第2話 初めてのオシャレファイト
30分前
SHIBUYA駅前の喫茶店、テラス席
男と女とオカマの3人が眼光鋭く辺りを伺っている
異質、異彩
3人から発せられるオーラは他の客のそれとは全くと言っていいほど違っており、3人がただの一般人ではない事は誰の目から見ても明らかであった
男はまだ肌寒い季節の2月だと言うのにテラス席で真っ黒のブーメランパンツ一丁
しかし、全く寒そうに見えないのは太陽のような笑顔と鍛え抜かれた小麦色の屈強な肉体のせいだろう
若干、汗ばんで湯気が立ち上っている
まるで彼の周りだけ梅雨明け、夏の到来が来ているかの如くである、飲み物はプロテイン
そして、その屈強な肉体に負けず劣らずの鍛え抜かれた肉体のオカマ
紅一点の女性はそんな暑苦しい2人の事は我関せずといった雰囲気で淡々と緑茶を口に運ぶ
水の流れの如く静かな時間が彼女の周りを流れているかのような錯覚にさえ陥る
髪の色をピンクに染めた彼女はさながら堂々と佇む桜の木といった所だろうか
「今年もあんまり期待出来そうな新人はいないわね~」
オカマが目を見開き、通りを歩く人々を観察しながら呟く
「オシャレ力1030、870、8070…うわっ!オシャレ力5の人が歩いてる!あんな格好でよく外に出れるわね…」
※オシャレ力とはAI内臓のオシャレスカウター通称オシャウターを通して相手の格好良さ、可愛さ、知力、センス、女子力、男子力、果ては表情、台詞などを総合的に評価、数値化したものである、特に何もしてない普通の体型の男女の平均値がオシャレ力10と言われている、オシャウターは現在カラコンタイプが主流!今ならなんと定価1万円のところ!なななーんと!送料別!6980円でお買い求め頂けます!
「なぁカマーよ、大会前だっていうのに男漁りとは…ずいぶんと余裕じゃないか、それに新人なら大会の会場で見ればいいだろう」
屈強な男が少しトゲのある言い方でオカマに話かける
カマー「あら、いいじゃない?出逢いはいつだって突然なのよ!それにダルちゃん、あなたが私の相手してくれたっていいのよ?」ウフッ
相変わらず女性は緑茶を飲む事を止めない
ダル「ごめん被る」
カマー「あっ!何あの子!」
外を眺めながら急に叫ぶ
カマー「オシャレ力No data測定不能だって」
女性は緑茶をおかわりするために店員を呼び止める
ダル「オシャウターの故障か、ヴィンテージアイテムを持っていたんだろう、別に珍しい事じゃないさ」
カマー「うーん?足の先から頭まで全てヴィンテージよ!それにあの芋っぽい感じ…私好みだわ!」
緑茶を飲む手がピタリと止まる
ダルが話かけるより速くカマーは支払いしておいてと言い残し店を後にしていた
「大変ね、あの子…可哀想」
外に目をやり女性は呟いた
ダル「…あぁ」
カマー「HEY BOY!」
人混みの中でも一際通るその声はノボルの背後から掛けられた
反射的に声のする方を振り返るノボル
第一印象は紫の孔雀
高いピンヒールの付いたブーツに筋肉質な脚は綺麗に脱毛!美脚!ホットパンツのホックは外されチャックだけが上げられている!そして上半身は裸に紫色のふわふわしたファーマフラーを巻き付け乳首は見えそうで見えないよう隠れている!髪型は坊主頭に幾何学模様が彫られ
そして一際目を引くのが、背後にふわふわと浮かぶ沢山の孔雀の尾羽のようなグラマラスな目
更に、それに負けない本人のアイシャドウ
その姿を見た刹那ノボルは
(関わってはいけない!)
本能が告げる!
だが!時既に遅し!ノボルとカマーの周りにはギャラリーが出来はじめていた
ギャラリー「なんだなんだ?」
モブA「うわー!2222年読者とAIが選ぶ日本のオシャレ力トップ10のカマーがいるじゃん!すげー初めてみたー」
モブB「えっ?カマーってビューティーメーカーのカマー?私ファンなんです!きゃー!」
そんな観衆達を気にもせずにカマーはノボルに話かける
距離残り25メートル
カマー「そう!そこのベビーフェイス!その格好を見る限り、大会出場者のようだけど何かお困り?」
スタスタとノボルに近づく
ノボル(なんか有名な人なのか?)
距離残り20
ノボル「い、いえ…お気になさらず」
咄嗟に踵を返し立ち去ろとする
距離残り0
カマーの顔面がノボルの進行を妨げる
ノボル(…速い!そして近い!俺の反応が一瞬遅れていたら…!奪われていた!唇!)
カマー「なかなか良い反応ね、ベビーフェイスじゃなくてチェリーボーイだったかしら」フフッ
ノボルのひきつった顔、心臓が途端にバクバクと回転数を上げる
カマー「大丈夫、何も心配いらないわ…ただちょっとあなたの事を知りたいだけ、喋らなくていい」
モブ之進「カマーが男ナンパしてるぞ!」
モブ三郎「あのカマーに目をつけられるってこの男何者だよ」わーわー
モブ光國公「あの男オシャレ力測定不能…じゃと…!?」
モブ三郎「えっ?それってヴィンテージアイテムって事?」
モブ光國公「いかにも、しかもあの男ヴィンテージアイテムで全身コーデをしておる」
うっかりモブ兵衛「なんだって~てぇへんだ!てぇへんだ!」
カマー(ギャラリー達もこの子の重大さに気がついたみたいね…ヴィンテージアイテム、測定不能それはつまりオシャウターでオシャレ力を測定する以前の時代に作られたアイテムという事、故にNO dataそれはつまり今から最低でも150年以上前のアイテムという事に他ならない!オシャレに関心が高まる現在においてヴィンテージアイテムというだけで価値は高まる一方、熱烈なコレクターさえ存在する、しかも全身コーデともなれば、もはや価値は少なく見積もっても10億は下らない、そんな格好をするあなたはいったい何者なの?徹底的に調べさせてもらうわよ!)
ノボル(なんか勝手に周りが盛り上がってるー)ガーン
カマー「自己紹介がまだだったわね、私の名前はカマーみんなからはそう呼ばれているわ…よろしくね」
ノボル「あっ…俺の名マ…(口が動かなくなった!なんだコレ?)
カマー「喋らなくていいって言ったでしょ」
そういい放つとカマーは自分の口に人差し指を当てる
刹那カマーを中心として風が動き出す
カマー「オシャレファイトはもう始まっている…」
ノボル(オシャレファイト?なんの事だ?)
ギャラリー「オ、オシャレファイトだぁ~~!!!」
今日一番の歓声が上がる!熱狂的!途端に沸き上がるカマーコール!
ギャラリー「カマー!カマー!ハマー!」
カマー「って言ってもざっと見積もった所あなたのオシャレ力は3万程…私のオシャレ力は10万(大分手加減して)…この差じゃ一方的ね、そうね…あなたが指一本でも動く事が出来たらあなたの勝ちでいいわよ」
この時ノボルは動かない体に焦りを覚えながらも急にぷよぷよ勝負を挑まれる時の気持ちってこんななんだろうな…とふと思っていた
カマー「不思議そうね、今あなたの体が動かなくなってしまったのは私とのあまりのオシャレ力の差に体が緊張して硬直してしまったから…」
ノボル(緊張?そんな生易しいもんじゃない!まるで見えないチェーンでガチガチに縛られたみたいだ!)
不敵に笑うカマー
カマー「気になる男子はチェック済み!!!(マジカルアイシャドウ)」
※マジカルアイシャドウは対象者の年齢、血液型、好きな食べ物、性癖、持病、オシャレ力、アイテム情報など本人さえ知りえないあらゆる情報を知る事が出来るカマーのオシャレ技である、半径5メートル以内の男にしか使えない
先手を打ったのはカマー、技の名前を高々と叫びノボルの周りを品定めをするかの如く回りはじめる
その姿は見ている者には今夜の夕飯を迷いながらスーパーを徘徊する、主婦のように映りギャラリーを更に熱狂させた
ギャラリー「うぇーい!!女子力高いぜカマー!今夜のオカズはカマーで決まり!!」
おそらくギャラリー達の間での決まり文句なのだろう
ノボル(…!!?)
カマー(何!?この子!ジーンズにも革ジャンにも全てのアイテムに幸子325の刺繍が入ってるじゃない!古今東西、森羅万象のオシャレに精通している私ですら知らないメーカー!一般的にヴィンテージアイテムは有名なメーカーよりマイナーなメーカーの物の方が現存する数が少なくコアなファンもいて値段が上がりやすい!しかもこの刺繍、まさかの手縫い?よく見れば、縫い目も均等ではない?つまりこのアイテム…職人による手作り一点モノ!そんな代物この機械化の進んだ現在において、価値なんて到底付けられない!!おそらくこの子の全身コーデの価格は天文学的数字!即博物館行き!国宝級!信じられない…しかもなんて保存状態が良いの?それにオシャレ力3万~30万!?幅があるのはオシャレ初心者にありがちな事だけど、それを補うほどの高いポテンシャル!30万のオシャレ力が常時出せたらトップクラスのオシャレファイターと遜色無いレベルじゃない!いや真に驚くべきはそこじゃない…名前、異仲ノボル18歳…誕生日が200年以上前?どういう事?私の技が間違う訳はない!つまりノボルは時間旅行者?タイムトラベラー?そういう事ならこの全身コーデにも納得がいく、とにかくこのまま放置するのはあまりにも危険すぎる…!)
カマー「このままお持ち帰りさせてもらうわよ!!」
カマー「男子一本釣り!!!(チェーンofファーマフラー)」
※ファーマフラーを使ったオシャレ拘束技、対象を縛り上げ自由を奪う、そうして動けなくなった男子を巣に運ぶのである、その姿は泥棒かサンタクロースを彷彿とさせる…男にしか使えない
ノボル(…まただ!!)
ギャラリー「カマーの男子一本釣り決まった!!!釣り上げる瞬間にマグロ漁船が見えた!よっ!男子力も高いぜ!」
カマー「私の男子一本釣りから逃れられた者はいない…悪いわね、このオシャレファイト私の勝ちよ」
ファーマフラーを使った後だからだろう、左腕で乳首を隠し決めポーズをする
この瞬間ギャラリーの誰もがカマーの勝利を信じて疑う事はなかった
沸き立つギャラリー!わーわー!カマー!カマー!ハマー!
ノボル(何故だ…!何故なんだ…!!)
ノボル「ウォーーー!」
雄叫びと共にファーマフラーを引き裂きノボルが動き出す
カマー(どうして!いったいどうやって!?何故動けるの?)
刹那ギャラリーと一緒に動きを止めるカマー
ノボル「必殺技の技名と叫ぶ方が逆だろ?!!!」
ノボル「バンジーガム!(伸縮自在の愛)みたいにさー!!」
ギャラリー「ざわざわ…そういえば全然気がつかなかった…ざわざわ」
カマー(ッ!!!私の男子一本釣りが解ける条件は2つしかない…1つは私が自分の意思で解除する事、もう1つは私よりオシャレ力を高める事…!!つまりノボルはツッコミをする事により3万だったオシャレ力を爆発的に底上げし私の10万を抜き去った!?オシャレファイト初心者にそんな事が可能なの?私はとんでもない逸材を見つけてしまったのかもしれない…)
カマーが拍手をする
カマー「あなたの勝ちよノボル」
ノボル「あれ?俺名前言ったっけ…」
カマーの拍手に同調するようにギャラリーも称賛の拍手をノボルに送る
カマー「この世界はオシャレな者が全てよ、あなたはこの世界に、私に認められた」
ノボルに近づくカマー
「歓迎するわ、過去からのスペシャルゲスト」
耳打ちをするように囁く
カマー「とりあえず私について来なさい、今のあなたとってもカモみたいだから」ウフッ
小さくウィンクをして歩き出すカマー
呆気にとられるノボルがギャラリーを見渡すと数人目の色を変え殺気立っている者が見受けられる
聞こえてきた会話から、自分の置かれた状況を理解しあわててカマーの後を追うノボル
カマー「良かったわね、身ぐるみ剥がされてケツ毛まで抜かれる所だったわよ」
どうやらノボルはカマーに助けられた形になったようだ
その様子の一部始終を喫茶店から見ていた2人
ダル「あっ…カマーが男お持ち帰りした」
「…男なんてみんな不潔ね、あんなオカマと寝るなんて」緑茶を飲みながら眉一つ動かさず2人は見送った
ダル「そろそろ会場に向かうかサクラ」
サクラ「もう一杯緑茶飲んだら…」
ダル「…うむ」
予告 オシャレファイターとしてカマーに目をつけられてしまったノボルは日本最大クラスのオシャレファイト大会IN SHIBUYAに出場する事になってしまうのか?しまわないのか?予定は未定!果たして生きて明日を迎える事が出来るのか!?
次回!主人公補正でなんとかしよう!乞うご期待
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます