第2話 裏切り
放課後、僕は急いで荷物をまとめ、胸を躍らせながら校庭裏へ向かった。僕の胸には希望が満ち溢れていた。
しかし校庭裏に着いたとき、僕は驚いて固まった。僕は、廉也だけがそこにいるものだとばかり予想していた。ところが、そこには何人ものクラスメートが廉也を中心に集まっていたのだ。
廉也と二人で会うんじゃなかったの?
何で、こんなにたくさん人がいるの?
僕は困惑した。
「本当に来たよ」
「うわ、きっしょ!」
そんな嘲りがあちこちから聞こえて来る。僕は言葉を失った。
そんな僕に廉也が近づいてきた。あのいつもの温和な表情ではなく、氷のように冷たい無表情で。
「お前、俺のこと好きなの?」
と、廉也は冷たい目で僕を睨みながら言った。いままで感じたことのない冷たい視線。いままで聞いたことのない冷たい声のトーン。
僕は狼狽した。僕が何と答えていいかわからず黙っていると、廉也は続けざまに怒鳴った。
「お前、いい加減、俺に付きまとうのやめろよ。気持ち悪いんだよ、オカマ野郎!」
「付きまとい」「オカマ」・・・。僕は自分の耳を疑った。僕を馬鹿にしてくる他のクラスメートと同じ、僕を蔑む台詞が、あの廉也から、あの僕が唯一この学校で心を許せると思っていた廉也の口から発せられていることを僕は信じられなかった。
しかも「オカマ」といえば、テレビで男のくせに女性の恰好をし、物笑いの種になっているあの人たちのことだよね。僕はあんな風に物笑いの種として廉也に見られていたのか・・・。
僕は目の前が真っ暗になった。そうか。廉也の本心はそうだったのか。僕が一人で廉也も僕に好意を抱いていると思って盛り上がっていただけなんだ。しかも、廉也も他のクラスメートたちと同じように僕のことを「ホモ」「気持ち悪い」と思っていたのだ。
「つーか、男のくせに男が好きとか、お前、異常なんじゃね? 病院でも行けよ。俺に近寄って来るんじゃねぇよ。穢らわしいんだよ」
と廉也は怒鳴り、僕を突き飛ばした。僕は地面に倒れ込んだ。
僕は異常。廉也に近づくだけで廉也が穢れる。廉也の言葉がナイフのように僕の心をえぐった。僕は涙がぶわっと溢れ出て来るのを感じた。
「ごめん。本当にごめんなさい」
僕は泣きながら謝ったが、そんな僕の腹を廉也は蹴りつけた。
思わず咳き込む僕を見下ろして廉也はニヤニヤ笑いながら言い放った。
「お前、本当に俺のことが好きなんだったら、ここでオナニーして見せろよ」
僕はその当時、「オナニー」が何のことなのかすら知らなかった。
「オナニーってなに?」
僕が涙ながらにそう尋ねると、廉也は僕を嘲笑した。
「そんなことも知らねぇのかよ! おい、お前ら、こいつにオナニー教えてやるぞ」
と言うと、彼は、周りのクラスメートたちに何やら合図した。その途端、他の生徒たちに僕は押さえつけられ、ズボンとパンツを無理矢理下ろされた。僕は恥ずかしさと怖さのあまり、必死に逃げようともがいたが、多勢に無勢。身動き一つ取れず、ただ涙を流すしかなかった。
「こうやってやるんだよ」
と、廉也が僕の陰茎を握り、扱き出した。
僕は思わず「やめて!」と叫んだが、そんな僕の様子を見て廉也は再び嘲笑った。
「こういうことされたかったんだろ?」
周囲が合わせたように笑い声を上げる。僕は必死にもがいた。でも、僕が抵抗すれば抵抗するほど、僕の下半身は僕の意思とは関係なく反応する。僕は絶望した。
その時、どんより垂れこめた雲から雨が降り出した。すると廉也は舌打ちをし、「まじできめぇ」と吐き捨てると僕の股間を一度蹴り上げた。そして、雨を避けるために、他のクラスメートたちと共に一斉に屋内へ去って行った。
__________
僕は股間を蹴られた痛みにうめき声を上げながら、雨に濡れ、泥だらけでその場に倒れ込んでいた。
雨なのか涙なのか、絶えず僕の顔を雫が流れ落ち、嗚咽が止まらず、ただただその場に倒れていた。
僕は異常なんだ。
気持ち悪いんだ。
男が男を好きになったばかりに、こんなに嫌われて、暴力を振るわれて、辱しめを受けて、泥だらけで校庭裏に横たわっている。僕はそんな自分が惨めで仕方なかった。僕はただただ声を上げて泣き続けた。
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