第2話 一年に一度は京都行ってんな母に言われて初めて気づく

 私の大学生活は、ほとんど家と大学との往復で、決して明るいものではなかったけど、それでも、不思議なもので、何となく里心がついてしまって、京都には、一年に一回は行きたくなる。実際、このコロナ禍がひどくなる前は、一年に一回は訪れていたのだが……。

 今は、京都国立博物館から、メルマガが届くくらい……。

 私は、展示品を見るのも時間がかかるので、京博にも、すっかり行けなくなってしまった。


 大学時代、京都観光ガイド学生ボランティアに登録したメールアドレスに連絡が来たのは、そんな時だった。


『皆様、如何お過ごしでしょうか?』


 ……固いのか、カジュアルなのか?分からない書き出しで、そのメールは始まっていた。


『この、コロナ禍の中、帰省や旅行を自粛されている方々も多いかと思います。

 そこで、京都観光ガイド学生ボランティアでは、登録された方々に、バーチャル観光案内をして頂くことに致しました。』


 ……バーチャル観光案内?


『題して!』


 ……題して?


『写真とガイドで、登録されたボランティアのおすすめ場所を回ろう!です。』


 !?


『案内して頂く場所は、記憶に残る場所、いつか再訪したい場所、地元の名所、今は無くなってしまった場所でも構いません。

 皆様のご参加を、心よりお待ちしております。』


 この新型コロナウィルスで、政府や地方自治体の首長から行動を制限され、窮屈な思いをしている人達が多いからか、誰が書いたのか分からないけど、ずいぶんと軽いノリだな……と思った。

 元学生ボランティアも、今はおじさんおばさんになってしまっている人達も多いとか関係なく、このメールを書いた人は、人の年齢にあまり関心のない人か、青春時代に戻ってしまっていただけなのかも知れないけど。

 私は、そのことを好ましく思った。

 たまにいるんだよな……。結婚相手を探してるわけでもないのに、不必要なくらい、人の、特に女性の年齢を気にする人って……。

 本人にその自覚はないのかも知れないけど、英会話スクールの講師をしているから、外国人相手にボランティアをしているから、とか関係ない。実際、私は三十歳になったばかりの頃、当時通っていた英会話スクールの時事英語のクラスで、南大阪の方で、外国人労働者支援のボランティアをしていたおじさんに、年齢差別を受けたことがある。彼は、私が、大阪市大に通っていた大学生の女の子と並んで座っただけで、私の年齢を見抜いたらしく、あからさまに態度を変えたのだ。私はそれまで、他のクラスメートの男性たち、世間でおじさんと呼ばれる人達、講師のジャック(というニックネームの日本人男性)や、大手家電メーカーに勤める幹部クラスの男性に年齢差別を受けたことがなかった。出身大学が同じという理由で、彼女のことを「僕の後輩なんです」と可愛がっていた市役所に勤める既婚男性でさえ、年齢で女性に対する態度を変えたことは一度もなかった。南大阪でボランティアをしていた男性は、明らかに、彼女にしか関心がなく、いつも彼女の向かいに座っていた。語学力の高さは関係ない。子ども相手に英語を教えていた高齢のマダムにも、全く関心を払わなかった。

 その時はショックだったけど、私は、怒りを通り越して、よく見抜けるな……と逆に感心した。

 その後も、残念なことに、こういったことは繰り返され、加害者?は、英会話スクールの講師だったり、橿原神宮に行った時に、何故か、私を気に入ってくれた橿原神宮の近所に住むおじいちゃんだったりしたけど、男性は、どうして、こうも、女性の年齢に関心があるのだろう?と不思議に思ったものだった。

 大阪市内で美容師をやっている女友達が、友達に今の恋人を紹介して貰った時に、彼から、「もっと若い子を紹介して貰えると思ってた」と言われ、「何歳くらい?」と聞いたら、「二十歳くらい」と言われたらしいので、こんなものなのかも知れないけど。

 最も、過去には、「三十五歳を過ぎると羊水が腐る」と発言して、謝罪に追い込まれた人気女性歌手もいたので、性別関係なく、年齢を気にする人は気にするんだろうけど。それ以後、女性の出産のタイムリミットが大々的に取り上げられるようになり、まるでそれが免罪符でもあるかのように、女性向けwebマンガのレビューに、「卵子皮蛋ピータンになってるババアに興味があるやつなんて、子供時代に何かあったに決まってる」なんて、失礼な書き込みをするやつも出てきて、ちょっといい加減にして欲しいんだけど。こっちも、「アラサー女は、年下の男にモテるのが好きなんだろう?」とでもいうように、そういったマンガを量産するのはやめて欲しいんだけど。と言いたかったりする。そう言ったところで、そういった人達とは、どこまで行っても平行線で、時間のムダなんだろうけど……。

 久しぶりに、京都観光ガイド学生ボランティアから来たメールは、私の憂鬱を吹き飛ばしてくれた。

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