8.中間テストの終わり
学校のチャイムが鳴り響く。そこで、今まで集中していた空気が緩くなった。
「そこまで、手を止めて後ろから回収してくれ」
今日、中間テストの最後の教科が終わった。先生がテストの枚数を数えている間、ミスがないかを思い返す。
多分、大丈夫だろう。
「よし、じゃあ気をつけて帰れよー」
先生が教室から出ていくのを見て、帰る準備をする。
「終わったー」
隣でさやかが顔を机に埋めている。その姿を眺めていると、その体勢のままこっちを見たさやかと目が合う。
「紗夜ちゃんはテスト、どうだったのー?」
「別に普通だよ。いつも通りにしただけ」
「紗夜ちゃんはしっかりと勉強しているから、そんなことを言えるんだよー」
そう言って頬を膨らましているさやかは可愛く見える。でも、本当に特別なことはしていない。だって、紗夜お姉ちゃんはいつも一位だったのだから、私もそうならないといけない。
そのためなら、要領の悪い私は努力をするしかない。そう考えていると、九条さんが声を掛けてきた。
「じゃあ、さやかも紗夜のように、毎日しっかりと勉強したらいいじゃない」
「それができたら、苦労しないんですー。でも、何かコツでもあるの紗夜ちゃん?」
「別に何もないよ。ただ努力をしただけ。私はいい成績を取らないといけないから…」
そこまで言って、余計なことを言ってしまったと、後悔する。
彼女たちを見ていると不思議そうに顔を傾けていた。
「ご両親が厳しいの?」
九条さんが真面目な顔で聞いてくるが、どう言えばいいのかわからない。
なんとか誤魔化せないかな?
「少しね。学業にだけはうるさいの。それ以外はあまり気にされないんだけどね」
だって、両親は私のことに興味がないから。両親が見ていたのは紗夜お姉ちゃんであり、私ではない。
2人に嘘をついたことに少し罪悪感を感じるが、もうこれ以上話したくはない。
この話はもう終わってほしい。
「まあ、そういうことにしておくわ」
まだ何か言いたそうな九条さんが、そう言ってくれているのがありがたかった。
「そういうこと。だから、努力を毎日することっていうことで」
「ええー、それじゃあ、いつもとかわんないよー」
「じゃあ、もっと努力しなさい」
「いーやー」
この感じがすごく心地いい。けれど、気をつけないといけない。
気を抜きすぎて本当の私に気がついた時、2人が離れてしまうのが最近では一番怖く感じる。
ずっと2人を騙しているのだから、本当の私を受け入れてもらえることはないだろう。
九条さんはもう気が付いているが、誰にも言ってないみたい。
少し話したが、私のことをどう感じているのかは、わからない。
私はこれからも自分を殺し、紗夜でいることでこの環境が守れるならば私は私を殺し続けるだろう。
私はこの時、九条さんがこちらを見ていることに気がつかなかった。
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