35.独り言
打ち上げが終わり、家に帰ってから、一息つく。今日はいろんなことがあった。
冬花に気持ちを伝え、付き合うことになったこと。打ち上げで、男子に告白されたこと、自分が男であると伝えたこと、僕の過去をみんなに聞いてもらったこと。
その中で、一番驚いたのは、クラスのほとんどにバレていたことかな。それでも今まで、何も言わずに見守っていてくれたんだろう。僕はこんなにも多くの人に支えられていたことが嬉しい。このことに気づくことができてよかった。
にゃーん。
ティアがこちらに近づいて膝の上に乗っかる。拾った時よりもずっしりとしてきた。手を顔の前にやり匂いを嗅がせる。嗅ぎ終わったティアは手のひらに顔を擦り寄せる。撫でろという合図だ。
この合図をするのは甘えてくれていると感じることができるので、少し嬉しい。
顎の下を撫でてあげると、ごろごろと喉を鳴らしているのがわかる。
ティアを撫でながらも、これからのことを考える。もうずっと紗夜のままでいるわけにはいかない。ふと、ハンガーラックをみる。いつも着ている女子制服の後ろに、着ることは絶対にないと思っていた男子制服がある。おじいちゃんとおばあちゃんにどうしてもと押し付けられたやつだ。
自分の長い髪を鏡で見る。ぱっと見では紗夜お姉ちゃんと見間違えるだろう。引き取られるまで、僕の髪はボサボサで伸びたままだった。散髪に行ったことがなかったが、そのおかげで紗夜お姉ちゃんと同じ髪型にするのは簡単だった。
「ふふっ」
急に笑ってしまったことに、ティアがこちらを見上げる。今日のことを思い出してしまうと笑い声が込み上げてしまう。
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「櫻井さんは明日から服装はどうするの?」
「祖父母が両方の制服を用意していてくれたから、明日からはそっちを着ようと思ってる」
「えー、紗夜ちゃんは制服似合ってるから、そのままでいいと思うけどなー」
「さやか、そんなことは言わない」
ちぇー、と少し不満そうなさやかを見て、苦笑いする。でも、これが僕にとってのケジメだから、樹として生きるなら、そんな中途半端なことをしてはいけないと思うから。
「それから、明日にこの髪を切りに行こうと思ってるんだけど」
どんな髪型がいいと思う?と、聞く前に、部屋に響き渡る声で大ブーイングが来る。
「だめ、だめ、だめー、だめだよ、紗夜ちゃん、服は諦めるからその髪型だけはそのままでいて!」
「そうよ、樹、無理をしてその綺麗な髪を切る必要はないわ」
「そうだよ、櫻井さん、もったいないよ」
さやかはともかく、冬花までにも止められた。髪を切ってはいけないのが女子の総意らしく、他に助けを求めることができないので、男子の方を向く。
ものすごい速さで目を逸らされた。髪型に関してはこの髪型の方がいいらしい。
まあ、でも少しぐらいは今のままでもいいのかもしれないな。
いたっ
ティアに指先を噛まれてしまった。どうやら、自分に構わず、物思いに耽っていたのが気に入らなかったらしい。もう一度顎の下を撫でてあげると、ごろごろと喉を鳴らし始めた。
「僕を見てくれる人はいっぱいいたんだ。そして、お前にも僕がいるよ」
わかるはずもないのに呟いた言葉は、ティアに届いたのか、返事をするように一度泣いた後、安心したように眠ってしまった。
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