2.私を見つけた人
私は中学を卒業してから祖父母に引き取られたため、今日から通う高校は地元ではないが、一般的な高校である。
まずは、自分のクラスを確認し、教室に向かう。
「1―Aはここかな」
教室に入り、出席番号順の席になっているのを確認して、自分の席に座り少し一息つく。
教室にはすでに少しの人がいるが、私が入ってきてからもいくつかのグループで話し続けている。
この高校では紗夜を知っている人はいないはずなので少し安心する。
紗夜を知る人がいないということは、私のことに気がつく人がいないということだから。
そう考えているうちに不意に声をかけられる。
「お隣の席だね。私は菊池さゆり。さゆりって呼んでもらえると嬉しいな。今日からよろしくね!」
紗夜お姉ちゃんはこんな時、どう答えていただろうか?できるだけ人とは関わりたくなかったが、断るのはおかしいよね?
だから私は無難に答える。
「よろしく、さゆり。私は櫻井紗夜。呼び方は好きに呼んで欲しいな。」
「じゃあ、紗夜ちゃんって呼んでもいい?」
「うん。大丈夫だよ」
これで大丈夫だろう。たぶん。少し心配になっていると、さゆりから声がかけられる。
「そういえば、さやちゃんは知ってる?私たちの学年でものすごい可愛い子がいるんだって」
さゆりは興奮気味に話してくるが、私にとって他の人はどうでもいい。けれど、返事をしないとおかしいよね。
「その子はどんな感じの人なの?」
「えーと、例えば・・・」
その瞬間にガラッと教室の扉が開く音が響いた。先ほどまで教室で賑わっていた音もなくなり、誰かが息を飲んだ音が聞こえた。
そこには10人いたとして10人が振り返るような、可愛いというより、綺麗という表現が似合う女性がいた。
亜麻色の髪を背中まで伸ばし、凛とした姿はかっこよくも見える。
彼女が教室に入り、自分の隣の席に座るまで、誰も一言も話すことはなかった。
その中で一人空気を読まない人物がいた。
「いやーあなたすごく可愛いね。お名前は?あっ、私は菊池さゆり。さゆりって呼んで欲しいな。でもって、こっちが櫻井紗夜。さやちゃんって呼んであげてね」
そのように話しかけた彼女に対し、少し驚きながらも自分も自己紹介をする。
「紹介されたけど、一応、私は櫻井紗夜。好きに呼んでくれるとうれしいかな。これからよろしく」
しかし、彼女には何か気に触ったようだった。
「あなた紗夜って言うの?」
なぜ、そんなことを聞かれるのだろうか?少し疑問に感じながらも答える。
「うん、そうだけど。何か変だったかな?」
さゆりもなぜそんなことを聞いたのか少し疑問に思っているようだった。
「うん、普通の名前だよね。それがどうしたの?もしかして知り合いだった?」
その言葉に少し、ビクリとする。もし紗夜お姉ちゃんの知り合いならば、私のことがバレるかもしれない。そんな不安を感じていると彼女が答える。
「ううん、知り合いじゃないよ。ただ、少し名前に疑問を持っただけ。ごめんね。変なことを言って。名前ね。私の名前は九条冬花。呼び方は好きに呼んで」
「じゃあ、トーカちゃんって呼ぶね。これからよろしく」
「ええ、よろしくさゆり。そろそろ先生が来る時間だから席に戻ったほうがいいと思うわ。」
「あっ、もうそんな時間かー。じゃあ、席に戻るね」
そう言って席に戻るさゆりを見ながら、紗夜お姉ちゃんの知り合いじゃなかったことに安心していると、ふいに九条さんから声をかけられる。
「私は男のあなたなんかとよろしくするつもりなんてないから」
そう言って彼女、九条さんはこちらを見ることはなく、持ってきていた本に目を落としていた。
そんな彼女を見ながら、私はひどく焦り、目の前が真っ暗になっていった。
どうして、どこでバレたの?そんな疑問がずっと繰り返される。
「何で…」
彼女に追及しようとした時、教室に先生が入ってきてしまった。
今はまだ学校のことに集中しないといけない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます