第3話 カマーは気になる男子を逃がさない

SHIBUYAの人混みの中

カマーの後ろをついて行くノボル

ノボル「カマー…さん、あのなんだか助けて頂いたみたいでありがとうございます」

カマー「まだ油断するのは早いわよ」

ノボル「えっ?」


カマー「それより悪いわね、マグネティックシューズで飛んで行ったら早かったんだけど、お化粧が崩れちゃうから」

ノボル「え?マグネティックシューズ?あぁ…あの空飛んでる人達のヤツですか?」


※マグネティックシューズ、地球は強力な磁石の塊である、その磁力に反発する形の強力な磁場を発生させる事により浮力を発生させる!体重移動とホバー制御により移動できるが、初めて自転車に乗る時くらい練習が必要!購入するには国の許可、保護者の許可、制空権移動免許等が必要であり、手続きが結構めんどくさい為歩いている人が多い


ノボルの視線の先には多くの人達が空を飛んでいる

ノボル「凄いですね!本当に人が空を飛ぶ時代が来るなんて…カマー…さんは俺の事知ってるみたいですけど、やっぱりここって未来の渋谷なんです…よね?」

カマー「カマーでいいわよ、本当の名前じゃないし、あだ名みたいなモノだから…そうね、あなたが過去から来たのなら、ここは未来の渋谷になるんでしょうね、その話は後でゆっくり聞かせてもらうわ」


カマーが軽く周囲に視線を配る

カマー(…2人…いや3人か…流石に人混みの中騒ぎは起こさないだろうけど…ちょっと目立ち過ぎた…か)

カマー「ノボル、少し走るわよ」

ノボル「え?」

カマー「つけられてる、オシャレ狩りよ人数は3人、絶対に私の側を離れちゃダメよ」ウフッ

カマーはノボルにウィンクして


「あなたには指一本触れさせないから」


そう言ってノボルの腕を掴み走り出す


前だけを見て走るオカマの後ろ姿にちょっとときめきながら、戸惑い、一緒に走る18歳男子

走った時間はほんのちょっとだったと思う…

だけど、生まれてから18年間恋愛とは縁遠い生活をしてきたノボルにとって、その時間はゆっくりと流れ、胸のどきどきの答えに気付くには十分な時間だった…そして流した汗はキラキラとした想い出へと変わっていって…

後にカマーと結婚したノボルはこう語る「あの瞬間俺の心はカマーの事しか考えられなく…

ノボル「ナレーション!ナレーションちょっとおかしいから!てゆうかカマーさん速い!速いちょっと止まってー!!!」

カマー「何よ!人が楽しい妄想に耽ってるのに!」

尚もカマーの全力疾走は止まらない、ノボルは腕を掴まれながら、凧上げの要領で空を舞う


その時ノボルは本当に人が空を飛ぶ時代が来るなんてと思っていた

ノボル「って!言ってる場合か!!!」



オシャレファイト会場IN SHIBUYAロビー

カマー「フゥーイ!流石に会場まではヤツラも来ないでしょう」

カマーはキラキラとした汗をかき、いい運動をした後のような清々しい表情をして言った

ノボル「…えぇ、俺もどきどきが止まらないですよ…」

今にも吐きそうな表情でへたり込み言った

ノボル「オシャレ狩りっていったいなんなんですか?」

カマー「そうね、ノボルには沢山の事を説明しないと行けないわね、とりあえず私の控え室に行きましょう」


カマー控え室

控え室の扉を開けると、きらびやかな衣装の数々や沢山のメイク道具、宝石、装飾品が並んでいる


ノボル(うわーカマーさんって本当に有名な人なんだな…)

ノボルは初めて見る、メイク道具や自分には価値すらわからないような宝石に目を奪われ立ち尽くす

そんなウブな反応のノボルにほくそ笑みながら、カマーは部屋の中にノボルを招き入れた


部屋の中心に置かれたテーブルと椅子にノボルとカマーは腰かける

ペットボトルのお茶を差し出され、口に含むノボル、ようやく一息つけそうだ

カマー「まずはこの世界の事から説明しましょうか」

そう言ってカマーはムキッと長い脚を組み、ノボルを見る

お願いします、と頷くノボル

カマー「今この時代はノボルがいた時代より200年後の日本よ、その日本において、いや世界においてオシャレとは、ただ身に纏う衣装では無い」

カマーはキッパリと断言した


カマー「ある時からAIがオシャレ力という数字を計算するようになった、オシャレ力というのは服の格好良さだけでは決まらない、その人に似合った服を着ているか、その人物が可愛いか、格好いいか、不細工なのかブスなのか、どんな生活をして、何を考え、どう行動するか、遺伝子的に優れているか、そして身に着けているアイテムがどの程度珍しいか等、多岐にわたる診断項目、その総合数値がオシャレ力」


ノボルは静かに耳を傾ける


カマー「革新的な事だったんでしょうね、それまでただ漠然と、この人格好いいとか可愛いって言っていたのが、数字という誰でも分かる指標が出来たんだから…」


少しの間があった


カマー「そんな数字が出来るとね、人間っていうのは欲深いモノで、あの人より上になりたいとか、彼氏彼女は少しでもオシャレ力の高い人が良いとか、世間の認識は少しずつ変わっていって、遂には、政治家もオシャレ力で選ぶ時代に変化していったの」


なんとなくの先の展開が読めてきてノボルの表情が曇る


カマー「オシャレ力の低い者はだんだんと世間で疎まれ、いじめられ、迫害されていった…そんな中でノボルが今着ているような昔の服は、AIでも簡単にオシャレ力を測定出来ないのを良い事に、闇の住人からは足がつきにくい事から、高値で取引され、オシャレ力の低い人からは自らのオシャレ力アップの為、世間から隠れる為、コレクターからは幻のアイテムとして沢山の人が文字通り喉から手が出るほど欲しいモノになっているのよ」


ノボル「つまり、俺の服を奪おうとしている人達がオシャレ狩りって事ですか…じゃあ、オシャレファイトっていうのは」

カマー「オシャレ狩りに対しての対抗手段だったりオシャレ力アップの為だったりで、体を鍛えて、ありとあらゆる護身術、スポーツを身につけた人達がたどり着いた、総合格闘技って所かしら、直接的な殴りあいは禁止だけどね」


ノボル(総合格闘技…カマーさんが放った技、体が動かなかったり、俺の事を調べるよう見たり…あんな事が護身術、スポーツを身につけた程度で可能なのだろうか?)


カマー「私からも質問いいかしら、まずはどうやって未来のこの世界に来たのか…」


ノボルは自分の立っている状況を自ら確認するように言葉を紡いでいく、朝早く起きるところから、電車に乗って寝て起きたらこの世界にいた事を事細かに



カマー「なるほどね…で、ノボルはどうしたいの?過去に戻りたい?それとも…この時代に残って私が養ってあげてもいいわよ」

目がマジである

ノボル「ご厚意は有難いですが、丁重にお断りさせて頂きます!!俺は過去に帰りたいです!!」

テーブルに額をつけ、全力で丁重にカマーからの申し出を断っていく

カマー「そう、残念ね…流石の私でも200年の遠距離恋愛は出来そうにないし、無理に引き留める事はしないわ」


ノボル(まるで、既に恋仲かのような発言はスルーしておこう…)


カマー「でも、過去に帰るってアテはあるの?」

ノボル「うーん、よくわかんないですけど、下りの電車に乗れば帰れるんじゃないですかね?知らんけど」


カマー(ポジティブね、オシャリストにとって必須と言ってもいい程、大事な素質だけど、事態はそう簡単ではない…)


カマー「そう上手くいくかしらね?私も詳しい訳じゃないけど、今の時代の科学でも未来に行く事は成功していても過去に行く事は未だに成功していない」


ノボル「え!未来に行った人がいるんですか!?200年後って凄いなー」


特大ブーメランである


カマー「理論だけはとっくの昔に出来てるらしいわよ、ただ問題なのは金とエネルギーの問題…時間の流れを川に例えるなら、未来に行くのは川の流れの速い所に行けば良い、でも過去はそうじゃない…水の流れに逆らって進む分より莫大なエネルギーが必要になる、しかも200年なんて時間を戻るなんて相当難しそうだけど」

ノボルの表情が曇る

カマーも意地悪な事を言ってしまったと思ったのだろう

カマー「まぁ、全く宛てが無い訳じゃないけど」

そう前置きをして話を続けていく

カマー「オシャレファイトの頂点、世界1位のオシャレファイター、誰もが憧れるオシャレマスターになればおそらく過去に戻れるわ」


ノボル「オシャレマスター?ですか?」


カマー「そうよ、オシャレマスターになれば世界中あらゆる店、施設は顔パス、使い放題!その気になれば国を買収して新たな法律を決める事も可能!オシャレマスターが行きたいと言えば1時間後には宇宙空間で地球を眺めティータイムをする事だって出来る…ノボル、あなたがオシャレマスターになって過去に行きたいと言えば、その瞬間から世界中のスーパーコンピューターがノボルの為に計算を始め、エンジニアがタイムマシンを作り、科学者が集い、世界中があなたの願いを叶える為に動きだす、そして1週間と待たずにあなたは過去に帰る事になるでしょうね」


ノボル「オ、オシャレマスターすげー!!」

ノボルは目を輝かせる

カマー「そして、オシャレマスターを目指すなら今は絶好のチャンス、日本最大クラスのオシャレファイトの大会と同時にプロファイターの登竜門、プロ試験が開催される、試験と言っても全国で生配信され優勝すれば賞金1千万とカリスマオシャレファイターの仲間入りが約束される」


ノボル(賞金1千万…母ちゃん、俺…大学蹴って未来でオシャレファイターになるよ!)


カマー「もちろん無理強いはしないけど…」

ノボル「やりマース!!!やらせて下さい!俺、絶対にオシャレマスターになって過去に帰ります!!」

ノボルの目が完全に¥になっていたのは気のせいだろう


カマー「そう!じゃあ私がエントリーシートを書いて出しておくわね!私の推薦にすればSEEDとして書類審査とオシャレ力測定はパスできるから!じゃあ!行って来るわね」ビューん


ノボル「あ、行ってらっしゃ…い」

出場が決まってからは電光石火の早業だった


カマー(ふっ…チョロいわね)


ノボル(なんか、騙された気がするー)ガーン

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