3.私のこれから

 全然授業に集中できなかった。


 バレないと思っていたのに、紗夜のことを知らないはずなのに。私の何がおかしかったのだろう?

 どこで気づかれてしまったのだろう?


「じゃあ、これでホームルームを終了する。気をつけて帰れよ」


 担任の先生がそう声をかけ、教室から出ていく。教室がまた賑やかな声が聞こえ始めたが、今はひどくうるさく感じる。

 これ以上私のことを誰かに知られないように、今日は早く家に帰ろう。


「さやちゃん、トーカちゃん、どっか一緒に寄り道して帰ろー」


 さやかにそう言われるが、今は一人にしてほしいので、どう断ろうか考える。


「さやか、ごめん「ごめんなさい、私は少し用事があるの」……」


 私にかぶせて、九条さんがそう答え、教室を出ようとする。


「そっかー」


 さやかが残念そうにしているが、私も断らないといけない。


「さやかごめん、私も今日は用事があるから1人で帰るね」

「二人ともダメかー。じゃあ、また今度ね。また明日―」

「うん。また明日」


 そう言って、私は席を立ち、1人で教室を出る。このモヤモヤした感情をなんとか落ち着けたかった。

 今でも九条さんに言われたことが頭を支配している。「「私は男のあなたなんかとよろしくするつもりなんてないから」か…」

 言われたことを呟きながら、考える。私はこれからどうしたらいいのだろうか。

 私が普通の女になれないことはわかっている。私が男である限り、どれだけ行動を紗夜お姉ちゃんと同じにしても、私は紗夜にはなれない。

 私がおかしいことには気がついている。誰かに、紗夜お姉ちゃんになろうとするなんて、おかしいことはわかっている。

 けれど、そうするしかなかった。そうすることで大丈夫だと思っていた。

 そうすることで、これからもずっと過去のことから目を背け続けることができると思っていた。


 いつの間に家に着いたのか、玄関でおばあちゃんから声がかけられる。


「おかえり。」

「うん、ただいま。」

「学校はどうだった?」


 おばあちゃんには言ってはいないが、私は学校で誰とも関わるつもりはなかった。けれど、心配させないように嘘をつく。


「楽しかったよ。けど、宿題が出たから、もう部屋にいくね。」


 今は1人でいる時間がほしいので、すぐに自分の部屋に戻り、ベッドに横になる。


 私はこれからどうしたらいいのかな。

 紗夜としてこれからも生きていくことができるのだろうか?

 私は紗夜お姉ちゃんがいなくなってから、どうしたらいいのかわからない。

 私は一人、紗夜として生きて行ければいいと、それだけでいいと思っていたのに。

 誰にも知られることもないと思っていたのに、私はどうしたらいいのだろう…

 私の意識はそのまま薄れていった。

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