間話:彼女の気持ち
雨の中、猫を抱え、帰る彼の背中を見続ける。
猫を抱え、彼の目から涙がこぼれ落ちていた姿が、頭から離れない。胸の奥がとても痛む。
私は彼に何も言えなかった。
彼の悲しみを表すかのように雨が急激に強くなった。ふとダンボールの方を見ると、彼の傘がある。慌てて届けようともう一度見たときには彼の姿はなかった。
こんな形で彼の秘密を知ることになるとは思わなかった。
彼が言っていたことがずっと頭に残る。「いらない子だった」か、私も父であった人にそう言われたことがある。けれど、私にはお母さんがいた。
彼にとって、私のお母さんがお姉さんだったんだろう。だけど、その人も亡くなってしまった。
私が一人だったら、一人になったら、どうだったんだろうか?
お母さんの言っていた言葉を思い出す。彼が女の子の姿をして自分を守っているんじゃないかって言っていた。
彼はお姉さんである紗夜さんになることで自分を守っていたんだ。彼はお姉さんのように振る舞うことで、自分を保っていた。
それを何も知らない私が彼を狂わしたのかな。お母さんは私の話を聞いただけで、その可能性を思いついていた。
私は自身のことしか考えていなかったことが恥ずかしい。
男に裏切られたことから、男はみんなそんな人だと考えていた。だから、彼もそんな人だと考えてしまっていた。
彼のことを考えずに、私が思っていることを押し付けようとしていた。これから彼と会うときにはどうしたらいいんだろう。
彼が望む紗夜として、彼女として会えばいいのだろうか?
彼はどうしたいんだろう?
私は今までどおりに彼と接することができるのだろうか?そんなことを考えている間に家に着いた。
「お帰りなさい。どうしたの?」
母がそう尋ねてくれる。このような関係も彼にはなかったのかもしれない。
私は今日あったことを母に話した。
「それで、冬花ちゃんはどう感じたの?」
「どうって、どういう…」
「彼の話を聞いて、自分と少し似たような部分があると気づいたあなたは、彼に対してどう感じたの?」
最初は女子生徒の中で彼の存在に気づいているのは私だけだったから、彼を監視する目的だった。
彼の秘密を知り解決したならば、もう気にする必要もない存在だと思っていた。
今は、彼がちゃんと笑えるようになって欲しいと思う。
「彼が自然に笑えるようになってほしい」
「そう。ならあなたは今までどおりに彼に接していくといいと思うわ」
「今までどおり?それでいいの?」
「ええ、だって彼はあなたたちと一緒にいたときに笑っていたのでしょう?だったらそれでいいのよ」
「うん。ありがとうお母さん」
母には言わなかったが、このように彼にとってなんでも話せる存在に私はなりたいと思う。
明日、彼にあったら何を話そうか。
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