6.誘い

 高校では、人と関わらないようにしようと思っていたのに、拒絶することができず、九条さんとさやかの二人と話すことが多くなった。


 あれから、九条さんも私について聞いてくることはなくなったが、まだ、私のことを知りたがっているのではないかと思う。

 体育なども学校側が配慮してくれたために、問題にはなっていない。

 一部の女子は何か気になっているようだったけど、あまり追求してこないことは正直助かっている。

 そして、初めての学校行事が来た。


「来週から中間テストがあるからしっかりと勉強しておけよ。うちの学校は順位が張り出されるからな。気をつけろよ」

「「「「え〜」」」」


 教室中に不満な声が響き渡る。


「しっかりと勉強していれば大丈夫だろう。じゃあ、気をつけて帰れよ」


 私は紗夜なのだから、勉強は手を抜いていない。だって、紗夜お姉ちゃんの成績はずっと学年一位だったのだから。私もそうならないといけないから。


「…紗夜…紗夜ちゃんってば聞いてる?」

「ふぇっ」

「もう、さやちゃんてば、全然私の話を聞いていなかったでしょう」

「う、うん。ごめんね。少し考え事をしていたの。で、なんの話だったの?」

「もー、ちゃんと聞いていてよね。まったく。それでね、トーカちゃんと一緒に勉強会をしようって話していたの」


 勉強会か…、紗夜お姉ちゃんは友達と勉強をしていたのかな?

 私はどうすればいいんだろう?そんなことを考えていると、九条さんから声がかけられる。


「別にいいじゃない。あなたは1人じゃないと勉強ができないって言うわけではないでしょ」

「冬花ちゃんもそう言っていることだし、一緒にやろうよ」

「うん。わかった。でもどこでするの?」

「それは主催者である、さやかの家でしょ」

「えっ、そっ、そうだよね。うん。家は大丈夫だよ。ハハハ…」


 変な笑い方をしながら、さやかは目を逸らす。誰かの家にでも行きたかったのかな?


「もしかして、勉強会と言って、私か櫻井さんの家に行こうという考えだったわけじゃないよね?」

「ハハハ…、そんなわけないじゃん。どっちかの家にお邪魔して、部屋を見たいなーなんて、思ったこともないですよ。はい」

「なんか言葉が変になっているよ。さやか」

「まあ、私の家でもいいけどね。今回はさやかの家に行きましょう」

「行っていいの。やったー。次はトーカちゃんの家でやろうね」

「はいはい。やっぱり行きたかったんじゃないの。まったく。櫻井さんも大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ。そのままさやかの家に行く?それとも後で集合?」

「今からでも私の家は大丈夫だよー」

「じゃあ、今からお邪魔しましょうか。幸い、準備するものは今全部持っているしね」

「そうだね。じゃあ、一緒に向かおうか?」

「やったー。一緒に帰れるー」


 そう言ってさやかははしゃいでいる姿を見ながら、私も帰る準備をして2人を追いかける。

初めての勉強会に、私はワクワクを止めることはできなかった。

その時には、私は紗夜であるということを忘れていた。

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