第3話:ライノーマン
「弩砲隊、放て、急いで放てぇえ。
投石機隊、放て、石の続く限り放てぇええええ」
城壁守備の指揮官騎士が大声で叫んでいる。
彼もこれがとても危険な状況だと理解しているのだ。
遠距離の敵を斃すための切り札、大型弩砲と投石機の投入を決断した。
オーク程度が相手なら、これで十分撃退することができる。
ホブオークでも大丈夫だろうが、ファイターオークだと……
「来ましたぞ」
ドラゴン山脈に続く城門前の下り山道を、大きな灰色が突進してくる。
目に見えないほど早いわけではないが、踏み固められた山道が凹む力強さだ。
とても重量感のある突進に見える。
ドラゴンの皮を張り付けた城門に触れれば、魔族は人間に戻ってしまう。
この魔族は直接触れないように、重装備の鎧で全身を固めているのだろうか。
それとも人間に戻る覚悟をして城門に体当たりする気なのだろうか。
「ライノーマンです、敵はライノーマンです、カーツ様」
ライノーマンか、確かサイ型の魔族だったな。
数々の戦場では、その突進力で数々の城門を破壊したと聞く。
もっとも、ライノーマンでも上位種のファイターライノーマンとかだが。
今突進してきているライノーマンは上位種なのだろうか。
ブラッド城は普通種のライノーマンに破壊できるような城門ではないはずだ。
ドッザッサァアアアアア
「申し訳ありません、カーツ様。
ライノーマンは全くすき間のない強固な鎧を装備しておりました。
私の力では貫通させる事ができませんでした」
「ライリーの責任ではありません。
敵も魔族とはいえ戦術を心得ているのでしょう、気にしないでください。
アーノルド、貴男の剛力は厚く強固な鎧も貫通させてくれました。
貴男のお陰で敵の作戦を頓挫させる事ができたかもしれません」
「過分なお褒めの言葉を賜り、感謝の言葉もありません」
アーノルドはこれで面目が立ちましたが、問題はライリーだ。
できなかった事を、敵が上手だと言って不問にしたが、これだけではライリーの面目が立たないし、俺が無理無体な命令を下した事になる。
ここは次の命令を出して、面目を立てなければいけない。
「ライリーの弓術は達人級ですから、この緊急の時に活用すべきですね。
普通の鏃を使って、魔族を狙撃してください。
鎧にすき間がある魔族を、的確に射殺してください」
「名誉を挽回する機会を与えてくださった事、心から感謝いたします、カーツ様」
「戦いには敵がいるのです、敵の戦力と能力次第で百戦百勝とはいきません。
今回は相手の装備が上回っていたのですから、勝てなくて当然です。
それに、敵を十分見極めようとして手遅れになってはいけないでしょ」
まあ、俺の指揮で失敗したのだから、理由を明らかにしておくべきだ。
断じて俺の指揮や命令が間違っていなかった言い訳ではない。
「「「「「ウッオオオオオ」」」」」
魔族軍が今までに増して数で押してきた。
弩砲や投石機で遠くにいるうちに斃しているのに、全くひるまない。
それどころか、最初から鎧を脱いで攻めてくる。
城門下で鎧を脱ぐ時間を惜しんでいるのだろうが、その分途中で斃されている。
なんだ、なにをしているのだ。
ゴブリンどもが死んだ仲間を盾にして近づいてきやがった。
「カーツ様、恐らく魔族は味方の遺体を積み上げて足場にするつもりです。
ゴブリンの遺体が城壁の高さまで積み上がったら、上位種かオークが来ます」
アレキサンダーの説明は最悪の予測だが、間違いないだろう。
俺が非情な指揮官なら、同じ事をやらせていたかもしれない。
強力な魔族ほど極悪非道な本性なのだから、味方を殺す事を躊躇わないだろう。
「俺の護衛に影響しない範囲で防御に加わってくれ」
「「「「「はっ」」」」」
8人の護衛騎士のうち5人が矢を射始めた。
ライリーの弓射はとても的確で、できるだけ強そうな魔族を確実に射殺す。
アーノルドは剛弓で完全装備の魔族を射殺してくれている。
他の3人はライリーやアーノルドほどではないが、護衛騎士として恥ずかしくない腕前で、確実に魔族を射殺してくれている。
「「「「「ウォオオオオオ」」」」」
また敵の雄叫びが強くなった。
ゴブリンどもがまた左右に分かれた。
今度もライノーマンが突撃をかけてくるのかと思ったが、違った。
ホブゴブリンだと思われる部隊が完全武装で駆けてきている。
ゴブリンより腕力があるのを利用して、大木を縄で結んで運んでいる。
大木を城壁に叩きつけて破壊するつもりのようだ。
「「ホブゴブリンを狙え」」
俺と城壁守備の指揮官騎士が同時に叫んだ。
あの程度の攻撃でブラッド城の城門を破壊できるとは思わない。
だが、千丈の堤も蟻の一穴より崩れると言う。
何度も何度も叩きつけられたら、表面のドラゴン皮は大丈夫でも、材木部分が徐々に破壊されてしまう。
今この状況で城門を完全に修理する余裕はないのだから。
「カーツ様、城門ばかり気にしていると、城壁をよじ登られてしまいます」
アレキサンダーの指摘通りだった。
いったい何体のゴブリンが斃されたのだろうか。
城壁の三分の一の高さにまでゴブリンの死骸が積み上げられている。
普通種のゴブリンなど滅んでも構わないと思っているのかもしれないな。
「ライノーマンです、新たなライノーマンが十数体現れました」
珍しく少し焦った声でアレキサンダーが指摘してくれた。
俺たちが近場に目をやってしまっている時も、魔族の本陣を見張っていたのだ。
俺も直ぐに望遠鏡で確認したが、確かに複数のライノーマンが突進してくる。
ホブゴブリンの破城部隊は囮だったのか。
それとも、最初から二段攻撃で城門を破壊するつもりだったのだ。
何より心配なのは、魔族が三段攻撃や波状攻撃を考えている事だ。
「アーノルド、ドラゴン素材の鏃を使う許可を出す。
ライノーマンの鎧を貫通させてやれ。
ライリー、試しにホブゴブリンをドラゴン矢で射ってくれ。
ライノーマンより鎧が薄ければ貫通させる事ができるかもしれない。
貫通させられなくてもライリーの責任ではない」
「「はっ」」
ここは両方の敵を斃さなければいけない。
ここで確実に敵を斃せなければ、ブラッド城の防御力が少しずつ弱められる。
表の門扉を破壊されても、中には城壁分の厚みに大岩を5つも詰めてある。
大岩をどけられたり破壊されたりしても、城門の内側にも頑丈な門扉がある。
さらに大岩の詰めた空間には、上から鉄格子を3つも落とせる構造だ。
そう簡単に突破されるような城門ではない。
「申し訳ありません、カーツ様」
ドッガーン!
アーノルドの詫びの言葉と同時に、大きな破壊音が聞こえてきた。
俺に見えていたのだ、アーノルドが次々とライノーマンを斃してくれていたが、さすがに十数頭全てを射殺す事ができない。
「謝らなくていい、それよりライノーマンを逃がすな。
もう1度突進して来れないように、確実のここで射殺してしまえ」
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