11.アラサー女は感極まる
「へっ?!」
予想もしていなかった態度に変な声が出た。佑太朗は気まずそうに視線を戻し、コホンと咳払いをする。
「えっと……その……永松、俺のこと好きだったん?」
「え、あ、はい……」
改めて尋ねられ、真っ赤になりながら肯定すると「マジか……」と小さな呟きが聞こえた。
「あ、いや、その……もちろん受験の時期だって分かってるし、先輩が関東の大学目指してることも知ってるんで、その、つ……付き合いたいとか思ってる訳ではないんです!! ただ、私のき、気持ちと、応援してるってことをお伝えしたいと思った次第で……」
「迷惑ですよね、すみません……」と肩を落とすと、「いやそうじゃなくて!」と焦ったような声が降ってきた。
「いや、その、確かに今受験勉強でいっぱいいっぱいで……つ、付き合うとかそういうことは考えれんのやけど……」
しどろもどろになりながらそう告げた佑太朗が「でも……」と真摯な視線で実菜を見据える。
「応援したいって言ってくれて嬉しかった。俺、ほんまに結構悩んどったんよ。模試の点数は思ったように伸びんし、親には就職のことも考えろって言われるし……このまま自分の希望だけで突き進んで大丈夫かなってめちゃくちゃ不安やった」
今日は気晴らしになればと思って阿波踊りの誘いを受けてくれたのだという。
「でも今日永松に言われて、やっぱり夢に向かって頑張ろうって思えたわ。好きなことやし極めてみたいんよ。それで就職苦労したとしても、好きなことが出来んことの方が後悔すると思う」
どこかスッキリとした表情でうんうんと頷きながら佑太朗が続ける。
「いろいろ言われて揺らいでたけど……俺だって半端な気持ちでやってた訳じゃないから」
それは勿論だと実菜は力強く首を縦に振って肯定した。彼の頑張りや情熱は十分に分かっている。
「報われんかもって不安になってたけど……。うん、そうよな……もうちょい頑張ってみる。永松、俺のこと見ててくれてありがとう」
満足げににっこりと微笑む佑太朗にそう伝えられ、瞳にじわりと熱いものが込み上げてきた。実菜はギュウと眉間に皺を寄せ、唇を噛み締めてその熱を堪える。
伝えられて、良かった……。
ずっと抱えていた佑太朗に対しての憧れを彼自身に肯定して貰えた幸福感に心が満たされていく。
「私も先輩に負けないように頑張ります」
震える声でそう告げると、「おう」と笑いながら頭を撫でられた。
「もう! これはずるいです!」
気を許してもらえたと勘違いしてしまうような行為に文句を言うと、笑いながら「悪い悪い」と謝られた。乱れた髪を手櫛でときながら佑太朗の顔を覗き込む。
「あ、でも先輩? 私30歳ぐらいまでは先輩のこと好きなままの予定なんで! そして多分その頃には徳島に戻って来てると思うんで……気が向いたら会いに来てくださいね!」
ニカッと笑い、冗談めかしてそう言うと先輩は一瞬固まった後、顔を真っ赤にして「はあぁぁぁぁ???」と大きな声を出す。その表情を見て実菜はぷっ……っと小さく吹き出した。
*****
「じゃぁ……もう遅いし、帰ろうか」
「……そうですね。今日はありがとうございました」
暫く二人で黙って水面を眺めていたが、佑太朗が沈黙を破った。名残り惜しいと思う気持ちに蓋をして応えると、突然足元から眩い光が差し込んみ身体を包まれる。
夢の時間が終わることを悟った実菜は、驚いて目を丸くしている佑太朗に口の形だけで「ずっと応援してます」と呟いた。
直ぐに視界が真っ白になり、数時間前と同様の浮遊感に襲われる。夜風に乗って聞こえてくる賑やかな騒きの音と高い歓声が、祭りがまだまだ終わらないことを物語っていた。
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