30.料理の練習

 結局の所、僕たちのクラスはメイド喫茶になった。抽選で選ばれ、男子の執念でメイド服を人数分確保してきたのには驚いた。


 バイト先で、衣装を扱う人から借りられることになったらしい。

 行動力がすごい。僕もあれぐらい、行動できるようになりたいものだ。


 今は、時間がある人だけで、集まって料理の練習をしようということになり、女子の家に男子を上げる訳にはいかないということから、男子の家に押しかけることになった。

 料理は皆、順調に行えていた。ある一人を除いて。その人物はみんなの予想外の人物だった。


「冬花、火が強い」

「トーカちゃん、分量!多いよー」

「九条さん、それは塩です!砂糖しか出てなかったのにどっから持ってきたんですか⁉︎」


 冬花がここまでだとは思わなかった。今は恥ずかしそうに遠くの机に顔を伏せている彼女は、時々、こちらをチラチラ見ている。


 可愛い。


 でも、本当に意外だった。どちらかと言えばさやかの方ができなさそうなのに……


「ああー、今紗夜ちゃん、トーカちゃんより私の方ができなさそうだと思っていたでしょ。私だって、料理くらいできるんだから」


 最近、さやかにまで考えていることがバレている気がする。それに、さっきの言葉で冬花はダウンしたみたいだ。

 

 無事に料理が終了し、今日参加した人はパンケーキくらいなら作れるぐらいにはなった。買ってきた材料も無くなったことで、今日は解散になる。


「パンケーキ美味しかったねー」

「でも、チョコで文字とか書くのは難しかった」

「その辺も練習しないとねー」

「結局、お菓子系で行くの?」

「場所も限られてくるから、パンケーキをメインにした方がいいと思う」


 帰り道にみんなで、今日の感想とこれからについて語っていく。冬花はまだ落ち込んでいる。


「冬花、気にしなくていいから」

「だけど、何個か材料を無駄にしてしまったし…」

「冬花にもできないことがあるって知れて、私はよかったよ」

「そうだねー」

「九条さんはちゃんと人なんだって、実感できた〜」

「…ちゃんと人って、どういうこと?」

「才色兼備」

「容姿端麗」

「文武両道」


 次々と挙げられることに冬花も止められずにいる。まあ、間違えもないし、そんなものだろう。

 

「それなら、紗夜だって」

「私は運動はそこまでだし」

「私は勉強はねー」


 そもそも僕に才能はない。絶望の淵に落とされないように、必死にしがみついているだけで、僕には何もないのだから。

 冬花がじっとこっちを見ているが、こればっかしはすぐには治らない。


「私も今日から料理頑張るわ」


 たぶん、自分が苦手を直す努力をするのだから、僕も頑張れということだと思う。そう思うことにした。

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