15.墓参り
今、私は紗夜お姉ちゃんのお墓の前にいる。
「ごめんね、紗夜お姉ちゃん、今まで来れずに…」
夢で話したこともあるけど、こうしてお墓の前で話をすることに寂しさを感じる。
それに、紗夜お姉ちゃんがもういないことをより一層実感させられる。
今が夢だったらいいのに。目を開けると紗夜お姉ちゃんがいて、僕の名前を呼んでくれる。
今までなら多分、そんな幸せな日々を想像し、膨らませて満足していただろう。
そんな日々がないのはもうわかっている。それに、まだ僕としてではないが、私として友人ができた。
二人とも私と仲良くしてくれる。
「私に友達ができたよ、紗夜お姉ちゃん。藤宮さやかさんと九条冬花さんの二人。私が男だって話しても認めてくれたんだ」
二人に出会ってなかったら、私はここにはこれていなかっただろう。
「夢でも話したけど、紗夜お姉ちゃんが言うとおり、少しづつでも進んで行こうと思ってる」
お墓の前でしゃがんでいると、後ろから誰かに抱きつかれたように気がする。
昔家で自分にこもっている時に紗夜お姉ちゃんが後ろから抱きついて話してくれていた。
人ではないことはなんとなくわかる。目を開けると消えてしまう気がする。
だから、今は久しぶりに感じるこの感覚のまま、話を続ける。
「夏休みにね、二人と遊ぶ約束もしてるの。昨日も一緒に宿題もしたんだ」
「今度は二人の家に行って遊ぶ約束もしているんだ。ゲームなんかやったことないから、楽しみにしているんだ」
「だから…、だから、心配しないで紗夜お姉ちゃん。僕は少しづつ前に進もうとしているよ」
「今はまだ、紗夜としてだけど、いつかはちゃんと樹として、頑張ろうと思ってる」
「本当はね、紗夜お姉ちゃんが死んだ時、紗夜お姉ちゃんを恨んだんだ。私を置いて行ったこと、私を死なせてくれなかったことを恨んだ」
「あの時、トラックがぶつかると思った時、僕はやっと死ねると思ったんだ。けど、心残りはお姉ちゃんだけだったんだ」
「けど、お姉ちゃんが僕を庇ってくれた。助けてくれた」
「僕には自ら死ぬ勇気はなかったから、本当に恨んだんだよ」
「死ぬこともできず、紗夜お姉ちゃんがいないこの世界に何も感じなくなっていった」
「だけど、最近は楽しく感じることがあるんだ」
「だから僕は頑張って生きるよ」
こんな風に考えることができるようになったのは、二人のおかげかな。
いつも謝ってばかりだったけれども、感謝の言葉を伝え たことはなかったような気がする。
だから、感謝の言葉を最後に言いたい。
「ありがとうね、紗夜お姉ちゃん。私をいつも守ってくれてありがとう…」
涙が溢れるが言葉を続ける。
「…紗夜お姉ちゃんが守ってくれたおかげで、今の僕がいる、紗夜お姉ちゃんの言葉で今楽しく感じている」
「これからも頑張るから…、頑張るから…、だから…、今はまだこのままでお願い…」
(樹ちゃんは甘えん坊なんだから、だけど、いつも頑張っているのは見ていたよ。もちろん二人のこともね。いい友人ができてよかったね。これからも焦らず、頑張ってね、樹ちゃん。理由なんてなんでもいいんだよ。私はあなたに生きて欲しいだけだから。)
背中がより暖かくなり、そのような言葉が聞こえたような気がした。
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