間話:彼女の文化祭・始
文化祭が始まった。私は料理に一切触れることなく、接客のみになった。彼はクラスの総意でメイド服を着させられている。彼には言わないが、よく似合っていると思う。
「いらっしゃいませ、ご主人様」
接客だから仕方ないが、男の相手をするのは嫌だ。それにこのお客の視線は嫌な感じがする。変なことをしてこないといいんだけど、一応、警戒しておかないと。
ぱしん
すぐにキッチンの方に戻ろうとした時に、何かを叩く音がする。驚いて振り返ろうとすると、樹に抱き寄せられる。私はこの状況についていけなかったが、男が私に触れようとしているのを止めてくれたらしい。
開き直り、文句を言い続ける男に、彼はビデオカメラを見せる。彼が直前に先生に頼んでいたのが、役にたった。男がカメラに注目している間に、数人の男子が教室をこっそり出る。たぶん、先生と警備員を予備に行ってくれていたのだろう。
「クソガキが!大人を舐めるな!」
男がで怒鳴り声をあげ、殴りかかる。どうにかしたいけれど、彼が私をしっかりつかんでおり、うまく動けない。
「櫻井!大丈夫か!」
先生と警備員が間に合い、男が連行される姿を見て、安心する。彼を振り返ると、床に座り込み、呼吸をしにくそうにしている。私はそんな彼を見て、横で支えることしか出来ない。
クラスのみんなが心配そうに彼に声をかけるが、彼は大丈夫だと言い張る。けれど、どう見ても大丈夫そうには見えない。
休憩に入っていいと言われたので、言葉に甘えて休憩に入る。彼を支えながら、教室を出ると、まだ休憩中の人たちも中に入っていった。どこで連絡しあっているのか気になったが、いい連携だなと思う。
彼に感謝を伝えると、格好悪かったという。そんなことないのに、どれだけ自己評価が低いのか、少し呆れてしまう。格好悪かったわけがない。助けてくれた人をそんなふうに思うわけがないじゃない。
彼が飲食をできる所を望み、2-Bに行くことになった。彼を運んでくれた先輩がいる教室らしい。行ってみると、彼とは違い、明らかに似合っていないメイド服を着た男たちに囲まれる。挨拶すら野太い。彼には悪いが、正直、今すぐにでも帰りたい。
「悪りぃ、櫻井にはちょっとキツかったか」
メイド服を着た人が例の先輩が彼のフォローに入るが、彼にはその姿が受けたみたいで、さっきまですごく辛そうな顔をしていたのに、今ではそのようにも見えない。
ずるい。先輩が男だと分かってるし、彼が先輩の事を好きになることはないとわかっているのに、嫉妬してしまう。いつの間にこんなに嫉妬深くなったのかな…私。
先輩に席を案内してもらい、サンドイッチを注文する。接客する人物の姿以外はまともで、とてもおいしかった。
昼食も満足に取れ、二人で文化祭を満喫していると、体育祭のあの先輩がこちらに向かってくるのが見え、私はすかさず彼の前に出て、通り過ぎようとするが、彼に止められてしまう。
迷惑をかけたお詫びに、文化祭の特別なチケットをくれたらしい。けれど、あの人がしたことはそれぐらいでは済まない。私はそう思ってしまう。
「よかったの?」
「別にいいんだよ。そんなに悪い人じゃなかったし」
「そう。まあ、あなたがいいなら、私は何も言わないけど…」
彼はそんな風に言う。私だけが気にしすぎていてバカみたいじゃない。
3-Aの教室に着くと、ちょうど今日は終わりらしい。先輩に終わりだと告げられたが、その後ろから、彼の知り合いが出てくる。あの人から貰っていた券は一枚につき、一人ということで、私の分もいただいてしまった。
なんとなく、迷惑料のように感じてしまうが、ありがたく貰っておくことにする。
二人で回った文化祭は、今まで以上に楽しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます