32.文化祭2日目
文化祭の2日目が始まった。1日目と同様に、僕たちのクラスは人気なようで、あまり休む時間がないくらい忙しい。
ただ、昨日とは違って、男性のお客よりも、女性のお客の方が多い。
「今日は女性のお客さんが多いね」
「あー、それは紗夜ちゃんのせいっていうか、おかげっていうか…」
?さやかが変に言い淀むが、理由がわからない。私は何もしてないけど…
「昨日のね、紗夜ちゃんが冬花ちゃんを守った姿がね、女生徒を中心に盛り上がっちゃって、紗夜ちゃんを一目見ようと、来ているみたいで…、だから、トーカちゃん、怒らないで!」
「…別に怒っていないわよ」
料理を食べているお客さんたちの声が少し、聞こえてくる。
「昨日の話聞いた?」
「聞いた、聞いたー、痴漢が出てきたけど、メイドさんがやっつけたって話でしょ」
「そうそう、本人も怖がっていたらしいけど、痴漢されそうな子を守るために、頑張ってる姿がすごかったんだってー」
「いいなー、私も見たかったー」
「でも、今日の絵がうまく描けなくて、落ち込んでる姿も可愛かったー」
「だよねー、かっこよくて、可愛いとかずるいよねー」
そんな会話が聞こえ、恥ずかしくなる。昨日のことまでは別によかったのだが、絵のことまでには触れてほしくなかった。それに、気になることがある。
「さーやーか、どうして、昨日の痴漢を相手にしたのが私だってバレてるの」
「紗夜ちゃんは、もう少し周りの人から注目されていることに気づいた方がいいと思うよ」
「そうよ、もう少し気をつけなさい」
冬花の機嫌がとても悪い。朝会った時にはそうでもなかったのに。文化祭が始まってからのセリフの一つ一つに棘を感じる。
「冬花、怒ってる?」
「…怒ってないわよ」
「なら、今日も一緒に回ってくれる?」
「…わかった」
「ふふっ」
今日も冬花と一緒に回ることができるみたい。そうだ、アイスも食べに行かなくちゃ。楽しみだな。顔が無意識に笑顔になっているのがわかる。
「…や、紗夜」
「?どうしたの?」
「顔!すごい笑顔だったよ」
「だって、楽しみなんだもん。仕方ないよね」
その後、私は、クラスメイトやお客さんからもチラチラ赤い顔で見られるようになったけど、気にならなくなった。私たちが担当する時間が終わり、今は冬花と一緒に3-Aに来ている。
「あっ、櫻井ちゃん。来てくれたのー」
「はい、アイスをもらいに来ました」
「席で、ちょっと待ってってねー」
「何が来るんだろうね」
「そうね。楽しみにしておきましょう」
「お待たせしましたー」
先輩が持ってきてくれたのは、綺麗にお皿に盛り付けられた、3種類のアイスだった。周りには生クリームもあり、とても豪勢に見える。とっても美味しそうだった。
「二人はまだメイドの格好をしているけど、まだ担当してるの?」
「一応終わりなのですが、宣伝も含めてメイド服を着ています」
「そうかー、メイド喫茶も大変だね」
「このアイスも美味しいですけど、大変じゃないですか?」
「私たちは買ってきたアイスを冷やしてるだけだしね。これは多くても30個しか作らないから、そんなに問題はないよ」
「でも、この特別券って、本来、どうやってもらえるのですか?」
「それは、ほら、あっち」
先輩が指を刺すところでは、カードゲームをしているコーナーがあった。
「あんな風に、別に渡したい人がいない人はゲームをして、勝った人にあげるようにしているの。もちろん、挑戦料はもらうけどね」
先輩たちの工夫はやっぱりすごいと思った。
もうすぐ、文化祭が終わる時間、夕日が空き教室を赤色っぽく染め上げる。二人でその教室に入り、窓から外を眺める。僕は、こんなに色がある世界で生きていたんだと実感する。
「ねえ、冬花、僕は君に会うまでずっと、真っ暗な世界にいたんだ」
僕が生きている場所は色づいていない世界だった。あまり、他のものとの違いもわからなかった。
「けど、君が僕を見つけてくれた。手を握ってくれた。支えてくれた」
最初の出会いは不安だったけれども、どこか安心もあった。それからは僕は助けれられてばかりだ。
「僕は、九条冬花が好きだ。ずっと側に、一緒にいたいと思ってる」
これからも、一緒にいてほしい。
僕は、外を眺めるのをやめ、冬花をみる。彼女は泣いていた。やっぱり、迷惑だったかな。
「ごめ「…約束、して、もう一人で抱え、込まないって。約束…して」
「うん。約束する」
「…絶対に、私から離れたら…だめだからね。」
「うん。離れない」
「破ったら、振るから」
「それは嫌だな」
「なら、絶対に約束を破らないで」
「うん。頑張るよ」
冬花は不満な顔をするけど、許して欲しい。そのまま冬花が僕に近づき抱きつく。驚いたけれど、僕も彼女の背中に手を添え、抱きしめる。もう離したくはない。
「私が支えるから…、だからなんでも言って」
「ありがとう」
「私も好きなの…樹」
学校のチャイムがなるまで、僕たちはずっと、この時間を過ごしていた。
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