16.私と彼女の母親

 紗夜お姉ちゃんの墓参りが終わった。


 伝えたかったことは言えたと思う。今まで自分を誤魔化し続けたことを精算できたとは思わないし、できるとは思っていない。

 けれど、今まで受け入れられなかったことを受け入れることはできた。

 今までよりも晴れやかな気持ちになる。


 家に着き、部屋でゆっくりとくつろぎ、スマホを見ると、メッセージが届いている。

 さやかから連絡が来てたみたい。


『明後日の予定空いてるー?空いてたらトーカちゃんの家で遊ぼう!』

『大丈夫だよ、昨日と今日はごめんね。』

『全然気にしなくていいよー、他にも私が誘って都合の悪い日は言ってねー』


 こんなやりとりができるようになったことを嬉しく思う。


『で、いつぐらいに来るの?』

『お昼を食べてから集合でいーかな?』

『私はそれで大丈夫だよ』

『私もその時間で大丈夫よ』

『じゃあ、お昼ご飯の後に集合で!』


 明日九条さんの家に行くことが決定した。


 次の日、九条さんの家に向かう。その途中で、見覚えのある人影を見つけ、声を掛ける。


「九条さん、家で集合なのにここで何してるの?」


 声をかけた人物がこちらを振り向くと、そこには九条さんをより大人っぽくした人物だった。それに買い物袋を持っている。


「すいません。友人と間違えました」


 頭を下げて謝る。すると、その人物から声をかけられる。


「あなたは冬花ちゃんのお友達?」


 冬花ちゃんということはやっぱり。


「九条さんのお母さんですか?私は櫻井紗夜と言います。いつもお世話になっております」

「あら、あなたが冬花ちゃんが言っていた…」


 ささやいたような声で聞き取れなかった。


「あっごめんなさいね、冬花ちゃんから話は聞いてるわ。私は九条雪と言います。いつも冬花ちゃんの相手をしてくれてありがとう」

「こちらこそ、九条さんには本当に迷惑をかけてしまい、申し訳ないです」

「冬花ちゃんは気にしていなかったもの。あなたが気にする必要はないわ。それより、今から家に行くの?」

「はい、お邪魔する予定です」

「なら、一緒に向かいましょう。もっとあなたとお話をしたいわ」

「はい」

「九条さんは「それは私?それとも冬花ちゃん?」」

「…雪さんは私のことをどこまで知っているのですか」

「あなたが冬花ちゃんに話したことは全部知っているわ。例えば、あなたが男の子であるということもね」

「なら、どうして止めないんですか?私は男で、娘さんに近づくおかしなやつなんですよ」


 足を止めて、雪さんの様子をうかがう。


「…関係ないわ。私は冬花ちゃんを信じているもの。それに、冬花ちゃんに話したことは全部聞いていると言ったでしょう。あなたの事情も少しは知っているつもりよ」

「それでも私は…」

「あなたは真面目なのね。難しく考えすぎよ。冬花ちゃんは男の子の君を見て、一緒にいる。その証拠に冬花ちゃんはあなたのことを名前で呼んだことがある?」


 さやかには呼ばれているが、九条さんには呼ばれたことはない。

 でもそれは、彼女と私との距離だと思っていた。


「だから、私や周りのことは気にしないで、あなたは自分のことを考えていいの」

「それじゃあ…」


 納得がいかない。あまりにも私が優遇されている気がする。


「お母さん!それに櫻井さんもどうして一緒に?」

「偶然そこであったから一緒に来ちゃった」


 もう、と怒ったように雪さんに接している九条さんを見て、やっぱり似ている。

 傍目から見ても親子だとわかる容姿ややりとりを見て、羨ましく思う。


「櫻井さん…」


 そう言って九条さんにハンカチを渡される。


「えっ、なんで…」


 涙が流れていることに気づき、目をさするが、泣き止むことができない。


「な…、なんでだろう、涙が止まらない…」


 また九条さんにも迷惑をかけてしまう。


「迷惑なんて思っていないから、上がって。ゆっくりしたら落ち着くでしょう」

「そうね、櫻井さん、入って」

「お邪魔します…」


 私は二人のような、家族が羨ましい。

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