第50話 神去来辞

 混元聖母の展開した隔離世結界は、どこまでも昏く澱んだ場であった。それは1200年前、蛮王ゴリアテに受けた陵辱、その後の人間というものへの失望、近々ではアカツキの永安帝による巫女の冒瀆など、マイナスにマイナスが重なり形成されたものであり、悲愁哀愁と絶望が支配する場の空気に辰馬たちの心も重くなる。


「精神性の反映、か……。こんなん見せられると、なんか可哀想な気もしてくるが……」

「いらん慈悲心起こさないでよ、たつま! なんにせよアイツを倒さないと、人類に未来はないんだから!」

「……そーだな。ここまできて是非も無し、だ」

 エーリカの言葉に、辰馬は頭を振って前を向く。軽く盈力を掌に纏わせると、空間をばしゅ、と裂いた。隔離世結界そのものを破壊するわけではないが、こちらの同情心を煽る陰鬱な歴史壁画のようなものを消失させる。


「女神たちに同情する気持ちもなくはないが、この世界は人間のもんだ。神も魔も人間の心の中にいる。だから紛いモンの神魔にはこの際、この世界から退場してもらう」

 自分に言い聞かせるように、辰馬は言った。それはただ神魔を打ち払うというだけでは済まない覚悟。このアルティミシアの創世女神グロリア・ファル・イーリスも、そして魔王の系譜に連なるクズノハや自分も、すべて消し去る覚悟。


 クズノハがおれを殺してやってくれるなら、それでもよかったんだが。托された以上おれがやらんといかんだろ……。


 苦いものを飲んだ顔で、辰馬はまた頭を振った。おそらくクズノハでは創世女神を殺せないから、この世界から完全に新魔の干渉を消し去るには辰馬がやるほかないのだが……それはクズノハという実の姉も殺して進むことを意味する。沈鬱にもなった。


「ご主人さま、なにか思い悩むことがあるならわたしたちに……」

「そーだよ~、たぁくん? だいたいたぁくんってバカなんだから、一人で考えても答えなんかわかんないって」

 瑞穂と雫の声かけに、辰馬は三度頭を振って向き直る。


「頭悪くて悪かったな。……ま、心配あんがとさん」

 気丈に笑い、軽く手を振って歩き出す辰馬。瑞穂と雫は顔を見合わせ、明らかに様子のおかしい辰馬を心配するも、辰馬はなんでもないない、とあしらうばかりで答えない。


「………………」

 一人、辰馬と一緒に魔王クズノハの前にいてその願いを聞いた美咲は、辰馬以上に沈痛な表情でその後ろ姿を眺める。


………………

「神使か……」

 行く手を阻んだ5人の有翅の少女に、辰馬は誰何する。混元聖母以外、相手にするつもりも相手にする時間も無いのだが、向こうは混元聖母から時間を稼ぐよう命ぜられての出陣だ、避けて通るというわけにもいかない。


「ここはわたしがやりましょう」

 神使の少女たちの殺意を受けて、サティアが前に出た。


 辰馬たちは任せて先に進む。


 それを少女たちが追う。


 間に入るサティア、そこに神力の弾丸。


 一撃が十分に、神を殺しうる威力。


 しかし弾丸はことごとく、サティアを避けてはじかれる。


「女神としては最後のご奉公、になるかしら。旦那様のそばにいるためには神としての権能、返上しなくてはならないようだし。……けれどその前に、愚かな小娘たちには身の程を知ってもらうけれど」

 辰馬の心を読んだわけではなく、サティアの力が大きいとは言えそんな能力は持たない。が、神魔をこの世から打ち払うというならサティアも排斥の対象。それを免れるためには神力を返納するべきという結論に達した。


その前の、これがサティアの女神として最後の戦い。


 力を発したわけでもなく。


 ただ、存在するだけで内から外に発せられる力。


 その巨大さに、神使の少女たちは恐懼震駭した。


………………

「お次は天使か……。出水、任せていーか?」

「任せるでゴザルよ、生まれ変わったわが忍法、この触手どもをぐちょぐちょのくんずほぐれつにしてやるでゴザル!」

「お、おう……ぐちょぐちょは、まあほどほどにな」

「行くでゴザルよぉ、シエルたん!」

「はいはーい! お任せ!」

 次に立ちはだかった天使の群れには、出水が対す。力を練り上げると盈力の無数の大黒鎌が現出し、天使たちをすくませた。


「ふふふのふ。頼られるって良い気分でゴザルなぁ~。赤ザルや筋肉ダルマじゃあこーはいかんのでゴザルよ!」

「きゃー、ヒデちゃんかっこいー!」


………………

 そして。しばらくいくばくかの天使や神使をやりすごし、あるいは蹴散らして。


 辰馬たちは女神・混元聖母のもとにたどりつく。


「……来たの……」

「来たよ。これ以上好き勝手やらせるわけにいかんからな」

 内心、まだ葛藤はありつつも。世界のためと無理矢理自分を納得させ、辰馬はそう言う。神が絶対悪ならこの躊躇いもなかったのだが、人間の側の非も十分理解できるだけに辰馬の逡巡は大きい。


「好き勝手は……人間のほうでしょう……まあ、いい。どうせ滅ぼす種の言葉など、いちいち取り合う必要も無いし……。相手を、して上げる……」

辰馬の言葉に人間のおごりを感じた聖母は、怒りと憤りを覚えながら黒き麒麟、角端としての能力を解放。顳顬のあたりから竜のそれに似た双角を生やし、端正な法衣からのびた両手足の肘からさき、膝下にはやはり竜に似た鱗。黒い長髪はたてがみを思わせて伸び、赤い瞳は燃えるがごとく。そして全身を覆うように青・赤・白・黄・黒の五色の雷光が聖母を包む。禍々しくも美しい、それは魔性の美。


さらに彼女はこの結界内に配下を召喚する。


4人の少女。


彼女らは神使とはあきらかにわけが違った。褐色肌に大盾を構えるは玄武、雲と雷霆をまとわせ、口から火花を散らすのは青龍、白い獣毛の武道着をまとう、大爪の少女は白虎、赤い翼を背に飛翔するのは朱雀。四神といわれる神の列。


「なんか、強そうっスね……」

「ビビんな、赤ザル! 来るぞ!」


 白虎が趨る。シンタよりさらに早く、最先手を取る。間合いにあと数歩のところで跳躍、巨大な爪を振り上げ……


 打ち下ろす!


 空気が裂けて大地に、巨大な拳痕が穿たれる。


「っく! んぎいいいいいいいいいいいぃーっ!」

 これを受け止めたのはエーリカ。女王らしからぬ、というか美少女らしからぬ声で踏ん張り、聖盾アンドヴァラナートで白虎の爪と身体を押し返す。


「こんなもんであたしをどーこーできるとか、思うんじゃねーわよ! つーかね女神サマ、あんたがどんだけ人間に腹立ててるかしんないけど! あたしだって自分の国勝手にされて怒ってんだからねっ!」

 根性で圧し勝つエーリカ。怯んだ白虎の横っ面に聖盾で殴打をくれて、フンスとばかり昂然と胸を張る。


「さあ、続きなさいあんたたち!」

「……そーだな。エーリカの言うとおり、か」

 エーリカの怒声は、辰馬の迷いを振り払う役目を果たした。実際神と魔というものに侵略されて一度は国を失った女王の言葉は、1200年前の恨みなんかより鮮烈に重みが違う。


「うし、やるぞ皆! 神と人間の最終決戦だ!」

「おーっ! じゃ、あたしの相手はそこの盾使いさんかな?」

 雫がまず、玄武に向かい。


「では、わたしは天使さんを」

 瑞穂は朱雀にむけて梓弓を構える。


「爪使いは俺が相手しましょう」

 大輔が白虎に相対し、


「じゃ、あたしがあの竜人を止めるから、シンタ、仕留めなさい」

「あいよっ!」

 エーリカとシンタが青龍と対峙する。


 そうして4所での戦いが始まる。辰馬と聖母は仲間を巻き込んで巨大な術をぶっ放すわけにも行かず、それぞれ後方で仲間たちの支援。


………………

 雫の剣技はいよいよ練達の技量高まり、四神のトップ、玄武の防御も圧倒する。玄武が放つ土礫を軽やかに躱し、右と見せて左、左と見せて右、また右と見せて今度はそのまま右、と変幻自在の攻撃は玄武にそもそも防御運動をさせることがない。攻防は一方的となり、玄武はたちまち血まみれになった。


 それでも表情一つ変えずに攻撃を受け続け、カウンターの隙を狙っているのは驚異的なタフネスによるものか。雫の攻撃に一方的に打ち据えられながらも、相手が疲れて動きを鈍られたときが逆転のチャンスだと見極めているようですらあった。


「んー。タフだねぇ……。そんじゃ、おねーちゃんも久々に本気出しちゃおっか♪」

 言うなり、雫の姿が消える。これには青龍のみならず、後ろで見ていた混元聖母、そして味方である辰馬も瞠目した。


 そして次の瞬間、青龍が吹っ飛ぶ。なにをしたのかなにがおこったのか、青龍にも聖母にも辰馬にも分からない。わかることは青龍が、いまの一撃で完全にKOされたということだけ。


「しず姉、なにやったの、今?」

「んー、あれだよ、瞬天七斬」

 瞬天七斬。牢城雫の奥義であり、敵の懐に入り一瞬のうちに7太刀を決めるという絶技……ではあるが、辰馬が知っている瞬天七斬とは速度も威力も桁違いだった。

「いや……でも……、姿が消えるって、なに?」

「んー? 全力で踏み込むから、早すぎて見えないんじゃないかなぁ。あたしに言われてもよくわかんないや!」

「……ぁ、そう……」


………………

大輔と白虎の戦いはかなりの苦戦模様を呈した。両者ともに大きなモーションからの大威力の一撃、格闘家という似た戦闘スタイルの戦士だが、その破壊力のおよぶ範囲が大輔と白虎とではかなり異なる。大輔の間合いでは届かない攻撃も白虎からは届き、このためかなり一方的な戦闘になった。


「つっ……虎食み!」

 必殺の一撃、猛虎の闘気も簡単に躱されてしまい、痛烈なカウンターがぶち当てられる。


 大輔はガードを上げた。息が上がってしぜんと腕を上げたかのようにして、誘いをかける。


 果たして白虎は勝機と見た。大爪を振りかぶり、大輔のがら空きな腹部に必殺の一撃を繰り出す。


 それを、大輔は掴んで止めた。すかさず、腕をねじりあげて後ろ手に極めると、押し倒しざま膝と床とで白虎の頭をプレスする! 【大虎落(おおもがり)】、大輔の奥の手であり、頸椎頸骨を粉砕するまさに必殺の一撃。さしもの白虎もひとたまりもなかった。


「女と思ってたら……こんな技は使えなかったが。悪く思うなよ……」

 膝をつきそうな身体を叱咤して、大輔はさらに奥に控える相手、混元聖母を睨んだ。


………………

 エーリカ、シンタと青龍の一戦もなかなかの苦闘に悩まされる。まずエーリカが青龍の雷霆を止め、止まったところにシンタのダガーが飛ぶのだが……、上位の竜種である青龍にはまずダガーが通らない。シンタの獲物は父・上杉子爵から餞別に貰った聖別されたダガーなのだが、青龍にとってはそれですら威力が足りない。


「くそがよ!」

 じれたシンタは投擲から接戦にスタイルを切り替え。竜鱗の継ぎ目に刃を突き立てて、必殺【環集雷刃法(かんしゅうらいじんほう)】からの【砕破(サイファ)】につなごうとするも、接戦は竜人の思うつぼ、両手両肘両足両膝、プラス角としっぽを駆使した竜の闘技に圧倒される。


 しかしここで一方的に殴られずに済むのは間にエーリカがいるからで、彼女は自分をとにかくシンタの攻撃が機能するまで彼を守る壁と定義、ひたすら防戦に努め、それは竜闘技の猛攻をもすべて凌いでのける。


 シンタは再び間を取り、自分の真価は狙撃にあり、と立ち戻った。だが普段のスローイング・ダガーでは威力が足りない。投擲で環集雷刃+砕破のコンボに匹敵する威力を出す必要があった。


 あんまし「力」を練るとか苦手だけどな……、ま、やってやるさ、オレだって天才だし!


 普段、素の霊力だけで雷を操るシンタ。その才能の高さは十二分。力が霊力のままでは青龍の鱗に届かない。ならば。


 いま、この場で。天壌無窮に届かせるーー!


 大輔と出水は過去に1回、瑞穂の「先触れ」によって未来の自分の可能性に触れ、天壌無窮に達したことがあるが、シンタはまだその経験すら無い。だが新羅辰馬の三傑の中で、最もセンスと才能に溢れるのはこの赤毛!


「シャクロー・デーヴァーナーム・インドラ(天帝インドラ)!」

投擲。白い光を帯びた雷刃。青龍は本能的にこれが危険と悟り、大きくその顎を開いて雷鳴を放ち、消す……つもりだったが、天帝の稲妻は威力を減じるどころかなおますますに輝きと威力を増す!


打ち消せないなら回避すべく動く青龍、しかしエーリカが行動を掣肘し、逃がさない。雷刃は青龍の肩の付け根に突き刺さり、ここは首の後ろから繋がる逆鱗。青龍は悶絶し、失神した。


「ッハァ、どーよオレの覚醒! 見てたっスか、辰馬サーン!?」


………………

 そして神楽坂瑞穗対朱雀。


 瑞穂は神御衣の威力を全開、自身の齋姫としての力も全開にして、神に等しき力を存分にふるって朱雀を圧倒した。瑞穂の弱点と言えば身体の一部が極端にあまりにもいささかどうしたものか非常に大きいために身ごなしがどうしても鈍重なことだが、その欠点も神御衣と自前の神力の力を解放して万端。いまの瑞穂は神弓の弓手として比類無い実力を発揮する。


事実瑞穂の矢は何度となく朱雀を射倒したが、しかしその都度難度でも朱雀は立ち上がり、火弾を瑞穂へと浴びせてくる。瑞穂が朱雀に与えたダメージから比べると朱雀から瑞穂へのそれは10分の1以下だが、それでも累積するダメージは馬鹿にならないし、しかも倒れるたび再生する相手にはいささか閉口する。


朱雀というのは火の鳥であり、象徴は死と再生。ゆえに並みの方法でいくら倒されたところで、すぐに再生してしまう。


朱雀は勝利を確信した。瑞穂の矢を躱しもしない。脇腹に突き立った矢はしかし、すぐに再生されず、むしろ逆に傷口から朱雀を崩壊させていく。


「矢にトキジクの力を込めました。あなたの傷口から、周囲の時間を逆転、崩壊させます……わたしの勝ちですよ」

 新羅辰馬やクズノハ、混元聖母といった盈力もちではない、牢城雫やガラハド・ガラドリエル・ガラティーンのような魔力干渉無視の能力者でもない。であれば瑞穂の時間操作に抗しうるはずがなかった。瑞穂の力に圧倒された朱雀は、たまらず降参する。


………………


「さて、これでようやく、勝負できるな」

「………………」

 辰馬の言葉に、混元聖母は押し黙る。盈力持ちとはいえ彼女の力の根源は「混元四幡」によるところが大きい。坤地幡はクズノハに灼かれ、混元幡は辰馬の一撃を受け止めてこれまた破壊。昏冥幡と魂還幡は表界で使用中であり、残余の盈力は四神の召喚にほとんど使い果たしている。力を軽くぶっ放す程度の一撃でどうになかなる相手ならともかく、目の前の銀髪少年にそれが通用しないことは自明。


「……殺しなさい」

 ここまでひたすら執拗に人類を苦しめてきた聖母は、思いの外潔く諦めた。


「………………」

「たつま?」

「辰馬サン? まさかここン来てできないとか……」

 エーリカとシンタが、まさかというように訝る。ここにきて殺せないとか言われても困るのだ。人類の命運と、小さな慈悲心では秤にかける以前の問題である。


「いや……うん。大丈夫、やる……。そんじゃやるぞ、混元聖母。人類擾乱の罪により、その命……」

「待ってくださいーー!」

 そこに飛びこんできたのは妙齢の、やたら色っぽい金髪女性。絶世の美女といって良いその女性は、何処からどこを通ってきたのかやたらと傷だらけで、ボロボロだった。


「ロ……イア、馬鹿、無理矢理、封印を……」

 ロイアと言われた金髪美女、セッスルームニルの封印を強引に引き破ってここにやってきた女神ロイアは、混元聖母の言葉に哀しげな顔で言い返す。


「馬鹿はあなたです、混元聖母。いまさら人類の皆さんにこんなおおきな迷惑をかけて……」

「人間は……許せない……。貴方だって、そうであるはず……」

「いい人もいれば悪い人もいます。それは神も人も同じであるはず。すべてのひとがあのゴリアテと同じではないでしょう?」

「変わらない……一皮剥けば、すべて同じ……」


「なん……誰?」

「神域セッスルームニルの主、女神ロイアさまです。封印で、うごけないはずだったのですが……無理にここまでやってきたのですね……」

 辰馬の問いに答えたのは美咲だった。彼女は過去、インガエウと穣と一緒に、セッスルームニルでロイアに会っている。


「はあ……そんで、ロイアさん? あんたは話が通じそうな……」

「はい。魔王継嗣、新羅辰馬さん……ですね。混元聖母のやったことは許されないことかも知れなせんが、彼女にも彼女の正義があってのことなのです。どうか許してはもらえないでしょうか……?」

「それは……」

 言いよどむ辰馬の袖を、エーリカが思いっきり引っ張る。ここで「許すよ-」とか言ったらエーリカが辰馬を殺しかねない勢いだ。


「かわりに、わたしたち神族は未来永劫、神界に引き籠もって人間界には干渉しないことを誓います」

「……そんなら……」

「ダメよたつま! そんなの信用できない!」

「神界と人間界の間の封印は新羅さんが施していただいて結構です。今の、魔王として完成されたあなたの封印を女神の誰が破れましょうか」

「……っし! その条件でいこう! もし神族が今後人間界で問題起こしたら、おれが責任取る!」


………………

 かくて、女神ロイアはすべての国を回ってすべての女神と交渉し、主神、属神を神界に帰す作業に着手することとなった。これが達成されるまでに数年はかかるが、それ以降は完全にこちらとのつながりは断つ。その約束を交わして辰馬たちは女神たちと別れる。


 戦況も一変していた。もともと混元聖母の傑出しすぎた戦術頭脳があってはじめて神軍優位だった戦況、彼女が神界送還第一号として送り返され、四神をはじめとして上位の眷属も送還された今、下級天使や神使のごときは烏合の衆でしかない。魔軍の魔術と、対神魔連合の組織だった殲滅攻撃で、数時間の内に制圧された。


「で、なんでこいつは送還されてないんでゴザルか?」

 激闘から帰った出水が、しれっと残留のサティアを横目に言う。


「なに? 文句あるのかしら?」

「神族はすべて神界に送還するんでござろぉ~? なんでこやつが残ってるでござるか!?」

「いーんだよ。サティアはもう神様じゃないからな。神格と神力を返上して、いまのそいつは普通……よりかは強いか。まあ、そん程度の人間レベルだから。それに今更、サティアがなんか人類を覆そうとするなんてこともないだろ?」

「はい……♡ 旦那様のおそばにいられればそれで♡」

「相変わらず、いろいろ甘いでゴザルなぁ……」

「いーからいーから。さて……あとは……」

「あたしたちの決着、ね」

 戦争の事後処理が一段落した辰馬たちの前に現れる、魔王クズノハとその腹心たち。


「よお、久しぶりだなエーリカ」

「なによ、生きてたのアンタ?」

「……っ、ま、まぁいいさ、すぐにお前はオレのもんになるんだからな!」

 ローゲがエーリカにきざったらしくほほえみかけ、エーリカはいかにも迷惑そうにあしらう。あしらわれてもへこたれないローゲだが、エーリカは相手にしていなかった。


「4対4ね」

 ざっと見て、クズノハが言った。まずクズノハ陣営がクズノハ本人、もオリエ、ローゲと、あと一人謎のローブ。辰馬側といえば辰馬本人と瑞穂、雫、エーリカ。ちょうど4対4である。

「……あー、うん」

「ヴァペンハイム国際競技場で勝負、ということにしましょう、観客を入れて、大いに盛り上がりましょう!」

「盛り上がるの好きだね、あんた……ねーさん」

「そりゃあね。これで最期かも知れないのだもの」

「……そうだな」


 かくて神は去り、そして魔も去ることになるのか否かは、次の一戦次第。

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