第5話 □ 三人の仲間を集めよ!
【近況ノートに挿絵を掲載中!】
【前回までのあらすじ】
高校の敷地内にある倉庫小屋をカフェに改装しようと計画するフブキだが、生徒会のヨーコから活動計画書を提出するよう求められた。
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「え?倉庫小屋使っちゃダメなんか。ほんならしゃーないな。」
椅子に座ったまま鍵を受け取ったイシハラ先生は素っ気なく言った。
その日の放課後、フブキは倉庫小屋の鍵を職員室のイシハラ先生に返しに行った。
先生に頼めばなんとかしてもらえると一縷の望みを持っていた自分が甘かった。
休み時間や放課後の施設配当は生徒会である以上、いくら教員とはいえ授業に関係ない場所で特定の生徒を特別扱いはできないのだろう。
フブキはうなだれたまま礼を言って引き下がる。
「だったら、その活動計画書を書いたらええやん。がんばって書きまい。」
立ち去るフブキの背中にイシハラ先生の激励が飛んでくる。
それがとてつもなく困難なのだ。
「はあ。」
気の抜けたため息のような返事をして職員室を後にした。
教室に戻る気力もなく、フブキは近くの階段に座り込み、活動計画書をぼんやり眺めた。
ただでさえこういう書類を作成するのは苦手なのに、最大の難関は、三名以上の活動参加者を募ることである。
昼間、教室でフブキと楽しくはしゃいですごす友達はたくさんいる。
しかし、放課後になれば皆それぞれの部活で青春を謳歌すべくフブキのもとを去っていく。
あてにしていたミフネもあれから姿を見せない今となっては、三名も集められる気がしない。絶望的な気持ちになった。
「フブキ・・・さん、どうしたの?」
不意に声をかけられ顔を上げると大量のノートを抱えたミフネが立っていた。
「ミ・・・ミフネ!」
フブキは目を丸くしてミフネを見上げる。
「気分悪いの?」
そう尋ねられ、「大丈夫、元気だよ・・・」そう言おうとしたが、最後まで言葉にならなかった。
フブキの顔を覗き込もうとしたミフネが抱えていたノートの何冊かをばらばらと床に落としてしまったからだ。
「あ!ごめん!」
二人は同時に謝って、散らばったノートを拾い集める。
「これ、理科の先生に提出するノート?うちのキャリー使ってくれたらいいのに。いつでも2組から持ち出してくれてええよ。」
フブキのクラスでは明日の授業後、学習委員が回収することになっているものだ。
「ありがとう。あれ、その紙は何?」
拾い上げたノートの束を渡そうとしたとき、ミフネはフブキの手にある活動計画書について尋ねてきた。
「あ・・・これは・・・。」
フブキは手短に活動計画書について説明した。
「じゃ、私・・・手伝いたい。部活やってないから。いいかな?」
「え・・・?」
「この間も誘ってくれたけど、初対面の人にどう返事していいか戸惑っちゃって・・・煮え切らない態度に見えたならごめんなさい。ノート、職員室に出してくるね。ちょっと待ってて。」
ミフネは早歩きで職員室に向かい、両手でノートを抱えたまま入り口のドアに指を引っかけてこじ開けようと苦戦していた。
フブキは思わず駆け寄ってドアを開けてやる。
「フブキさん、ありがとう。」
「フブキって呼んで。」
独りで奮闘したためかミフネの長い髪が、彼女の顔半分にかかっていたが、もう半分から笑顔が見て取れた。
「フブキ、ありがとう。」
ミフネはノートを両手に抱え、乱れた髪もそのままに職員室に入って行った。
フブキは、ノート提出を終え手ぶらになったミフネと教室に向かう廊下を歩いていた。
「そっか、三人必要なんだ。」
「ミフネ、友達で帰宅部の子おらん?」
「あー・・・私、友達そのものがいないからな~・・・。とりあえず、活動計画書は書けるところから書いていこうか。」
などと話しながらミフネの教室、一年六組に入った。すると、カバンを背負った一人の少女が走り寄ってきた。
「ミフネ~!ありがとう~。めっちゃ助かったわ~。おかげで部活に参加できるわ~。ほんとありがとね~。」
そういうと、その少女は慌ただしくバタバタと大きな足音を立てて教室を飛び出していった。
彼女の立ち去った教室はフブキとミフネの二人だけになり、静けさに包まれた。かすかにグランドから野球部の金属バットの音や部員の掛け声が聞こえてくるだけだった。
「あの子は?」
フブキが尋ねると、
「サユリ?あの子いっつもノート提出を忘れるの。
さっきまで私が手伝って、なんとか理科の提出には間に合ったところ。」
「部活って?」
「美術部みたい。でも、あまりに課題ができてないから、顧問の先生に、『すべての課題が終わるまで部活に来るなー』って言われてるらしいの。」
「そうか・・・。」
みんな放課後はそれぞれの部活に夢中なのだろう。
静かなこの教室だけ時間が止まったようにさえ感じる。
「じゃあ、活動計画表書いていこうか。」
適当な席に座り必要な項目を確認していく。
二人だけの孤独につつまれた教室に、遠くから廊下をバタバタと走る足音が近づいてきた。聞き覚えのある足音だ。
「ミフネ~!明日は、数学ノートの提出日やって~!?うち全然できてへんわ~!手伝ってえ~。」
泣きそうな声でサユリが教室に戻ってきた。
おそらく、美術部の活動に参加しようとしたものの、そのことを顧問に指摘され追い返されたのだろう。
「えー!?数学も・・・!?」
あきれ顔のミフネだったが、しばらく黙考し何かを思いつくとフブキの顔を一瞥してにやりとした。
そして、サユリに向かい口を開いた。
「いいわよ。でも、条件があるの・・・。」
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