25.昼休憩

 昼食は特別に保健室で取らしてもらい、午後の競技が始まる前にグラウンドに移動しようとする。


 グラウンドに向かうと、先輩たちに囲まれてしまった。


「「「「ごめんなさい!」」」」

「気にしないでください、あれは私の問題であって、皆さんのせいではありませんから」

「それでも…」

「本人が気にしてないので、大丈夫です」


 僕としては、これ以上この話を掘り下げたくないので、終わりにしてほしい。

 そう思っていると、あの時の先輩がこちらを向いた。

 

 違うとは頭ではわかっているのに、体がすくんでしまう。どうすればいいのかわからなくなっていると、両手が握られる。右手はさやか、左手は冬花が握っている。それだけで、体のすくみがなくなり、安心する。


 先輩が近づく前に、カゴ先輩が私たちの前に立ち、その先輩と対峙する。話は聞こえなかったが、何かを話した後、カゴ先輩は離れていった。

 先輩が目の前に立って頭を下げる。


「すまなかった」


 たぶん、先輩は全く悪い人ではないのだろう。だから、さやかも冬花も先輩を睨むのはやめてほしい。


「私は大丈夫です。こちらこそ、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

「しかし…」

「これで終わりです」

「…わかった…」


 先輩が自分のクラスに戻るのを確認してから、僕たちも自分のクラスに戻る。すると、クラスメートたちにも囲まれた。みんなに心配してもらえたことが、申し訳ないが嬉しく感じる。


「そういえば、玉入れの結果はどうなったの?」

「櫻井さんが倒れるのが、本当に終わる直前だったから、そのまま計算されて、紅組の勝ちだったよ」


 良かった。同じ紅組の人には迷惑をかけずに済んだ。そう思っていると、視線を感じ、振り返ると冬花が頬を引っ張る動作をしている。考えていることがバレたらしい。

 小さく顔を振ると、ため息をつかれた。やっぱり、理不尽だと思うんだけど。


先輩たちのパフォーマンスである、ダンスも終わり、次の競技が始まる。

 借り物競走だったので、冬花と一緒に向かう。


「紗夜ちゃーん、トーカちゃーん、頑張ってねー」


 声を出すのは恥ずかしいので、手だけ振っておく。冬花は無視していた。


「手ぐらい振ったら?」

「嫌よ。恥ずかしいもの」


恥ずかしがっている冬花を見るのは珍しいので、今のうちに見ておく。


「何よ」

「別になんでもないよ」

「…樹、もし、もしも、借り物競走で何かあったら、絶対に私を探して」


 真剣な声で話す冬花にしっかりと返事をする。


「約束する。何かあったら、絶対に冬花を頼るよ」

「よし。ならさっきの頬を引っ張るのは無しにしてあげるわ」

「やっぱり、理不尽だと思うんだけど…」

「…そんなことはないわよ」


そうやって、そっぽを向く冬花に対し、僕はいつになったら、借りを返せるのだろうか。

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