第6話 □ 放課後の教室での密談せよ!

【近況ノートに挿絵を掲載中!】


【前回までのあらすじ】

校内にカフェを作るためには、まず施設利用のための活動計画書の提出と三名以上の活動参加者が必要だった。

フブキとミフネの前に、数学の課題が未提出で美術部への参加を禁止されたサユリが現れた。

―――――――――――――――――――――――


「いいわよ。でも、条件があるの・・・。」

ミフネはそういうと、再びフブキの顔を見て「いい?」と小さな声で確認を求めた。

「私たち、校内にカフェをつくろうと計画しているの。でも、そのためには3人以上の活動参加者が必要なの。サユリの名前を貸してくれる?」

ミフネの言葉にフブキもサユリも同時に驚いた。

「カフェって何?喫茶店みたいなの?面白そう!絶対やりたい~。どこに~?どうやって~?」

サユリは子どもみたいに目をきらきらさせて質問を連発した。

「え?でも、この子は美術部なんやろ?掛け持ちしてええの?」

ミフネは、サユリの質問はとりあえず保留して、フブキの質問に答えた。

「この活動計画書を見て。活動参加者氏名とは別にクラブを書く欄もあるんだ。つまり、クラブの枠を超えて施設を利用することが可能なんだよ。ここの活動内容の例にもあるように、複数の部による合同練習とか合同展示とか。」

確かに、ミフネの説明を聞くと、計画書がどんな活動を想定しているか理解できた。

複数のクラブで利用可能ということは、別にサユリがカフェづくりに参加しても問題なさそうだ。

「そうか、じゃあ美術部に籍を置いていても、うちらの活動にも参加できるってことか。」

フブキの顔がぱっと明るくなる。

「なになに~?うちも参加してええの~?そっちの活動やったら提出課題ができてなくてもやってええの~?」

「それはダメよ。課題はちゃんとやって。」

見当違いなサユリの解釈にミフネは毅然とした態度で釘を刺す。


 斜陽の射す放課後の教室で、二人の少女が机に向かい熱心に何やら書き込んでいる。フブキは、活動計画書を。サユリは数学のノートを。

ミフネは、まるで教師のように、その二人の間を行ったり来たりしながら、交互に助言を与えていた。

「ミフネー、活動内容は、なんて書いたらええんやろ?カフェづくりとは書かれへんし。」

「うーん、そもそもフブキは、どんなカフェにするイメージなの?」

「えーっと・・・改めて訊かれると困るなあ。そこまでよく考えとらんかったわ。校内の自販機で買った飲み物持ってみんなでワイワイ楽しもうって感じやのう・・・。」

「でも、それじゃ、ただのたまり場になっちゃうかもしれないよ。ちゃんと私たちの居場所なんだって主張しなきゃ。」

「居場所・・・。」

居場所という言葉がフブキにはすごくしっくりきた。


「でも、『カフェづくり』なんて書いちゃうと、変な詮索されそうだから・・・例えば、『DIY活動』ってのはどう?DIYだから、木工作業だけでなくて、料理やお菓子作りなんかも入るんじゃない?文化祭でのカフェオープンを目指して活動期間も11月まで独占しちゃおう!」

「文化祭までの期間限定か~。」

フブキが少し残念そうにもらす。

「文化祭で注目が集まれば、さらにメンバーを集めて、常設のカフェにするの。そして、売り上げで次の材料を買うのよ。」

「売り上げって・・・お金儲けすんの?」

フブキが目を丸くして反問する。自分の言い出したことだが、そこまでの想定はしていなかったからだ。

「あら、文化祭では、どの部活も屋台を出して活動費を稼いでいるのよ。吹奏楽部や演劇部は普段から公演のチケットを売っているし。さすがにアコギな儲けは出せないけど、活動を維持するために必要な経費ぐらいもらい受けてもいいはずよ。」

「ミフネ、それって今思いついたん?」

今後の計画を澱みなく語りだすミフネに、フブキは驚愕した。

「んー、実は、前に倉庫小屋でフブキの話を聞いてから、一人で構想が次々と浮かんできて・・・・楽しくなって、ノートにいろいろアイデアを書き溜めてるんだ。」

そう言ってミフネは、カバンからノートを取り出し、何やらぎっしりメモが書き込まれたページをぱらぱらめくって見せてくれた。

ミフネがこの数日間、そんなことを考えてくれていたと初めて知った。あの倉庫小屋でミフネの再訪問を待ち焦がれていた分、フブキは胸が熱くなった。

「なんかめっちゃ楽しそうやな~!うちは、そこでウエイトレスとしてがんばるわ~。」

「ありがとうサユリ、でも、今は数学ね!」

ミフネはサユリに笑顔を送るが、一切の甘えを許さない厳格なオーラを放っていた。仲間には入ってもらったものの、今は数学ノート提出に向けて追い上げなくてはいけない。サユリは自分のノートに向き直した。


 ミフネは構想ノートをめくりながら、フブキにこれからのプランを語った。彼女は、ふだん口数の少ないおとなしい少女だが、自分の得意分野の才能が発動すると急に饒舌になる。フブキは、以前、ミフネが倉庫小屋のスロープの計算をしていたときのことを思い出した。

 サユリは、横で楽しそうな話が聞こえてきて、まったく数学に集中できなかった。

「ねえねえ!ウエイトレスのユニフォーム決めよう~!フリフリのエプロンとか~。そんでもって本格的なメニュー表作ろうよ~!うちデザイン得意やで~。壁におしゃれな絵をかざったり、観葉植物置いたり~、外にテラス席もつくろうよ~!」

ついに我慢できず、溢れんばかりのアイデアを放出した。見ると数学ノートには、カフェのイメージスケッチがぎっしりとかき込まれていた。そのノートを目の当たりにした二人は、サユリの魔性ともいえる表現力を垣間見た気がした。


 ミフネが経営面のイメージを論理的に思い描くのに対して、サユリは店内デザインを直感的ビジュアルに表現していく。さすが美術部だ。フブキは、カフェづくりのビジョンが次々と形作られていく感覚を味わった。

 

「サユリ、あなたすごい才能だわ!・・・・でも、わたしフリフリのエプロンはちょっと恥ずかしい・・・・それより、今は数学!」

いよいよミフネは、サユリの横に座りマンツーマンで数学の指導を始めた。

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