7.勉強会
私たちは今、さやかの家の前に来ている。
「2人ともー、上がって、上がって。」
「「お邪魔します」」
「おかあさーん、2人を紹介するね。黒髪が紗夜ちゃん、そして甘栗色の髪がトーカちゃん」
「初めまして、いつもさやかさんにはお世話になっています。櫻井紗夜と言います。今日は急に押しかけてしまい申し訳ありませんが、よろしくお願いします」
「初めまして、私は九条冬花と言います。さやかさんにはお世話になっています」
「初めまして、さやかの母の遥です。いつもさやかが迷惑をかけてごめんなさいね。いつも相手をしてくれてありがとう」
「迷惑なんてかけてないもん!ねっ、2人とも。」
そう聞かれ、私は目を逸らす。そして九条さんと目があい、二人で笑ってしまう。
「ああー、2人ともひどい!」
「だって、今日だって急だったし…」
「初めは人の家に行こうとしていたし…」
「もう、あんたって子は…」
「もういいでしょ。勉強しよ! べ・ん・きょ・う!」
「ふふ、そうだね。じゃあ遥さん、お邪魔します。」
「お邪魔します」
「はいはい、ゆっくりしていってね」
その後さやかの部屋に入り、ふと思い出す。そういえば私、初めて女の子の部屋に入ったな。
お姉ちゃんの部屋はどんな部屋だったんだろう。あの家のことはほとんど思い出すことができない。だって、あそこは私の居場所ではなかったのだから。なら、私の居場所はどこなのだろう?
紗夜お姉ちゃんの隣?けれど、もう紗夜お姉ちゃんはいない。ならどこだろう、わからない。
「もう、紗夜ちゃんはいつまでそこに立ってるの!勉強するよ!」
声をかけられ内心驚くが、何とか顔に出さずに答えることができた。
「ごめん、お邪魔するね」
九条さんが何かを考えながら、こちらを見ている。
3人は部屋に入り、黙々と勉強を開始する。先に根を上げたのは予想どおりさやかだった。
「あー、もう休憩!2人とも頑張りすぎだよー。せっかく集まっているんだから、みんなで遊ぼうよー。」
「さーやーか、あなた私たちがなんで集まっているかわかっててそれを言ってるの?」
九条さんがそんなことを言いながら、さやかのほほを引っ張る。
「いひゃい、いひゃいよ、しゃやちゃんたしゅけて。」
「んー、私も少し休憩したいかな?だから、九条さん、もう離してあげたら?」
「もう、櫻井さんはさやかに甘すぎるのよ。」
そう言って、彼女はすぐに手を離した。
「で、何をするのさやか?」
「もちろんゲーム!」
「ゲームって3人でできるもの?」
「うん。これ!」
そう言ってさやかが出したものは有名な国民的レースゲームらしい。らしいっていうのは、九条さんがそう言っていたからだ。
私はゲームをしたことがないし、どんな種類があるのかも知らない。
知っているのは頑張ってもトランプぐらいかな?そんなくだらないことを考えている間に、準備が終わったらしい。
コントローラーを渡される。
「どうやるの?」
「このボタンがアクセルで、このボタンが…」
一通り説明をしてもらったがやることがいっぱいだ。
「まあ、一度やってみよう!」
さやかの声にテレビの画面を見る。私は一番見やすいところということで真ん中の席を譲ってもらった。
レースが始まり、ステージを走っていると、頭に何かが当たった感じがした。
なんだろうと思い確認すると、九条さんの肩にぶつけていたらしい。
なんでだろう?不思議に思いながらもゲームを続けていると、また頭に当たった感覚がある。
もう一度見てみると、今度はさやかの肩に当たっていた。
そんなことを繰り返している間に私は最下位だったようだ。
「…コンピュータにも負けた。」
「まあ、慣れよ。それよりも櫻井さん、カーブの度に傾いていたわよ。」
そんなことないと言いたいが、1人ならまだしも、2人に何度もぶつかっているのだから、否定できない。
「わ、わざとじゃないから」
「わかっているけど傾いていたから、ちょっとね。意地悪したくなっちゃった」
「あはは、紗夜ちゃん全部のカーブで傾いていたもんね」
私は恥ずかしくなり、そっぽを向く。
「もう、休憩は終わり、勉強の続きをする!」
「ええー、もう一回やろうよー」
「ダメです。私は勉強をします。するなら、2人で遊んでいてください」
「拗ねちゃって、かわい…んんっ、そうね、もうゲームは終わって勉強に戻りましょうか」
「ええー、トーカちゃんまで、もー、わかったよー」
そんなことがあり、勉強会は夕方になるまで続いた。今日、勉強したことが結果につながるなら、1人でするよりもいいかも。そんなことを考えながら、家に帰る。
今までに感じたことのない感情に高揚が隠せなかった。
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