14.夏休みの始まり

さやかの夏休みの目標のうちの第一弾は私の家になった。


 理由は、遊ぶものがないため、早く夏休みの宿題を完成できるだろうというわけだ。確かに私の家でみんなで遊ぶものはないけれども!

 二人して宿題をするなら私の家と打ち合わせなく揃えて言ったのはびっくりした。

 まあ、そんなことがあり、今は私の家でみんな宿題に集中している。

 いや、していたのだけれども、さやかの集中が切れたみたい。


「もう、いーやー、せっかく3人で集まっているんだからあーそーびーたーいー」

「これから遊ぶのだから、櫻井さんの家の時は勉強するって決めていたでしょ」


 駄々をこねるさやかに対し、九条さんが嗜める。


「ごめんね、何もなくて」

「櫻井さんは気にしなくていいのよ。悪いのはさやかなのだから」

「じゃあ、明日!明日はトーカちゃんの家で遊ぼうよ」

「また急にそんなことを。はあ、お母さんに確認するからちょっと待って」


 明日、カレンダーで日付を確認する。明日は紗夜お姉ちゃんの命日だ。

 受け入れることができず、忘れてしまっていた日を思い出す。

 あの日も今日みたいに暑い日だった。暴力を振られ続けていることを不憫に思った紗夜お姉ちゃんが私を連れ出してくれた。

 楽しい時間が続き、その帰りにお姉ちゃんは…


 今まで楽しかった思いが一気に落ち込む。


「…さん、櫻井さん!」


 九条さんの声に意識が戻る。


「どうしたの!顔色が急に悪くなったけど、大丈夫!?」


 相当酷い顔をしていたのだろう。


「…ごめん、大丈夫。明日急用があったのを今思い出しただけだから」

「そう。それならいいのだけれど…」


 まだ何か言いたそうな九条さんに申し訳なく思う。私のことについてそんなに話すわけにはいかない。こんな暗い話を二人が聞く必要はない。

 せっかくさっきまでの楽しい雰囲気を潰してしまったことを申し訳なく思う。それに今日が私の家だったことも失敗した。私以外の家だったら私が帰るだけでよかったのに。

 私がもっと早く紗夜お姉ちゃんのことを思い出していれば…

 そんな後悔を繰り返していると、パンッと音がし、音の方を向く。

 そこには手を叩いたであろうさやかがいた。


「じゃあ、明日はなしで、いつにするかは後でメッセージを出すね。そして、今日はもう解散!」

「ごめん、さやか「謝らないで、紗夜ちゃんは何も悪くないのだから。でもその代わり、今日のカウントはいれないから、もう一回紗夜ちゃんの家に来るからね!」


 さやかは笑ってそう言った。私は泣きそうになりながらも、感謝の言葉をつげる。


「ありがとう。また来てね」


 二人が帰るのを見送り、おばあちゃんに紗夜お姉ちゃんのお墓の場所を聞く。おばあちゃんは最初躊躇ちゅうちょしていた。

 そんなに急ぐことはないと、けれども私は引かなかった。その様子を見たおじいちゃんが一緒にいこうと言われたけれど、断った。


 私は一人で行きたい。だから、場所だけを聞いた。


 なぜか一人の方がいいような気がした。


 明日の準備をし、ベッドで一息つく。私は紗夜お姉ちゃんのお墓で何をすればいいのだろう。

 ふと、スマホを確認すると、九条さんからメッセージが来ていた。


『明日のこと、紗夜さん関係なんでしょ』


 その簡潔な文章に苦笑いが溢れる。


 敵わないなー


 これからも九条さんに隠し事をできる気がしないと思いながらも、メッセージを返す。


『明日お姉ちゃんの命日なんだ。忘れてしまってたけどね…』


 思わず返してしまった。彼女には伝えないようにしようとしても話してしまっている気がする。


『あまり思い詰めないようにね』


 彼女も踏み込まないようにしてくれている。この距離が好きだ。

 私のことを見ながらも、近すぎず、遠すぎないこの距離感が心地良い。

 このことも明日、紗夜お姉ちゃんに報告しないと。


 先程までの憂鬱ゆううつな気分が今ではもう何も感じない。

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