間話:彼女の夏休み

私たち3人は今ゲームセンターに来ている。

友人と来るゲームセンターは初めてだ。

今から考えると、今までこんなに長く夏休みを遊んだ友人はいなかった。

人と関わるのが億劫だった。

私の気持ちも知らずに、男に言い寄られているとか、とてもめんどくさかった記憶しかない。

だから、クラスメイトとも深く関わってこなかったけど、二人のおかげで、楽しく過ごせる。

そう思える。

ゲームセンターが初めてだという樹にみんなでついていくことになった。

樹が止まったのは、うさぎのぬいぐるみだった。

少し意外だと思っていたが、たぶん、お姉さんが関わっているのだろう。

そんな気がする。


さやかの説明を受け、とりあえず挑戦してみるようだ。

お金を入れ、ボタンを押して、すぐに離す。

えっ、と思っていると、樹は何度も同じボタンを押し始めた。

これは、たぶんわかっていない。


「紗夜、ボタンは長押しなの、一度話すとそれ以上その向きは動かないわ」


笑わないように意識しながらも、樹に話しかける。

樹は慌てたように、さやかを見るが、さやかは目を逸らしている。

もう一度説明をして、もう一度挑戦してみるようだ。

今度はちゃんとボタンを押している。

驚いたことに、樹はぬいぐるみを一度で取ってしまった。

樹は取れたうさぎのぬいぐるみに顔を埋めている。


「…樹、大丈夫?」

「うん。大丈夫。このぬいぐるみは思い出のものだったから、取れて嬉しかっただけ」


私は樹の顔をじっと見つめる。

また、思い詰めているのではないか気になる。

けれど、今回は大丈夫そうね。


「…嘘は言ってなさそうね。ならいいわ」


そう言った後には、樹はさやかに連れ回されてしまった。


夏休みの最終日、さやかの家に集まっているが、さやかがまたごねている。

そんなさやかの相手をしていると、


「夏休みが終わったら、今度は体育祭や文化祭だね」


樹の発言に驚き、視線を向ける。

さやかも同じだったようで、樹を見つめている。


「あれ?違う?」


不安そうに色々なことを考えているとは思うけど、そうじゃない。


「…いいえ、けど、あなたからそんな言葉を聞けるとは思っていなかったから…」

「そう!紗夜ちゃんが自分からイベントの話をするのは初めてだったから、びっくりした!」

「そうだね。いろんなことを楽しみと思えるようになったのは二人のおかげだよ。二人がいなかったら、きっと、学校行事とか遊びとか、何も楽しむことは無かったと思うから」


樹は、自分をいらない子だと言っていた。

自分よりもお姉さんの方が必要だったと。

それは、たぶん、今でも変わっていないんだと思う。


「私には何もなかったから、そんな私の隙間を二人が埋めてくれた。だから、ありがとう冬花、さやか」


樹の本当の笑顔を見ることができた。

そのことが本当に嬉しい。

けれど、恥ずかしくなり、樹から背を向ける。

さやかも同じ気持ちなのだろう、樹から背を向けて、話し合う。


「トーカちゃん、私、紗夜ちゃんにあんなことを言われることしたかな?」

「さやかは私たちを引っ張ってくれた。たぶん、さやかがいなかったら、私も彼もこんな風になっていないと思う」

「でもどうしよう。紗夜ちゃんから目を背けちゃった」

「私も。だけど彼の気持ちを聞けて、本当に嬉しく思った」

「それは私もー」

「だから……」

「それでいいのかな?」

「それでいいのよ、たぶん」

「わかった」


そして、二人一緒に振り返る。


「「どういたしまして」」


私たちにできる最大の笑顔で、彼に応えるために。

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