間話:過去を知る

文化祭が終わって、今はみんなでカラオケ店にきて、打ち上げをしている。このような催し物には参加してこなかったので、初めての経験でもある。

 私に彼氏ができるとは思わなかったな。結局お母さんのいう通り、最初から彼のことが気になっていたのだろう。それでも今はこの幸福感が心地良い。


 彼は予想どおり、カラオケも初めてだったようだ。知っている曲もないと、歌えないんじゃ…

 どうやら彼は、有名な曲で聞いたことがありそうなものを選択するが、その曲はデュエット曲だ。私も歌ったことはないが、彼と一緒に歌えるのなら、楽しくなりそう。


 彼は辿々しい感じだけど、上手だった。練習すればもっと上手くなるんじゃないかと思う。そんな楽しい時間が過ぎていったある時、一人の男子がマイクごしに彼に告白する。


「櫻井さん、好きです。以前からも好きでしたが、怖がっているのに、九条さんを助けていたところを見て、余計に惚れました。付き合ってください」


 彼は断るだけかと思っていたが、自分が男であるとこの場で告白した。けれど、クラスの状況についてきていないらしい。まあ、私も男子たちが気づいているとは思わなかったが、プールの時に女子から質問されたことを思い出す。


「ねえ、九条さん、もしかして、櫻井さんって普通の女子じゃない?」

「…どうして?」

「プールは今日で最後だけど、彼女はいつも参加していなかったから。それにプール上にも来ていないってことは何かあるんじゃないかと思って」


 周りを見回すと、他の女子もこちらを見てうなずく。


「そう、紗夜にも事情があると思うの。例え、それがあなたたちの想像どおりだったとして、何か問題がある?」


 以前、私が先生を問い詰めようとして、言われた言葉を私が言うようになるとは思わなかったな。言ってから、そんなことを考え、つい可笑しくなる。


「何も変わらないよ。ただ少し気になっただけ。たぶん櫻井さんだからかな?私はあまり気にならないかな」

「ありがとう」

「どうして九条さんが?」

「好きなのよ。紗夜のことが…ね、このことは内緒にしてね」


 彼は頑張っていると、心の底からそう思う。だから、彼に抱きつき、彼の名前を、みんなの前で堂々と呼ぶ。

「樹、頑張ったね」


 泣き止んだ後、彼は自分の過去を話す。それは、聞いているだけでもとても辛いものだった。両親の虐待のこと、お姉さんの事件のこと、ずっと死にたいと思っていたこと。もう、彼にそんな思いはさせたくない。


 私だけが色づいて見えたという言葉がとても嬉しく思う。例え、どんな理由だったとしても、彼に色を見せることができたのならよかった。それに、彼を見つけることができて今はよかったと思う。それに、私たちはさやかに感謝しないといけない。止まってばかりだった私たちを、引っ張り出したのは彼女なのだから。


 彼はまた、みんなが泣いていることを自分が悪いと思い込んでいるが、そんなことはない。

 だって、ほら、さやかたちを見てほしい。


 誰も、聞かない方がよかったなんて思っていない。


 みんなが、あなたのことを、樹のことを受け入れたんだよ。

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