーー


「なるほどねー。木村センセーかぁ。人気あるもんねー。」

わたしは宮崎さんに昨日告白したことを伝えた。


「でもね、わたしの気持ちは好きとか簡単なものじゃなくて、ホントにホンキなの。」

みんなと同じだと思われたくない。宮崎さんにどうにか伝えようとしたけどうまく言えない。


「うん。ミズっちの気持ちはわかるよ。だけどホンキじゃない好きってなに?」


「えと……ただカッコいいとか、話してて楽しいとか……かな?」

むずかしい質問だ。


「じゃあさ、ミズっちの言う愛ってなに?」


「えーと……」

考えれば考えるほどわからなくなる。


「まぁいいや。わたしも色々考えたことあるけどさ、この人の事を幸せにしてあげたいとか、この人の子どもが欲しいとか、そーいう気持ちを愛って言うのかなって思うよ。」

ふだんの宮崎さんからは想像できない答えがかえってきた。


「ミヤっちは、そういう人いるの?」

いるから考えるんだろうけど、聞かずにはいられなかった。


「どうかねー。いたのかもねー。」

また寂しそうな顔だ。

失恋したのだろうか。


「あーもう! むずかしくてわかんない!」

頭の中がごちゃごちゃだ。


「愛についてわかったら来いって言われたんでしょ?チャンスはまだあるんだから、頑張んなよ!」




けっきょく愛について余計わからなくなってしまった。






放課後になった。




「ミヤっち一緒にかえろ?」


放課後に宮崎さんに声をかけた。


わたしと宮崎さんは途中まで帰り道が一緒だ。




「あーごめんね、今日はちょっと用事があるんだ。」


時々宮崎さんは用事があるといって放課後家とは逆方向にむかう事がある。今日はその日だったみたいだ。


「そっか、じゃあまたあした!」


「うん、じゃあまたね!」

わたしは一人で教室を出た。



帰り道ーー


誰かにつけられている。


気のせいかもしれないけど、後ろから見られてる気がする。


こわい、どうしよ。


まだ学校を出たばかりだけど、あまり人の姿がない。


ーーわたしは早足で歩いた。

すると前にクラスの男子を見つけた。

よかった! 一緒に帰らせてもらおう!


「二人とも、まってー!」

松本くんとワタナベくんの元に走った。


「あ、大水さんも家こっちの方なの?」


「うん、そうだよ! 途中まで一緒に帰ろうよ」


ーー後ろをふりかえって見たけど誰もいない。


気のせいだったのかな? でも、こわかった……


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