27.体育祭の終わり
体育祭の最後の競技は、さやかと冬花が参加するリレーだった。さやかと冬花は同じチームであり、冬花が三番走者、さやかがアンカーだった。
一番走者の人がこけてしまい、最下位のまま冬花にバトンが渡り、走り出す。いつもと違って髪をまとめた彼女は、二人を抜き去って、一位の女子を追いかける。
風によって髪が流され、彼女の髪色も相俟って、より一層綺麗に見える。一位の人との差が目に見えるほどに縮まり、さやかにバトンが渡される。
そこからは、さやかの独壇場だった。バトンが渡ったさやかは、力強く地面を踏み締め、前に進む。一位との差はもうすでに無く、一位に躍り出る。そのまま差を開け続け、一位のままゴールした。
二人が肩を組みながら、こっちを見て、ピースサインをする。その後に同じチームの人に囲まれてしまった。
僕も混ざりたいな…
あの輪に入って行けたらどれだけ楽しいのだろうか。けれど、それは女性として生きていく紗夜として?それとも男性である樹として?
お風呂に入りながら、今日のことを思い出す。いろんなことがあった。
僕は紗夜として、強くなったと思っていた。それはただの自己満足だったことがわかった。自分を無くすことは、今までのことを無かったことにすることではないということを改めて実感した。あの時、先輩に怒鳴られた時、僕は父親だった人のことしか思い出さなかった。そのことしか考えられなかった。
咄嗟に顔を庇っていたのは、そう言われ続けていたからだろう。それに謝罪も、僕ができるだけあの嫌な時間を過ごすために学んだことだった。その癖が今もまだ抜けていない。
それに借り物競争もそうだった。両親という言葉ですら、私は私でいられなくなった。全部、冬花がいなかったら、私はどうなっていたのかわからない。
のぼせそうになり、お風呂から上がって、ベッドに体を預ける。
今日はよく、冬花に助けられた。彼女がいなければ昔のように、全てを諦めていたと思う。少なくとも、僕は今のままではいれなかったと思う。
今日だけじゃない。冬花が初めて僕を見つけてくれた。助けてくれた。頼っていいと言ってくれた。彼女の存在が僕に、前に進む勇気をくれた。彼女がいなければ、僕は未だに紗夜として孤独に、誰とも関わらずに生きていたかもしれない。
今はもう、そんな自分の姿すら想像できないくらい今が充実している。こんな時間がずっと…続けばいいのに…
運動後の心地よい倦怠感に身を任せ、私は意識を手放した。
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