サンドスター力艦TC号

@sensyamen

第1話 円盤の要塞



国道立サンドスター貯蔵所。この貯蔵施設は、サンドスターと呼ばれる未知の物質を貯蔵する日本に数少ない施設である。

北海道にある貯蔵施設で、国道立というのは、国と道により設立されたのでこの名前なのである。ここで貯蔵されているサンドスターは、発電所や、SSプリンター工場等で使われる。普段は警察や海保等が警備に当たるのだが、きょう日は諸事情により、国防軍の兵士や戦車等が待機している。厳重な警戒の中、南南西約150㌔に円盤状の何かが現れた。海上に出現した何かは国防海軍の駆逐艦や哨戒艦で構成された艦隊の攻撃を受けるもどういう訳か無傷。ミサイル攻撃を諦めた艦隊は艦砲で攻撃するも円盤の両面に備え付けてある大砲やミサイルランチャーが火を噴き、結果、艦隊は壊滅させられる。貯蔵所ではサイレンが鳴り響き、戦車や対空機関砲、誘導弾を発射する車両が展開する。円盤の表面から何かが射出されたかと思うと、それは高性能なドローンで銃火器が付いており、それをセンサーか何かで認識するのか、正確に人を狙い銃撃しまわる。銃撃を受け、多くの者が死傷する。地上に居る兵員や警官は応戦するが、拳銃や自動小銃などでドローンは破壊できても、肝心の円盤に対しては決して効果があるとは言えない。戦車や対空機関砲、誘導弾で円盤を攻撃させ、更には連絡を受けて最寄りの空軍基地から飛来した戦闘攻撃機の対艦ミサイルやサイドワインダーも放たれ、爆炎の中に円盤は消えた。誰もがやったかと思うと爆炎が晴れて円盤が無傷で姿を見せた。円盤の回りの空間にバチバチと無作法にスパークが走る。どうも円盤の周囲には、見えない壁があるようだ。


円盤の内部。部下が向かっているコントロールパネルをその後ろから見つめる骸骨の様に痩せた男がいる。その男はニヤリと笑みを浮かべ、「お返しが来たと思ったらそれだけか?よろしい、ではもっと相手になってやろう。」男は部下に向かってミサイル攻撃と砲撃の用意をさせ、「撃て」と命令する。主砲や副砲は戦車隊と歩兵部隊を壊滅させ、ミサイルは航空部隊を潰した。そして、貯蔵所自体にも立て続けにミサイル攻撃と砲撃を喰らわせ、中央の一体を更地にしたと思うと、円盤は4つの足を生やしてその更地に着地する。クレーンで掘削機の付いた乗り物を下ろすとその乗り物は後部を油圧で持ち上げ、掘削機を地面につけ、掘削機を稼働させると、乗り物は地面を掘り進む。施設地下最深部にある貯蔵庫の目の前。すると、掘削機の付いた乗り物が壁を破って現れ、そこから武装した一味が9人出てくる。9人の内の4人は出入口に銃口を向け、物音がしたと思い入ってきた表の見張りに銃撃する。残りは厚さ40㌢の貯蔵庫の扉の爆破作業を行っていた。プラスチック爆弾を無数にセットし、無線装置の赤いスイッチを押して扉を爆破する。扉の奥にはサンドスター爆弾の材料のひとつであるプラズ二ウムがブリーフケース程の大きさのケースに小分けにされて棚に納められていた。

「急いで運び出せ。」掘削メカから降りた一味のリーダーが警備と交戦しながら言う。

5人が掘削メカに盗んだ物を運び込むと、銃撃している4人ものせ、破った方と反対側の壁を壊して地上に向けて掘り進む。

円盤内部のモニタールームの映像に掘削メカが地中から出てくる様が映る。

「急いで掘削装甲車を回収しろ。30分もしない内に敵の増援が来る。これ以上バリアーがもたん。」

掘削装甲車が円盤に収用される頃に陸軍の増援部隊がやって来て砲撃するが、残り僅かにもつバリアーにより攻撃が阻まれ、そのまま取り逃がす事となった。


ここは何処かの指令室。ランプが青の待機から赤の出動に変わる。

それに気付いたヒグマのアニマルガールが放送用のマイクに向かって「TC号乗員は直ちに乗艦せよ。」と繰り返す。

乗艦した艦はトラストコメット号、全長201㍍、全高35㍍、全幅70㍍、重量19,000㌧最高速度マッハ1.2、通称TC号。その乗組員は全員アニマルガール。艦長はヒグマ。その補佐をする副長はホワイトタイガーで、他にもリカオンのフレンズやブラックジャガー、クロヒョウにオオタカなど、その他10名のクルーが全員TC号に乗艦する。「ドック解放」の一声で、大きな山が左右に別れ、その下から全長二百㍍以上もあろう巨艦が下から上へせり出す。

「プラズム浮遊開始。」とヒグマが一言いうと、四つの小さな翼の穴から粉状の光体がキラキラと下に向かって出る。まるで鳥のフレンズが飛翔する際に頭の羽から出る「けものプラズム」とよく似ているが原理がそれである。これにより、この19,000㌧もある巨体は気球か或いは飛行船の様にふわりと浮かび上がる。リカオンが毎秒50㍍上昇する高度計を読み上げる。800㍍迄浮上したと思うと、一般的な旅客機と同じ速さである通常飛行モードで空中を前進した後、音速モードに切り替え目的地まで飛行し、近接戦闘モードに切り替わり、125㍉速射砲と、30㍉バルカン砲のついたCIWSが機械音と共に顔を出す。

「フレンズファイター1号、異常なし。2号、異常なし…」各種兵器の状態確認を終え、ヒグマは「戦闘開始」と言いながらストップウォッチを止め…「14分56秒。まぁまぁだな。タイガー、所長に連絡。目的地到達時間、14分56秒。」

執務室の椅子に座る男の腕時計がアラーム以外でなる。男はそれのスイッチを押し、応答する。

「そうか。この間は15分20秒・・・だったな。中々早くなったではないか。よし、テスト終了。そのまま帰投しろ。あと、ヒグマ。軍の方から君に話が有るらしい。基地に戻ったら直ぐ、所長室に来てほしい。」

所長室の椅子に腰掛ける彼はゲンダイ。ジャパリパークのサンドスター研究所の所長を勤める者である。何故サンドスター研究所長である彼が軍人でもなしにこの様な空中戦闘艦を指揮しているのか。それはこの艦が、サンドスター力技術の粋を集めて完成させた艦であると同時に、世界信用機構に所属している為、直接的な国防軍の指揮下に入れないからである。そしてその世界信用機構に所属する理由は、現代社会を脅かすだろう組織と対決する為である。この件があり、研究所に艦の開発を行わせた政府や軍は、最早日本だけの問題ではないと考え、世界信用機構の所属にさせ、艦の開発の事務的統括をしていたゲンダイ博士に運用を任せたのである。当初はサンドスターを悪用するなりしようとする者なりに対する自衛手段としての研究及び技術開発であり、この艦だって戦闘艦としての運用は考えていなかった。運用計画の方針が変わったのは前述した組織の存在が確認されてからである。それは組織ファウスト、彼らはシベリア平原のサンドスター貯蔵庫が円盤状のメカに襲撃された事件で明るみにでた。円盤状の物体で飛来し、警備兵を蹴散らしてサンドスター貯蔵庫のサンドスター物質を奪って飛び去った。翌年、カナダにあるサンドスター貯蔵施設も同様に襲撃事件に遭った。その時の貯蔵施設はシベリアの一件もあり、戦車隊やミサイル部隊を配置したりアメリカ空軍の戦闘機を多数出動させたりする等、厳重な警備をしていたが、それらも呆気なく蹴散らされていた。砲撃やミサイル攻撃するも原理不明のバリアー装置を装備しており攻撃が効かず、それにより警備を突破された。味をしめたのか半年後には、フランスとスイス共有の貯蔵施設が襲撃され、更に日本国内では北海道の国道立サンドスター貯蔵施設が襲われた。これらの件の犯行声明で自らをファウストと名乗った。この犯行を起こすに至った理由については、「完全な平和を実現すべく、暴力による支配を行う。その上で必要な物を頂戴した。」などと述べていた。盗まれたサンドスター物質にはある共通点があり、それはサンドスターの力を用いた兵器、サンドスター爆弾のサンドスター源となるプラズニウムであること。プラズニウムはサンドスター源の役割をする物で、後はこれでサンドスター434さえあれば、サンドスター爆弾の製造が可能である。しかし…「それではダメだ。」とテレビ会議の席に座る骸骨の様に痩せた男が発言する。

男は続けて「成る程、確かにそれさえ入手出来れば完成する。しかし、この手の兵器は大規模な実験が不可欠であることを忘れて貰っては困る。」

「じゃあ、どうしろと言うのかね。」とファウストの幹部が言い返す。

「もっと良い物がある。ジャパリパークにある、サンドスター研究所。そこで勤める杉岡優人博士が素晴らしい物を開発していてね。」

杉岡博士の開発した物、それはXNS2-413と呼ばれる新型サンドスター力燃料である。このサンドスター燃料を正しく用いれば、既存のサンドスター炉を遥かに小型軽量化しても問題なく燃料として使用出来るものである。兵器として悪用すれば、今までよりも安く、早く、そして威力のあるサンドスター兵器が製造できる。

「どうでしょう。このサンドスター燃料をサンドスター源の代わりに使えば、今までのやり方よりもずっと簡単にサンドスター兵器をこしらえられる。」

「しかし、どうする。そうなると今度の相手はただの貯蔵施設ではなく、サンドスター関連施設としては警備が手厚になる部類である研究所だ。しかも彼処は研究所の中でも警備が厳しいし、それに、我々の要塞艦の件で、更に警備が強化されているが・・・・」

「私に考えがあるし、準備も出来ている。何も研究所その物を襲撃する必要はない。」


その頃、ジャパリパーク内の飛行訓練所では五機のフレンズファイターと呼ばれるジェット戦闘機が雲一つない青空を舞っている。操縦するのは、鳥のアニマルガール。このフレンズファイターの特徴は、鳥類のアニマルガールが乗ることにより、威力を発揮する所である。勿論人間や飛ばないアニマルガールにも操縦できなく無いが、最大限の力をいかせられるのは、やはり鳥系のフレンズが使用した時だけである。この戦闘機部隊を指揮するのはオオタカ。彼女は飛行長と呼ばれる。そのオオタカは標的機に接近している。30㍉バルカン砲を喰らわせ、標的機は墜ちる。落とされた標的機後部からパラシュートが開き、ゆっくり落下する。オオタカはハシビロコウに「次は貴女の技の訓練よ。」

標的機が一機撃墜されて、暫くすると、また標的機が現れる。しかも五機。するとハシビロコウは、野生解放し、五機の標的機に対してシュービル・アイズを戦闘機のレーザー砲から放ち、五機あった標的機を一度に粉砕した。それを双眼鏡で見つめる怪しい男。

「ありぁただの戦闘機じゃないな…。」男はそう呟くと、腕時計を見る。

「いけね、もうこんな時間か。」そういうと男はその場から走り去る。

「こちら管制塔、調子はどうだ。どうぞ。」ホワイトタイガーはマイクに向かって機内に居るオオタカに声を掛ける。

「こちらFF1、良い調子。操縦のライセンスを取った時の飛行機と大違い。どうぞ。」

「こちら管制塔、了解、後ろに居る連中はどうだ。どうぞ。」

「こちらFF1、ちゃんと付いて来ているわ。どうぞ。」

「こちら管制塔。よし、今日のテストは終わりだ。全機帰投せよ。以上、交信終わり。」

管制塔に一緒に居る杉岡博士は安心した顔をする。

「良かった。飛行には影響ないみたいだね。」

「えぇ、ですが、貴方の発明を・・・」

「いえ、とんでもない。あのファウストなどという集団に、サンドスターを悪用させない為には・・・やむ負えない事です。」

ホワイトタイガーにヒグマからの通信が入り、「了解」と一言云い通信を終える。


数分前、サンドスター研究所の所長室にヒグマがノックをして入り、

「ヒグマか、よく来た。外沢中佐と情報将校の蛇杭中佐だ。」

外沢中佐は軍の技研でサンドスター力艦の武装についての事で携わった人物。艦の建造をする上で度々交流があった様で、それなりの挨拶を交わす。蛇杭中佐は、ヘビクイワシのフレンズ。蛇杭については初対面で、折り入って話がある様だ。

「実は、国防省の研究所内に内通者が居る事が発覚しました。」

彼女の話では、技研にすら内通者がおり、機動憲兵により拘束されるが、奥歯に仕込んだ毒薬で最期まで口を割らずに自殺。

それでその骸はここ、サンドスター研究所まで早急に運び込まれた。

「所で何故そうしたかと言えば、ある捜査方法の試験も兼ねているからでね。その方法というのがサンドスター反応装置により、一時的に脳だけを蘇生させ、記憶を読み取って映像におこす為だ。」

と、ゲンダイ博士。

「彼の記憶を読み取るのに苦労したよ。何しろ、この装置を作ったチーム曰く、死後六時間以上経過したら記憶の読み取りは絶望でしたからね。羽田からパークまで約5時間30分。いやー、ギリギリだった。」と外沢。

「そんなのが普及したら探偵業は廃業だな。」と、ヒグマは笑う。

「それで、現像された画像がこれです。」と蛇杭。

するとヒグマは、差し出された写真を見て顔色を変える。「この人達って…!」

ゲンダイは、「驚いただろ。私も同じ気持ちだ。」と、呆れ返る。

「ヒグマ、直ぐ、T.C号で出発してくれ。君らの乗る艦が、パークの命運だけじゃなく、世界の命運を背負っている事も忘れないで貰いたい。」ゲンダイはヒグマにその内通者二人の確保を命じた。

それで飛行場にてタイガーの受けた件はこれである。

5機は戦闘訓練の後の飛行訓練を終えていた。

「こちらFF1、全機着陸体制に入ります。どうぞ。」

管制官が着陸を許可し、フレンズファイター5機が訓練場内に垂直着陸する。

「全機異常なし。飛行は快調だったわ」とホワイトタイガーに報告する。

「ご苦労。昨日は操縦桿の操作性が不安定だったが、今日の所はどうだ?」

「えぇ、好調よ。それに、杉岡さんの開発したサンドスター炉のお陰で、あれだけ武装を積んでもクールな飛び方だったわ。ただ・・・心配ね。私達の為にこんな素晴らしい発明をして・・・・」

杉岡博士の身を案じているのはオオタカだけでは無い。「博士、どうでしょう。私達が、寮まで護衛に。」とホワイトタイガーが提案する。最初は車での迎えが来るからと遠慮するものの、恩返しのつもりでと言われ御言葉に甘える。

迎えの車が来た。

「博士、お迎えに参りました。」

護衛にはホワイトタイガーが付く。その直前、ホワイトタイガーはリカオンに耳打ちし、乗車する。耳打ちされたリカオンは息を飲む。リカオンは全員に基地に戻るように指示を受けたことを伝え、全員で基地に戻った。

杉岡博士の乗る車内。

「ここは何処だ?道が違うぞ。」

「静かにして頂きましょう。博士。」と、運転手。

助手席に隠れていた男が二人にピストルを向ける。先程、双眼鏡で彼女らの訓練飛行を見物していた男だ。

「本性を現したって所かな。」

「うるせぇ、黙らねぇと手前から撃つぞ。」と、銃口を彼女に向ける。するとホワイトタイガーは銃を向ける男の視界からフッと消え、下からピストルを持つ手に掴み掛かり、助手席の男は後部座席へ引き込まれる。

「な、何しやがんだ!」男は無作為に発砲するも、弾はシートに当たるだけで、二人にはかすりもしない。ホワイトタイガーは手刀を男の首筋に喰らわし気絶させ、助手席へ押し戻す。男が落としたピストルを早急に拾い、ホワイトタイガーはそれを運転手に向ける。

「まさかアニマルガールが乗り込むとは思わなかっただろうね。早速だけど、この辺でUターンして貰おうかな。」

しかし、男はUターンするどころかスピードをあげる。

「私を撃ってみてご覧。そのまま適当な所にぶつかって心中ですよ。それに目的地に着いてから撃っても、私の仲間が容赦しない。それにアニマルガールが乗り込む事は予測済みだ。鍵をこじ開けようとしてご覧。貴方のアニマルガールの力を以てしても簡単に開けたり壊したりが出来ない仕掛けがされてある。」

ホワイトタイガーは、これは弱ったと頭を掻く。ハンドルを握っている運転手を行動不能にするとする。鍵といい、運転席にあるその為の仕掛けといい、ハッタリでは無い事は確かだ。暴走する車から、博士だけを連れてでも、数秒以内に車から脱出する自信は無い。ここは一つ、彼の行きたい場所に行かせるのが先決だと考えた。杉岡博士は考え直すように一生懸命説得する。しかし、「博士、勘違いしないで頂きたいですな。貴方の科学に対するお気持ちを十分に理解した上での事です。」

彼はファウストが犯行声明で主張したことを語る上で「ですから博士、貴方の云う戦争以外で科学技術が発展するような世界が我々と協力する事によって実現するのです。これ以上、戦闘機に貴方の発明を搭載する必要が無くなります。」

博士は、俯き、「確かにお前の云う事は正しい…だが、少し考え方を変えろ。本当に暴力によって、一過性ではない平和が来ると思っているのか?」すると、黙って聞いていた運転手はそれに答える様に口を開く。

「私は、いえ我々は本気です。命を懸けているのですから。本気で思っていなきゃ、こんな事をする筈が無いでしょう。」

車が行き着く先、そこは広いパーク内にある人気のない浜辺、そこには、ホバークラフトが停まっており、浜辺から500m向こうには例の円盤の要塞があった。


その頃、ヒグマ達はTC号基地にて乗艦する。

そして、ヒグマ達以外で乗艦するのは、蛇杭、外沢そして分隊規模の憲兵、杉岡博士の助手の辻川と森であった。

蛇杭と外沢達は、任務で乗艦したが、助手の二人は博士の身を案じてと言い、これから乗艦する所だ。

発進する以前に、ハシビロコウとオオタカを索敵任務につかせ、先に飛行させている。

「博士、大丈夫ですかね・・・・」

「一味の目的は博士の身柄です。恐らく、滅多な真似はしないかと・・・・」と、ヒグマは心配する辻川に一言いう。

「そうそう、博士はきっと大丈夫だよ。」

森は辻川の背中を叩き笑う。

「そうだ。発進したら、気晴らしにこの艦の中を案内して欲しいな。」森がそう提案すると…

「ですが、艦に乗って頂く前に、手荷物を確認させて貰います。貴方に限った話で申し訳ありませんが…」

「一体どうゆう…」

すると森の背後に居る外沢が、「ちょっと失礼します」と言い、ICレコーダーの様な機械を彼上着のポケットにかざす。すると『ピーッピーッ』とアラームの様にその機械が鳴る。

「ポケットの中の爆発物を出して貰おうか。」と森に手を差し出す。

森は苦笑いし、「どうしてそんな・・・・」

外沢は「そうですか。出して頂けませんか…」と言い、差し出した手を後ろにやり、一歩か二歩後ろにさがる。

外沢の「掛かれ。」の一言で森は憲兵二人に押さえ付けられる。

「何するンだよ!」と、森は叫ぶが、憲兵に相手にされず、ポケットを探ると、タイマーの付いた小さな箱が出てきた。

「これは見た所、高性能な爆弾の様だな。」軍人であり技術者でもある彼はそれが何なのかを一発で見抜く。

「森…!」辻川は声を掛けるが、森は俯き、沈黙する。外沢は分隊長と共に森を連行する。辻川は呆然とする。

「貴方が、大学から見えた方なので言いますが、こうした研究所は、ああしたスパイみたいな…いや、スパイその物が潜伏している場合が多いのです。助手とはいえ杉岡博士の片腕です。呉々も身辺にお気をつけて…」そう告げられた辻川は、静かに俯き、静かに頷いた。憲兵二人は森を連行しようとする。が、森は憲兵を振り払い、上着の内ポケットから小型のピストルを取り出し、皆を脅す。森以外のほぼ全員の腰や懐にもピストルがあるが、銃口は人にでは無く、使用済みサンドスター燃料に向けているので、手が出せない。

「ピリッとでも動いてみろ、さもなきゃこの辺はセルリアンだらけになるぞ。」

するとヒクイドリが全力で森に接近し、手の中にあるピストルを蹴り飛ばす。

しかし、森は手首を強打するが、懲りずに「まだ終わっちゃいない!」と言うと森の体中から煙が出てくる


何かを察した外沢、「まさか…!おい、ソイツから離れろ!」

距離をおく彼を捕らえようとしていた憲兵二人、森は「俺は負けたが、我々ファウストは負けん!」と言い、TC号の艦内へ駆け込む。目指すはサンドスター炉室。この艦を行動不能にしようとしている様だ。しかし、時間の調節を間違えたのか、そこへたどり着く前に体は閃光と轟音と共に大爆発を起こした。が、艦内部に損傷を与えた事にはかわりなかった。森を追って全員乗艦し、ヒグマが損傷箇所を調べるようにいうと、キンシコウからモード変更機能が損傷との報告が入る。

「やはり、命を惜しまない奴を相手にするほど始末の悪い事はないな…」外沢はそう呟く。

ヒグマはオオタカにホワイトタイガーの持つ通信機の位置情報を元に捜索するように指示し、ギンギツネには外沢と共に戦闘の事を考え、近接戦闘モードの故障箇所を優先に修理をするように指示し、浮遊系統や動力系統には問題がないので、修理をしながらの飛行となった。

その頃ホワイトタイガーと杉岡は車ごとホバークラフトに乗せられていた。

「博士、我々の有する要塞艦に招待致しましょう。」

「要塞艦?あの円盤の事か。」と、博士。

「そうです。それと、ホワイトタイガーさん、この艦の弱点を探って頂いても構いませんよ。見つかるかどうかは別ですが。」

そうこうしている内に海面から二十数㍍浮かぶ要塞艦の真下に来ると、艦のクレーンで収用される。艦の中には様々な物があった。砲弾やミサイル、銃弾とそれを撃ちだす火器、更には軍用車に戦車や戦闘機にヘリコプター、その上小型だが潜水艇やガンボートもある。これらすべての物は全てSSプリンターで製造されている。たった一つ所有し、そして用いるだけで一国が作れてしまうあのSSプリンター。TC号が事務的に所属する世界信用機構の提言では、国家と、一部大企業や組織にのみその所有と使用、或いは共有を許されていない。


「成程、まさしく要塞だ。」と杉岡博士。杉岡とホワイトタイガーの後ろには、武装した兵士が4人、そのうち三人が二人に銃口を向けている。

ホバークラフトの次は、艦内を走るモノレールに乗せられ、A~Gまで分けられたブロックの内のCブロックから、Eブロックへ発進する。ホワイトタイガーはモノレールに揺られて、

「成る程、こうやって乗り物を使わないと艦内全てを回れないのか。それにしてもこれだけ図体がデカイと、バリアーこそあれミサイルや大砲の格好の的だな。」

「だからこそバリアーをしていましてな。それに、バリアー無くとも君達を人質にしているから向こうは攻撃できまい。」


モノレールを降り、艦内の廊下を暫く歩いていると、会議室のある豪勢な扉の前に連れられる。

「杉岡博士とホワイトタイガーのアニマルガールを連れてきました。」と、杉岡の雇った運転手だった男が椅子に座る例の骸骨の男に報告する。

「ご苦労。御二人はどうぞ、その辺に座っていて下さい。」

男が名乗る。彼はブラッド。ファウストに支える科学者だそうだ。

「ブラッド…?まさかあの…。」

「そう、私はあの、ブラッドだ。」と、足を組み直し言う。

ブラッドという男。この男は10年前の原因不明の旅客機行方不明事件で機と共に行方不明になっていた筈で、世界の指折りに入る程の科学者だった。この行方不明事件の奇妙な点は2つ、ブラッドとその部下以外、乗客、客室乗務員の全員に身寄りが無かった事、2つ目はパイロット二人には妻子がいた物の、空港職員のロッカールームに飛び立った筈の二人が制服を脱がされ気絶した状態で発見されていた事。この件だけでも一体誰が飛行機を操縦したのかと大騒ぎになった。気絶していた本人達は二人同時に後ろから殴られたので誰にこんなことをやられたのか覚えていないという。ブラッドは飛行機に乗る前日、ジュネーブで行われた世界サンドスター科学会議でSSプリンターの規制緩和に関する国際的な法整備を提言したが、棄却され、失意の元に彼の部下と共に飛行機に乗って行った。

「その時は私と部下以外の乗客乗務員がファウストの人間というのは驚いたがね。」と、一時期世間を賑わせた奇妙な事件の真相をかたると、ブラッドは早速話を切り出す。

「どうですかな、博士、我々に手を貸す気は無いかね?ホワイトタイガー、君についても、同じことを言おう。TC号を我々の物にしたい。君達が今やろうとしている事よりかもっと平和という物に貢献できる。」

「平和とは?誰にとっての。」ホワイトタイガーは問う。

「差し詰め、君たちアニマルガールを含めた人類全体の…と、言いたい所だね。まぁ詳しいことはこの間の声明文の通りさ。さて、どうするかね。ここで殺されるか…我々の仲間になるか…」

「成る程、考えておこう。」とホワイトタイガー。ブラッドは「そうか」と言い、近くの兵士に拘置室に連れていくよう命じた。ホワイトタイガーは博士に小声で、「御安心下さい。この腕時計には発信装置があります。発信機があることを悟られなければ、あわよくば…」

しかし、腕時計の発信機の電波は既に傍受されていたが、ブラッドは敢えて手を下さない。それを部下に質問される。

「解らんかね?トラストコメットを誘き寄せるンだ。間抜けなファウスト本部の考えた内通者を送り込む作戦が失敗してさえいれば、TC号は此方へ来る。あわよくば拿捕するが、抵抗されたら拘置室にいる二人をここへ連れてこい。二人にTC号が撃沈される様を見せてやれ、そうすれば我々に協力する決心がつくだろう。」

その頃拘置室では、ヒソヒソと脱出の方法を模索していた。

「TC号と同じ様に爆発物と高濃度のサンドスターとの距離が近いと、互いに温度を上げて大爆発してしまう。」

「となると…サンドスター炉の位置はなるべく弾薬庫から距離を置いた艦の中央か…兎に角、チャンスがあったら脱出の事は私がやります。博士はサンドスター炉の事をお願いします…しかし問題はそのチャンスですが…」

何やら二人はこの艦の動力源を特定していた様だ。


「おい、何をヒソヒソ話とる!静かにしろ!」

扉の前の警備兵が怒鳴る。言われた通り二人は黙り、最後にホワイトタイガーは杉岡の耳元で囁く。

「それで、さっき言ったチャンスが来るまで待つしか無いでしょう…」

要塞艦の上空。通信機の位置情報を元にフレンズファイター二機が飛んでくる。オオタカとハシビロコウだ。

「飛行長。どうします。博士と副長はきっとあの中です。」

「そうみたいね。艦に報告しましょう。」

そして、その報告が艦に伝わる。ヒグマは残りの三機を発艦させ、更に要塞艦の位置を確認し、音速モードに移れない中、TC号は三機と共に要塞艦へ舵を切る。

「ブラッド博士。レーダーがステルス機らしき機影を捕らえました。」

「それはきっとTC号が放った哨戒機か何かだろう。そろそろ来る頃だな…」

そして、間髪入れずに報告が。

「博士、哨戒機のレーダーが全長約200㍍の飛翔体を捕らえました。TC号のようです。」


TC号艦内。

「発信地点からどのくらいで到着する?」

「あと、3分…」

「そうか。そろそろあの円盤と御対面か。」

すると…「艦長。正体不明の電波が…!」とキタキツネ。

「正体不明…?周波数を合わせ。」

「はい」

キタキツネはつまみを回して周波数を合わせる。

「聞こえるか、TC号諸君。」

「聞こえる、あんたは何だ。あの円盤の一味か?」

「円盤…?まぁ、そうだな。要塞艦と呼びたまえ。私はそれの開発者であり、そして指揮を命ぜられたブラッドという者だ。」

「そう。それで、ブラッドとやらが私達に何用だ?イヤ、その前に博士とタイガーはどうした。」

「我々が丁重に扱っているさ。此方としてはこの二人を人質にできるし、そうでなくともこの艦で君達を倒す事が出来る。」

そして、ブラッドは仲間になるかならないかを問う。

ヒグマは「お断りだな。私達まで自爆する事となると困りもんだからね。それに、相手を殴った上での平和というモノに同意しかねる。」

「成る程、それでは君たちには死んで貰おう。抵抗して貰っても良いが、どう抵抗するか見ものだな。」ブラッドはマイクを切り、タイガーと博士をここへ連れてくるように指示し、ミサイルの発射準備も他の部下に促す。


三人の戦闘員が自動小銃肩に掛け、拘置室に向かう。

「片方獣だって?あの頭でっかちの骸骨。俺らの事バカにして…」拘置室の扉が開く。

「二人とも、出てこい。」戦闘員二人はホワイトタイガーに、あと一人は博士に銃口を向ける。

「ドクターが、お前達に見せたいものが有るってね。」

「見せたいもの?」

「お前達が待ち望む艦、TC号、そいつが撃沈されている様さ。初陣で沈没するなんて気の毒だな。」と、戦闘員は連れている二人を嘲笑う。

「それなら、私がわざわざ見なくても良いことではないか。」

「そうはいかねぇ、君達がこのまま調子にのってくれる訳にはいかねぇからな。」

タイガーの背後に、自動小銃の銃先が二つ。拘置室を出た瞬間、ホワイトタイガーは目にも止まらぬ速さでスッとしゃがみ込み、戦闘員二人の腹部に肘打ちを喰らわし、二人を同時に戦闘不能にする。この間0.29秒。二人がバタリと倒れる音で気付いたピストルを持った戦闘員。彼もホワイトタイガーに銃口を向ける。しかし向けた頃にはもう視界にホワイトタイガーの姿は無く、背後にまわった彼女に回し蹴りを食らわされ気絶する。


「遅い。彼奴ら何を…」同じ頃、ブラッドは腕時計とにらめっこをしている。

「ドクター!大変です。あの博士とあのトラが逃げました!」

「なに?」

「おやおや、そいつは気の毒だな。」と、通信機の向こうのヒグマ。

「イヤ、気の毒なのは君達のほうだ。」と言うとブラッドは部下達にミサイルの発射を命令した。

「残念だが、敵同士だ。君たちには消えて貰う。」と、捨て台詞を吐いてブラッドからの通信は途切れた次の瞬間、TC号のレーダーに高速で動く、無数の影が現れる。

「艦長、ミサイルが飛んできます!」

「奴ら本気らしいな。」

ヒグマはミサイルを落とすためミサイルの発射を指示し、敵のミサイルは艦とフレンズファイターのミサイルで落とされるが、あまりの数に撃ち逃した分が艦まで飛んでくる。チャフとフレア、ジャミング。そしてレーザー兵器で何とかやり過ごそうとするがやはり無数のミサイルに対して近接戦闘モード無しでは限界があるのか、ミサイルの一発が左舷の浮遊装置に直撃はせずとも、その側で爆発し、装置に障害が発生したのか高度が下がり、遂には着水する。着水するその直前、ヒグマは咄嗟に急速潜航するように指示する。このためTC号は海面を盾にして辛うじてミサイルを回避する事が出来た。

「プラズム浮遊装置の自動修復が完了するまでは海中に潜む。」

ギンギツネ達に近接戦闘モードの状況を確認するが、まだ完了していない様だ。


要塞艦内。

「あ、やりましたぁ!ドクター!」

「馬鹿者。沈んだのではなく潜航したンだ。今飛ンでる哨戒機の全てに爆雷を投下させろ。それと、ガンボートも降ろしてそいつにも爆雷攻撃をさせるンだ。」

そして、哨戒機から機雷を海に投下され、複数回水柱が上がる。この攻撃でTC号艦内は激しく揺れ、ガンボートも爆雷攻撃に加わり、更に激しく揺れる。幾ら艦を動かそうともソナーでバッチリと感知されているので移動してもガンボートが追いかけて来る。

「おい、浮遊装置の修理はまだか?!」

「たった今浮遊装置の修復が完了しました!」

「解った。デコイを撒いて、ここからしばらく離れた所で離水だ。急げ。」


ガンボートのデッキ

「くたばったのかな…破片くらい浮き上がって来ても良い頃だが…」ガンボートの乗員が後方のデッキからガンボートの航跡を見つめている。

彼らの船のソナーには、TC号が酸素放出機を投棄して作り上げたデコイが映る。勿論それを見ている者がデコイであることに気付くには時間が掛かるだろう。それでもガンボートと哨戒機による爆雷攻撃は続く。その時、海の底にいる筈のTC号がガンボートの船団より数百メートル離れた所で浮上する。TC号は相手に攻撃させる間を与えず、艦首部分にあるミサイルランチャーの全てを使ってガンボートを一掃する。

それを用いて一掃している最中に、ヒグマはギンギツネから近接戦闘モードの修復完了の報せを受け、直ぐ様それに、移るように指示し、ガンボートの速射砲が上空のミサイルに気を取られている間に急接近し、此方の速射砲と30㎜機関砲による攻撃でガンボートを抵抗する間を与えずに全て撃破する。

一方の哨戒機はバルカン砲やミサイルにレーザー、その上けものミラクルまで用いられた上でフレンズファイターに、一方的撃墜をされていく。


その頃タイガーと博士は、ファウストの戦闘員と銃撃戦で一戦交えていた。

サンドスター炉へ向かう二人はモノレールにのり、そこを目指す。途中に弾薬庫があるホームへ止まろうとするが、敵はカメラ等で居場所を察知しており、当然モノレールの到着地点で待ち構えていた。ホームに到着する直前、扉を開き、敵から奪った手榴弾をホームに向かって投げ、敵を半分減らす。更にモノレールの窓から自動小銃でメクラ撃ちし、更に敵を殲滅する。

「博士。弾薬庫の警備がものの数秒で…!」

「何をモタモタしておる!奴等の目標はサンドスター炉だ。この司令室の三階層真下だ!全員サンドスター炉に外部の見張りと艦の操作に関わる者以外をそこへ集結させろ!」

モノレールが来、停車する。敵の戦闘員のリーダーは「大人しく降参しろ。十秒待とう。」と拡声器で声を響かせる。

しかし、十秒経っても返事が無いので容赦なく一斉に射撃する。モノレールは穴だらけになり、「トラを仕留めたぞ!」と言い、意気揚々と戦闘員複数人が戦果を確認しにいくと、モノレール内部は無人だった。

「返事が無い筈です。モノレールの内部は無人です!」

「なに?そんな筈が…」と、サンドスター炉へ向かう根拠になった監視カメラの映像をよく見ると、変電室周辺を写すモニターに違和感があった。それはサンドスター炉の映像以外が全て静止画像だった。

「しまった」と叫ぶ頃には時既に遅く、ブラッドのいる司令室が大きく揺れる。破壊されたのはサンドスター炉室ではなく、サンドスター炉で産み出した電力をバリアー装置に送る為の変電室だった。静止画だった原因はハッキング。勿論ホワイトタイガーの仕業だ。爆薬庫でプラスチック爆弾を入手する際、薬庫内部のサンドスター制御装置にギンギツネの作ったハッキングチップを貼り、制御装置のサーバーからカメラのサーバーに侵入し、変電室の映像に腕時計型の端末で例の細工を施していた。変電室を爆破し大破させた事により、バリアーが消える。その報告がタイガーの端末からヒグマに伝わる。

「それは本当か。しかし…」

「大丈夫です。自分は今最下層に向かっています。上部でしたら幾らでも攻撃して差し支えありません!」

ヒグマは早急にミサイルと弾丸の補充を終えたフレンズファイターを出撃させ、攻撃に向かわせた。


要塞艦内の廊下。二人の警備兵が後ろから迫る物音に気づく。なんだろうと思い、暗闇に目を凝らすと、ホワイトタイガーに乗っ取られた掘削装甲車が狭い要塞艦の廊下を破壊しながら迫ってきていた。掘削車は最下層に向かっている。

「何をやっておる。あいつ等を捕まえろ!」艦の各所に設置されたカメラからの甚大な被害を見て怒り心頭になるブラッド。が、しかし…

「博士!それ処じゃありません。敵が、敵の主力がこっちへ来ます!」

「えぇい。こしゃくな。迎撃態勢をとれ!」

杉岡と一通り艦内で暴れたホワイトタイガーは、壁を突き破り、掘削装甲車ごと要塞艦から海へ落下する。掘削車に海水が入り、沈む最中、救命ゴムボートを膨らませ脱出する。ボートに乗ると、ポケットから無線装置を取り出し、赤いボタンを押す。すると、要塞艦内部の配電盤や弾薬庫が、全てでは無いが複数、一斉に爆発する。ホワイトタイガーの仕掛けた爆弾により速射砲等ミサイルを落とすシステムが十中四割使用不能になる。ホワイトタイガーは脱出を艦に報告した後にボートに付属していた小型モーターを作動させ、その場を後にしようとする。要塞艦の下部の機銃が弾を撃つ。ホワイトタイガーは梶を巧みに操作し、何とかして回避し続ける。遂にはミサイルが複数発発射され、ボート目掛けて飛んでくる。タイガーはボートの梶を博士に任せ、ピストルでミサイルを落とす。しかし、ピストルは弾切れ。撃ち損じたミサイルがこちらへ飛んでくる。

「危ない!」ホワイトタイガーは博士に覆い被さる。ミサイルは50㍍手前で何処からともなくやって来たミサイルに破壊される。

「待たせたわね。」先ほどミサイルを落としたオオタカから腕時計に連絡が入る。

「ありがとう。良いタイミングだ。飛行長。」

「このまま真っすぐ進んだ所でトムとクロがハンビージェットで待機しているわ。それに乗って頂戴。」

後から飛んできたフレンズファイター4機は、要塞艦上部に対艦ミサイルを撃ち込む。

オオタカの乗る機体はというと艦の下部を攻撃する。ファイターから放たれたミサイルは一機につき4発。計20発。

それが殆んど撃ち落とされるが、2~3発は命中する。要塞艦はただの船よりも大きいので良い的である。ミサイルが着弾した地点には、速射砲やミサイルランチャーがあり、それらが破壊されている。TC号からもついさっきとは比べ物にならない位の数の対艦ミサイルが飛んでくる。要塞艦は必死にそのミサイルを落とすが、数十発命中し、速射砲やCIWSの半分以上が大破し使用不能となる。要塞艦の方も応戦するが、ホワイトタイガーやフレンズファイターによる速射砲やCIWSの破壊により、弾薬庫が誘爆し、ランチャーの方も半分以上が使用不能となっているので思うように攻撃出来ない。また、先ほどのミサイル攻撃により、浮遊装置の半数が故障し、海面に不時着する。TC号が不時着した要塞艦に向かって急降下したかと思うと、50㍉バルカン砲と125㍉速射砲を撃ち、要塞艦の表面に甚大すぎる位の損害を出させる。今度は要塞艦の真上に来たかと思うと、爆弾倉を開き、要塞艦に爆撃する。


要塞艦の司令室。至るところで連続する爆発で揺れる。

「これ以上の戦闘は無理だ。全員脱出。カタパルトまで急げ」

爆発と火災が続くなか、カタパルトが要塞艦からせりだしたと思うと、デルタ翼の音速航空機が複数飛び出す。

「奴ら逃げますよ。追いましょう!」

「ダメだ。今のTC号ではあの早さには追い付かん。」

追うことを提案したリカオンは悔しがる。


V-TOL飛行で空中停止するハンビージェット。

二人は、ボートからそれに乗り換える。

操縦するのはクロヒョウとトムソンガゼル。

「副長、自分人騒がせなヤッチャな~。艦長、博士を危険に晒した事反省せえッてさ。」

説教するクロヒョウにホワイトタイガーは頭をかく。

「申し訳ありませんでした博士。あそこで取捕まえるつもりでしたが、自分の力を過信し過ぎました。」

「いや、私もあそこで引き返してくれると思っていたが…まさか、こんな大冒険になるとはね。しかし、我々の敵は随分と強大らしい。下手な賊とは訳が違う…」

そうこうしている内にハンビージェットはTC号の目の前に来る。

円盤の要塞はというと、爆発を繰り返しながら沈み、海の藻屑となった。要塞の戦闘員の殆どは小型潜水艇で逃げおうし、ブラッド達幹部クラスは先述した音速機で避難した。

「トラストコメット…この仕返しはきっとしてやるぞ!」ブラッドは敗走する機内で呟いた。


TC号艦内の窓から西日が差し込む。

「帰ったら皆でパァーっとやりましょう!」

「えぇなァ‼ワインでもシャンパンでも飲んで…」と、リカオンとクロヒョウ。

しかし、「水を差す様で申し訳無いが、この作戦は失敗だ。」と、ヒグマ。

失敗である理由は第一に、捕まえる筈だった内通者二人に死なれた事、杉岡博士の身に危険が及んだ事、それに付け加え、TC号に軽微ではあったものの損害が出たこと。

「言っておくが、我々に、失敗は許されん。どんな理由があろうともだ。」ヒグマの話を黙って聞いているが決して明るい表情ではない。

しかしヒグマはこう続ける「だが、我々の戦いはまだ始まったばかりだ。今後は幾らでもある。次の成功の為に帰ったら一杯やろう。皆が無事に戻ってきた事に乾杯だな。」

これを聞いた皆の表情に笑顔が戻る。ギンギツネと外沢が音速飛行モードの修理を終えた事を確認し、音速モードに入り、帰投する。この艦と戦いを共にするけもの達の戦いは始まったばかりである。



第一話 完 第二話へつづく。

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